144『チカコ』
やくもあやかし物語
144『チカコ』
またわたしの姿で……
ちょっと辟易、ちょっと親しみ……そんな感じで、のっけに言ってしまった。
夢の中に、二丁目断層がやってきたのだ。
「また、いずれって言ってただろ」
「でも、わたしと同じ姿かたちは気持ちが悪い」
「この姿が、いちばん気持ちが伝えやすい。我慢しろ」
「で、なんなの? あしたは一時間目が体育だから、しっかり寝ておきたいのよ」
「時間はとらせない」
「……チカコのことなの?」
「ああ、そうだ。これを見ろ……」
断層が指を回すと、立派なお墓が並んでいるところに来た。
重々しい塀で囲まれていて、広さは、小学校のグラウンドほどもあるんだろうか……御霊屋って言うの? 神社のお社みたいなのや、お墓を並べた石段みたいなの、その間には、古い公園みたいに木々が茂っていて全体の様子が知れない。
お墓には、文字の刻まれたのや、石碑が付属していたりするんだけど、字が難しい。
~院とかが多いんだけど、~院なんて、病院とか修道院とかしか浮かんでこないし。
「こっちこっち!」
断層は、さっさと行っちゃって、木とお墓の向こうから手を振ってる。
「ここって、歴史上の人物とかのお墓?」
「うん、徳川家累代のお墓」
「徳川!?」
「えと……これだ、これ」
断層が指差したのは、石段の上、神社の玉垣みたいなのに囲まれた二つのお墓。
「向かって右側が、家茂くん、左側が奥さんの和宮さん」
「ああ、なんか歴史で習ったかも(^_^;)」
徳川さんなんて、家康と水戸黄門ぐらいしか知らないし。
「和宮は、天皇さんの娘で、京都から嫁いできたんだよ」
なんか、呼び捨てしてるし。
「すでに婚約者がいたんだけどね、婚約破棄させられて十四歳で江戸にやってきた」
「十四歳……わたしと同い年だ」
結婚は法律的にも、たしか十六からだよ。十四なんてありえない。
「だよね、和宮自身、そう思ってた」
「いやいやお嫁さんになったの?」
「まあね……明日は江戸に入るという前の日に、ボクの目の前で休憩したんだ。ほら、ペコリお化けが出るあたり」
「ああ、坂を上りきったところ」
越してきたころ、大きな家が取り壊し中で、ガードマンの格好したペコリお化けに会ったのが、あやかし付き合いの始まりだった。
ちょっと懐かしい。
「ちょっと可哀そうに思ってな、助けてやることにしたんだ」
「婚約破棄とか!?」
「それはできない。天皇が決めたことだからな」
「じゃあ?」
「ちょっと、お墓を透視しよう……」
断層といっしょにお墓を見ると、お墓の中で左側を下にした和宮さんが見えた。
とっくに骨になってるけどね(^_^;)。
あれ?
「気が付いた?」
「うん……左手首が無い……え!?」
「そうだよ」
「でも、でもでも、うちのはチカコだよ、和宮じゃないよ!」
「和宮の真名は親子と書いてチカコなんだ。皇族のお姫様って、いまでも~宮~子だろ。秋篠宮真子とかさ」
「あ、ほんとだ……」
そうだよ、チカコが最初に現れた時って、左手首だけだった!
「左手に思いを込めて、それを預かったんだ。左手に青春させてやることにしたんだ。それで百ン十年後、やくもに預けたってわけさ」
「で……どうするの?」
「ありがとう……やくもは、十分親子に青春させてやってくれたよ」
「それって、つまり……」
「うん、帰してやっておくれ」
断層は、とっても思いやり深い笑顔で、やさしくお願いするように首を傾げた。
わたしと同じ顔で……でも、わたしには、まだできない笑顔で……。
あくる朝、目が覚めると、机の上のコタツには、御息所だけが寝息を立てていて、チカコの姿は無かったよ。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生 図書部の先生
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間
あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王




