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やくもあやかし物語  作者: 大橋むつお
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06『マップメジャー・2』


やくも・06『マップメジャー・2』  





 今日も杉野君と二人。



 マップメジャーで遊んでいる。


 いろんな地図で試しては、小さく「へー」とか「ほー」とか言う。


 そんなに面白いというわけでもないんだけど、こういうことに程よく熱中していた方が距離がとれるし、ひょっとしたら可愛げのある女子と思われるかもしれない。


 程よい可愛げというのは大事なんだ。ハミゴはごめんだし、へんにベタベタされるのもいやだ。ちょっと愛嬌のあるNPCぐらいの存在でありたい。杉野君はあいかわらずラノベばっか、その横に座っているだけと言うのは、三日目にもなるともたないもんね。変に話しかけるのもあれだし……それに、杉野君はラノベ読みながら、時々、時々だけど、ニヤッと笑ったり、ポッと頬を赤くしたりする。人間関係もほとんどないのに、そういう人の横には、ちょっとね……。


 国土地理院の地図は、この街しか分からない。


 他の地図は知らないとこばかりなので興味が湧かない。


 それで、地図の付いている本を適当に出してはマップメジャーを転がしてみる。


 東京大阪間は550キロと出てきた。逆に大阪東京間で計ると570キロになる。


 まあ、アナログなんで転がし方によって出る誤差なんだろう……三回測ってみる、数キロの違いは出てくるけど、どう測ってみても、大阪からの方が遠い。


 歴史の本を出して、江戸大坂間を測ってみる……縮尺が書いてない。ま、適当に……140里。


 え?


 140里という数字が地図の東海道の上に浮き出てきた。


 変だよね、ふつうマップメジャーの文字盤に矢印が指すんだ。それが地図の東海道に沿ってホワ~っと現れた。


 十秒もたつと消えてしまう。もう一度あてがうと、また出てくる。


 これは、アナログに見えてたけど、デジタルなのかもしれない。ほら、バーチャルキーボードってあるじゃない。パソコンの前にキーボードが投影されたのをリアルキーボードみたく操作できるやつ。


 今度は戦国時代の地図。


 信長のいる京都と秀吉のいる備中を測ってみる……100と出てきた。むろん地図の上。


 光秀のいる丹波と京都、めちゃくちゃ近いにちがいない。近いからこそ、光秀は謀反を起こす気になったんだ……あれ?


 ∞?


 8の横倒し……無限大だと分かるまで、数秒かかった。


 無限大って?


 戸惑っていると――心理的距離――と出てきた。


 逆に京都から計ってみる……110?


 ああ、信長は秀吉と同じくらい光秀を信用していたんだ。光秀が一人距離感じてたんだよなあ。


 レトロなスタイルしてるのに、このマップメジャーはスゴイ!



 今度は、ポケットから図書委員のローテーション表を出す。



 図書部の先生と自分を測ってみる……350、無限大よりはマシだけど、まあ、こんなもんか。


 杉野君とわたしを測ってみる……30……うそ!?


 方向を逆にして、わたしから杉野君……180? これって、杉野君がわたしを?


 あり得ない、今もカウンターでラノベに夢中だ。



 う~ん



 ロ-テーション表の裏に、うちの家族を書いてみる。わたしを中心に、お爺ちゃん、お婆ちゃん、お母さん。


 お爺ちゃんが100 お婆ちゃんが90 お母さんが20   


 ま、こんなもんか。


 逆にわたしからの距離を測ってみる。


 お爺ちゃんへは2000 お婆ちゃんへは1800 お母さんへは800  


 なんだこれは……。



 すみませーん、貸出しおねがいしまーす。



 カウンターで声。女子がわたしを呼んでいる。杉野君はトイレにでも行ったんだろう。


「はーい、ただ今」


 カウンターに戻って貸し出し手続きをしてあげる。


 図書カードをボックスに入れていると、ハンカチを仕舞いながら杉野君が戻ってきた。


「あ、ごめん……」


 自分が席を立った間に貸し出しがあったので、ポッと顔を赤くしている。


「ううん」


 180を100くらいに縮める笑顔で返事して、マップメジャーに戻る。


 

 あれ? どこを探してもマップメジャーは見当たらなくなってしまった。



 少し遅れて完全下校のチャイムが鳴った。


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