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やくもあやかし物語  作者: 大橋むつお
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37『お母さんの性癖』 


やくもあやかし物語


37『お母さんの性癖』     





 風邪ひいて寝込んでしまった。



 建国記念の日にお片づけをした。ジジババが手伝ってくれたのはいいけど、ぎっくり腰の前科があるのと、あれこれ部屋のシミとか日に焼けた痕とか古い電話のコンセントとかに「へーーー」とか「ほーーー」とか感心して座りこんじゃうもんだから、けっきょく仕上げは自分でやった。


 けっこうな労働だったので、それなりに汗をかいたんだけど、そのままにして居眠りしたのが良くなかったんだよね。


 あれが原因だったのかもしれない。見た夢も受話器の中から小さな電話交換手の女の子が出てくるって妙なもんだったし。


「あー、それって、受話器の中にゴキブリとか住んでるのかもよ(^_^;)」


 お母さんが嫌なことを言う。


 普段かまってやれないということで、まる一日仕事休んで看病してくれる。してくれるのはいいけど、そういう余計なことを言うんだ。言うだけじゃなく、電話の話に興味持ってしまって、ドライバー持ってきていじくり倒す。


「ゴキブリは住んでないようだけどホコリだらけだね」


「壊さないでよ」


「え、これ通じるの?」


「ツーーーーーーって音はするよ」


「どこか掛けた?」


「ううん、天気予報とか掛けて試そうかと思ったんだけど……」


「取りあえずはクリーニングだね」


 そう言うと、お母さんは殺虫剤スプレーを持ってきた。


「あ、そんなのかけたら殺虫剤臭くなる!」


「ただのエアークリーナーよ」


 そう言うと、注射するように剥き出しになった電話機パーツの中をスプレーしまくった。


 シュッ シュシュッ シューーーー!


「出てくる出てくる、ほんとホコリ高き電話だあ!」


 ホコリだか虫の死骸だか分からないものがポロポロと杯に二杯ほど出てくる。お母さんは、それをティッシュの上にかき集め、ピンセットにルーペを持ち出して観察し始める。


「もーー、バッチイからやめてよお」


「……大丈夫、なあるほどお……機能はシンプルなのに無駄に複雑だね、昔の機械は……」


 お母さんには、こういう機械フェチなところがある。風邪で寝込んだ娘の横でやることじゃないんだろうけど、お構いなし。


 キッパリ言うと止めてくれるんだけど、すごく悲しい顔するから言わない。お母さんが楽しそうに熱中してる姿は嫌いじゃないし。


 あの交換手さん吹き飛ばされないかなあ……まだ机の裏側とかなのか、姿を見ることは無かった。


 というか、夢で見た交換手さんを心配するなんて、わたしも夢フェチなのかもしれない。


 電話を元通りにしながら昔の家の事を話す。


 必要なものは持ち出したけど、まだ、チマチマと残したものがあるみたい。


 前の家は、お父さんとの離婚が決まった時に売りに出してるんだけど、まだ買い手がつかないようだ。


「そうだ、いっぺん見に行ってくるよ!」


 思い立ったらすぐの人なので、わたしの熱が上がってないことを確認してから出かけて行った。



 それが三日前のことで、きょう学校から帰ったら段ボール箱が届いていた。



 前の家に残っていた最後のイロイロが箱詰めにされていた。


 いちおう、ザっとだけ見る。


 ああ、ベランダの物置に突っ込んでいたものだ……どうも、物置ごと忘れていたみたい。


「見つけた時はお宝に見えたんだけどね……」


 張本人のお母さんは、もう興味を失ったみたいで、チラ見しただけで立ち上がる。


 わたしの部屋にオキッパにしないでほしいんだけど。


「来週、燃えないゴミだったなあ……」


 それだけ言うと出て行ってしまった。


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