133『エマージェンシー!』
やくもあやかし物語
133『エマージェンシー!』
あ、カップ麺忘れた!?
思い出したのは火星の脇を抜けて木星軌道に向かっている時。
コルトガバメントには仁義礼智信のカップ麺のエッセンスを装填しなきゃならないんだ。
夢見てる間に来てしまったから、そういう準備をする余裕もなかった。
どうしようとアセアセになっていると、チカコと御息所がポケットの中でゴソゴソ。
「ちょ、なによ、くすぐったいよ(#^O^#)」
「「ほれ!」」
ふたり同時に飛び出て示したものは……ドングリ?
「なに言ってんの、弾よ、弾!」
「コルトガバメントの弾に込めておいたわ!」
「「義のエッセンス!」」
「あ、ありがとう!」
カチャ カチャ
弾倉に弾を込めていると、アキバ子が想念で語り掛けてくる。
―― じつはね、夜中におなかの空いた二人が、こそっとカップ麺を開けてしまったんですよ ――
「え!?」
―― 心で話して、二人に聞こえるから ――
―― それで、弾が入っていたの? ――
―― ま、そういうわけです ――
―― でもさ、なんでアキバ子が知ってるわけ? ――
―― わたしはアキバ子です。空き箱さえあれば、どこからでも覗けます(^_^;) ――
―― あなたって、ひょっとしてアキバの妖精じゃなくて空き箱の妖精なんじゃない? ――
―― アハハ、アキバはなんでも詰め込める巨大な空き箱です ――
なんか、ちょっと哲学的かも。
アキバ子と心の会話をしていると、胸元でゴニョゴニョと声。
『やくもの胸が大きかったら、弾なんか持ち込めないとこよ』
『そもそも、わらわや、チカコが潜り込むこともできなかったぞえ』
『そうよね』
『やくもも第二次性徴期、対策を考えなくてはならないかも知れぬ』
『それは大丈夫、やくものは、これ以上大きくはならないし』
『そんなことは無いぞよ』
『え、どうして?』
『どんなペチャパイでも、子を授かれば、天然自然に大きくなるものよ』
『え、そうなの!?』
『そうじゃ、あたりまえじゃろうが。あ……すまぬ(;'∀')、チカコは結婚はしたが、子はなしておらなかったなあ』
『ちょ、御息所(;`O´)o!』
なんかすごい話になってきたので怒るのも忘れてしまった。
『エマージェンシー! エマージェンシー!』
ロケットのAIが警報を告げる。土星にはまだ間があるのに、なんだろう? キャビンのみんながコンソールを注目する。
『ロケットのバランスが崩れてきています、乗員のみなさんは、二段目のキャビンに移ってください』
みんな一段目のキャビンに入ったものだから、ロケットの頭が重くなって軌道を離れ始めているんだ。
「すぐに移りましょう」
トラッドメイド(滝夜叉姫)が立ち上がる。赤メイドは二段目へのハッチを開け、青メイドはアキバ子を抱えてくれる。やっぱり明神さまのメイドなので、テキパキと連携がとれている。
わたしは、カバンを抱え、チカコと御息所が落ちないように気を付けながら、遅れてハッチに向かう。
ガシャン!
ええ!?
ハッチの向こうとこっちで声が上がる。
わたしが、ハッチに入ろうとしたら、いきなり閉じてしまったんだ!
『二段目を切り離します 二段目を切り離します 危険ですのでシートについてください』
AIが、ことさら機械じみた警告をする。
「ちょ、ちょっと!」
ハッチの向こうとこっちで抗議の声を上げるけど、それには応えないで、無情にも二段目が切り離される。
ああああ!
切り離された二段目がみるみる小さくなっていき、わたしは、胸ポケットのチカコと御息所といっしょに、速度を増して土星へと飛んでいく!
みるみる赤茶けた火星が小さくなっていった……。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生 図書部の先生
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間
あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王




