122『裏アキバからアキバの空へ』
やくもあやかし物語
122『裏アキバからアキバの空へ』
しゅんかん夢をみた。
ピンポン玉くらいのハートが何千個も集まって、その上に乗ったわたしは、ホワホワとアキバの上空に浮かんでいく夢。
眼下にアキバの街が広がっている。
最初は、日曜日とあって、アキバの街は人で埋め尽くされて、アニソンやらお店のテーマ音楽、メイドさんたちがお客さんを呼び込む声とかが潮騒のように聞こえる。
「あれえ、やっぱり普通にアキバだよ」
ポケットから頭を出した御息所が「ちがう」と言う。
「どうちがうの?」
「ようく見てみ」
言われて目を凝らすと、いわゆるアキバエリアの外周は古代ローマのような石壁に囲まれ、武装したメイドさんたちが手に手に武器を持って石壁の上の配置についていて、東西南北にはティアラを煌めかせたメイド将軍の姿も伺える。
視線をアキバの街に戻すと、もう日曜のアキバの賑わいは掻き消えてしまって、所どころに予備軍的に控えているメイド部隊が見える。部隊は、兵士の他に白魔導士やら錬金術師の部隊も見えて、なんだか、ゲームの序盤のムービーみたい。
「すごい夢ね」
「いいえ、夢ではありません」
胸元から声がしたかと思うと、マフラーをかき分けるようにしてアキバ子が現れた。
「あ、そこは特等席、わたしでも遠慮してるのだぞ」
御息所が苦情を言う。
「慣れないもので、より確実なところから出させてもらいました(^_^;)」
「で、無遠慮なアキバ子が、なんの用だ!?」
「ここからが、御息所さんの出番なんです!」
「「ここから?」」
御息所と声が揃ってしまう。
「はい、御息所さんは深く夢の中に潜り込む術に長けておられます。自分の夢にも人の夢にも」
「それって、わたしの古傷をえぐってない?」
「その眼で下界のアキバをよく見てください。わたしたちには見えない、アキバに隠れた業魔の姿が見えてくるはずです」
「そうなの?」
「はい、やくもさま」
「しかし、漫然と見るには、広すぎるわよ、アキバは」
「はい、そこで役に立つのは、やはり御息所さんの学識なのです」
「そ、そりゃ、東宮妃にまでなったわたしだから……でも、そんなの千年も昔の話で……」
「御息所さん、ここは神田の東にあたります」
「そうね、それが?」
「最初に退治された業魔は神田の南南東、神田川の主でした。南南東は巳の方角」
「あ、それで蛇の姿!?」
「はい、やくもさま」
「では、東だから……寅……虎?」
「いいえ、アキバは南北の広がりもありますから、丑、虎、卯をも包み込んで超えるものです」
「あ、青龍か!?」
「え、セイリュウ?」
「四神よ。東西南北の四方の守り神。北の玄武、南の朱雀、西の白虎……東の青龍……青龍か!」
「青龍、ブルードラゴン!?」
「青龍相手に戦う力は無いわよ」
「いいえ、まだ将門さんの体から出たばかりの業魔。最終形態の龍にはなっていないと思います。龍を意識していては見落としてしまいます」
そうか、業魔の正体を見破るのに御息所の力が発揮されるんだ!
「青龍……青龍……」
その時、ちょっと風が吹いて、わたしたちを載せたハートは南に向いて、間近に東京湾が広がって見えた。
「そうだ、そうよ、江戸前の海の青龍、青龍蝦……シャコ!」
ズワワ~ン
アキバの空に鈍い音が響いたかと思うと、巨大なシャコが現れた。
「「「うわあ……」」」
ちょっとアノマロカリスに似ていると思った。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生 図書部の先生
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間
あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 メイド将軍 アキバ子




