57『ほーむあろーん記念日』
やくもあやかし物語
57『ほーむあろーん記念日』
お母さんと引っ越してきて八カ月がたった。
ほんとうは半年ぐらいで、しみじみと振り返るつもりだった。
いろいろ、あやかしたちが出てくるけど、落ち着ける家だと思ったんだよね。
家の広さとか古さがいいんだけど、なにか家そのものがお母さんのお腹の中という安心感。
だから、半年くらい経ったら、お茶でも飲みながらしみじみするような予感があった。それが、毎日おもしろいので、気が付いたら八カ月。もっと調べたら、なんと、八カ月と八日。八が並んだ。
それでね、お茶を淹れると茶柱が立って、ささやかな湯気の向こうに、ちょっと前のわたしが浮かび上がった……それは、初めて、ひとりでお留守番をした日だった……。
今日から変わるのかと思ったら予告だった。
年号よ、年号。
うちは、わたし以外は昭和生まれ。だから、昭和から平成に変わるのを経験している。
先代の天皇陛下は病に臥せってらっしゃって、一月の何日だかにお亡くなりになって年号が変わったんだそうだ。
だから、新しい御代になってもお祭り騒ぎという雰囲気ではなかったらしい。でも、昨日は一日日本中がウキウキしていた。
テレビで言ってたけど、年号と言うのは日本にしかないらしい。ネットで見ていたら――新年号おめでとう! 時間に名前が付いてるなんて、とっても素敵!――というアメリカ人のコメントがあった。
そうなんだ。
年号と言うのは、時間の名前なんだ。
夕べは、お爺ちゃん・お婆ちゃん・お母さんが三人で盛り上がっていた。三人とも昭和生まれだから、日ごろは見せたことのない連帯意識みたいなので乾杯してた。「あるある」「言える言える」とか言って互いの共通点を面白がってた。
ちょっと疎外感だったけど、わたしもいつか家族を持ってさ「令和は楽しかったねえ」とかね。
こういう帰属意識って日本人しか感じられないことなんだよね。
お母さんは、いつものように仕事。
お爺ちゃん・お婆ちゃんは、お友だちと盛り上がって出かけて行った。電話で新年号の事を話していたら、急きょ年号同窓会みたいに話が出来あがってしまったんだ。
したがって、今日は、だだっ広い家にホームアローン。
ううん……ひらがなのほうがいいな。
ほーむあろーん。
これだ!
ほーむあろーん記念日だ(^▽^)/。
お昼ご飯はお蕎麦だ。
鍋一杯にお湯を沸かして一束の信州そばをぶち込む。お蕎麦は、すぐにフニっとなって、生き物の如く鍋の中でのたうち回る。たかが茹でるって作業なんだけど、元気が出てくる光景だ。面白がって火を強くすると盛大に湯気が湧きたつ。
湯気の向こうに人が立った。
「あ、えりかちゃん!」
えりかちゃんが、ザルを持ってニコニコしている。
「ふきのとう持って来たわよ」
えりかちゃんのザルには赤ちゃんの拳くらいの芽が並んでいた。
「ふきのとう?」
「うん、天ぷらにしてお蕎麦に添えたらいいと思って」
あ、蕎麦は一人前しか茹でてない。
「ちゃんと、二人前入ってるよ」
「え、ああ、ほんとだ」
これくらいの不思議さには動じなくなってきている。
ふきのとうを見るのは初めてだ。色と言い形と言い、なんだかおとぎの国か異世界のお野菜と言う感じ。
「アク抜きしてあるからね、このまま天ぷらにしたらできあがり」
「アク抜き?」
「アク抜きしないと毒だからね」
手際よく衣をつけて天ぷらにする。お蕎麦も頃合いに茹で上がって『信州蕎麦のふきのとうの天ぷら添え』が出来あがる。
お盆に、お蕎麦とふきのとうの天ぷらを載せて裏庭へ。
裏庭は土筆を取って以来。土筆の時は地べたばかり見ていたけど、あちこちに桜が五分咲きになっている。
「満開を待ってると、ふきのとうが育ちすぎるからね」
言い訳じみたことを言うえりかちゃん。
「いいよいいよ、満開ばかりが桜じゃないし、桜ばかりが春じゃないしね」
瞬間、桜たちが女の子に擬人化。困ったような、仕方ないなあというような表情になったけど、直ぐに桜に戻った。
「フフフ、二人だけで頂きたいもんね」
えりかちゃんが何者か聞いてみたいという気持ちもあったけど、素直に春を楽しむことにした。
平成最後の春は、もうすぐ盛りになろうとしていた……ほーむあろん記念日だった。
☆ 主な登場人物
◦やくも 一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
◦お母さん やくもとは血の繋がりは無い
◦お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
◦お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
◦小出先生 図書部の先生
◦杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
◦小桜さん 図書委員仲間
◦あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石




