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やくもあやかし物語  作者: 大橋むつお
118/161

118『将門の病室・1』 

やくもあやかし物語


118『将門の病室・1』 





「滝夜叉からもお聞き及びの事とは思うが、儂は病に侵されておる」


「はい、見た感じ、かなり……」


「さよう、このままでは寝たきりになって神としての実態を失う」


「実態を失う?」


「はい『お隠れになる』と世間では申します」


 死ぬのと、どう違うのか分からないけど、重ねては聞かない。それをどうにかしろというのがお願いには違いなさそうだし。


「見ていただこう……これ」


「「はい、将門さま」」


 枕もとのメイドさんを促して、寝間着の上をはだけさせる。


 ワア(>艸<)!


 露わになった身体は、まさに骸骨に渋皮を張ったみたい。


 それに、体のあちこちに貼ってあるのは……。


「伊勢神宮のお札!」


 御息所が目を見張った。


 そう言えば、御息所は斎宮になる娘について伊勢に行っていたはず。間近で神事を執り行う斎宮を見ていて、ピンと来たのに違いない。


「父上の体から病を吸い出した痕に貼ってあるのです」


「吸い出した痕に?」


 ちょっと不思議だ。


「まだ病が体の中にあるのならともかく、吸い出した痕に貼るんですか?」


「不思議に思うのも無理はない。わが身から吸い出された病たちは、すぐに鬼となって散っていったのでござるがな。いつ何時、戻ってきて、この身に入り込むかもしれぬので、滝夜叉が貼ってくれたのでござるよ」


「そうなんだ……」


 なにごとも聞いてみなければ分からないものね。


「お札を貼っていなければ、病たちが再び憑りついて、今ごろはお隠れになっていたでしょう」


「「「いかにもいかにも」」」


 滝夜叉姫がしみじみ言うと、メイドさんたちが、揃って頷く。なかなかの連携ぶり。


「やくも殿、儂の体から出て行った病たちを退治してもらいたいのじゃ」


「は、はい(;'∀')」


「儂の体を出た病たちは、儂の匂いをまとって、関八州で悪さをはたらいております。それが、里見の者たちは『将門が荒ぶる神』となって悪さをしていると思い込んでおるのでござる。この身の潔白を……ゴホンゴホン」


「父上、ご無理をなさっては」


「いや、やくも殿には、きちんと了解してもらわなければならぬ」


「一個、質問いいですか?」


「なんなりと」


「お身体から病を追放して、それでも、良くならないのですか?」


「それは……ゴホンゴホン」


「父上……それは気の問題なのです」


 咳き込んだ将門さまを滝夜叉姫が介抱する、ちょっと長く話しすぎたかな。


「気の問題ですか?」


「はい、御息所さま。父は千年以上も関八州の総鎮守を務めておりますので、責任感が強すぎるのです。大丈夫ですよ、父上、このあとは、わたしが……」


「すまんなあ、滝夜叉……」


「父上のためにも、この関八州のためにも、なにとぞよろしくお願いいたします」


「はい、微力ですが、大阪では酒呑童子もやっつけましたし!」


 思わず、コルトガバメントを構えてしまう。


「おお、これは頼もしい!」


 パチパチパチパチ


 滝夜叉姫がメイドさんたちといっしょに暖かく拍手してくださる(^▽^)。


「あ、やくも、ちょっと構え方が……」


「え、違った?」


「こういうふうに……」


 御息所が、後ろから手を添えて構え方を直してくれ……え?


 ドッキューーン!


 わたしの体ごと銃を向けさせたかと思うと、滝夜叉姫めがけて引き金を引かせた!


 グエ!


 至近距離から心臓をぶち抜かれて、滝夜叉姫はカエルが潰されるような悲鳴を上げて部屋の隅まで吹き飛んだ。他のメイドさんたちは、固まって言葉も出ない。


「「何をなさいます!!?」」


 銃声を聞きつけた赤・青メイドさんが、武器を手に現れて立ちふさがった。


「おのれえ……!」


「やはり、うぬは悪霊であったか!」


 二人は本性を現すツノまで見せて、牙をむく。



「静まれ……みなのもの」



 将門さまが、骸骨のような手を挙げて制した。


「なにかお考えがあってのことだろう……御息所の目に邪悪な光は無い」


「みなさん、滝夜叉姫をごらんになって……」


 キャーーー!


 メイドさんたちの悲鳴が響く。


 滝夜叉姫は、体がドロドロになったかと思うと、ヘドロ模様の蛇になって逃げ始めた!


 ドッキューーン!


 今度は、わたしが撃った。


 蛇は頭がグチャグチャになって動きを止め、次の瞬間、無数のポリゴンのようになって消えていってしまった。


「神田川に長年住みついている蛇の妖です。名のある魔物なのでしょう、看病中の滝夜叉姫を襲って成り代わっていたんです」


「よく見抜かれたのう、御息所どの」


「蛇の道は蛇……というところです」


「申し訳ありません」


「たいへん失礼しました」


「「「「失礼いたしました」」」


 ラムレムメイドさんが頭を下げると、他のメイドさんたちもいっせいに頭を下げた。


「ねえ、じゃあ、本物の滝夜叉姫さんは?」


 わたしが聞くと、御息所は、ツカツカと寄って、将門さまの胸のお札を剥がした。


 ペリ


「イテ!」


「お静かに」


 お札を剥がした胸には五円玉のそれぐらいの穴が開いていて、それが、呼吸をするように広がったかと思うと、粘膜でくるまれたモノを吐き出した。


 キャ


 メイドさんたちが遠巻きにする中、御息所がドロドロになるのも構わずに粘膜を引き破る。


 ニュルニュル


 出てきたのは、気を失った滝夜叉姫、その人であった!





☆ 主な登場人物


やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

教頭先生

小出先生      図書部の先生

杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん       図書委員仲間

あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子チカコ 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門


 


 

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