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やくもあやかし物語  作者: 大橋むつお
103/161

103『メイドの体を借りた二丁目地蔵』

やくもあやかし物語


103『メイドの体を借りた二丁目地蔵』   





 あ……?



 そこを曲がったら二丁目地蔵という辻に立っていたのは久しぶりのメイドお化け。


「お帰りなさいませ、お嬢様!」


 このまんまアキバに連れて行ったらメイドクイーンの称号が取れるんじゃないかってくらいの笑顔が気持ち悪い。


「えと……二丁目地蔵さんのところへ行くんだけど」


「はい、まあ、お久しぶりなんですから、まずはうちにお寄りになってくださいませ(^▽^)」


 メイドスマイルで後ろの家に誘おうとする。


 え?


 ここは、五十坪ほどの普通の家があったはずなのに、メイドカフェになっている。


 看板は『メイドカフェ』とあるだけなんだけど、店の造りは、レンガの本格的英国風。


「え、あ、でも、お地蔵さんの所へ……」


「ノープロブレム、どうぞどうぞ!」


 顔は笑ってるんだけど、すっごい力で引っ張られる、ワチャワチャと他のメイドたちも出てきて「どうぞどうぞ!」とか「お嬢さま!」とか囃し立てて、お店の奥に連れ込まれた!


「キャ! ちょっと、なに……」


 おたついてワタワタしてると、みるみるうちにメイドお化けの表情が冷たくなった。



「そこ、座んな!」



「痛いよ」


 突き飛ばされるようにして座ったのは、お店の真ん中の皮張りの椅子。


「そんな不浄なもの持って来られたらかなわないから、ちょっとメイドお化けの体借りてるの」


「え? え、じゃあ、中身はお地蔵さん?」


「そうだよ、メイド地蔵。みんな、警備はちゃんとやっておくれよ」


 はい、お地蔵さま!


 可愛くも凛々しい声が店のあちこちからしたと思うと、手に手にこん棒やら斧やら持ったメイドたちが現れて、ドアとか窓とかのところに警備に立った。


「そいつはね、茨木童子の片腕なのよ」


「イバラギドージ?」


「ああ、渡辺綱というのがやっつけたんだけどね、平安時代の事だから、戒めも解けて、この二百年くらいは時々現れては悪さをするんだ」


「あ、うん、だから、俊徳丸も自分をおとりにして退治したのよ。その記念に残った片腕もらってきたんだから」


「それが災いのもとなのよ」


「願い事叶えてくれるよ。ついこないだも『ピザが食べたい』と思ったらピザが食べられたもん」


「たしかに、そういう効能はあるんだけどね」


「だったら……」


「効能があるっていうことは、鬼も取り返したいわけよ。箱根山を越えてしまったら貼ってあるお札の効き目も薄くなってしまうの」


「そういうものなの?」


「うん、お蕎麦の出汁だって西と東じゃ違うでしょ? 卵焼きだって、ここいらはお砂糖いれた甘い奴だけど、西は塩とお出汁の味だし、電気の周波数も西が60ヘルツだけど東は50ヘルツ」


「あ、理科で習った気がする……」


「ま、そういうことで、お札とかの力も弱くなるんで、鬼も取り返しやすくなる」


「え、え……でも……」


「よく聞いてね」


「うん、はい」


「これを見て」


 メイドお化け、いや、二丁目地蔵はポケットからコロコロを取り出した。ほら、ガムテのでんぐり返しみたくなってて、コロコロ転がして、埃やらゴミやらとるやつ。


「メイドの必需品。ちょっとでも暇があったら、こいつで、あちこちコロコロ転がして、お家やご主人様の清潔を保つの」


「なかなかの心がけですね」


「千年前の鬼は、新品のコロコロみたいだった。それが、千年の間にゴミや汚れを一身に付けまくって……」


「キャ」


 メイド地蔵は、わたしの服から始めて、そこらへんの椅子やらソファーやら、あげくにはカーペットまでコロコロやり出した。


「ほら、いろいろくっ付いて、なんだか妖怪じみてきた」


「うん、妖怪コロコロお化け」


「やくもも協力して、本体と、ほとんどのゴミをやっつけた……」


 ホワ


 コロコロが消えて、ゴミだけがコロコロの筒の状態で残った。


「この残されたゴミのリングが、いまの状態」


「なるほど……」


「放っておくと、消えたはずのコロコロお化けが蘇る」


「かならず?」


「うん、かならず」


「どうしたらいいの?」


「それが、やくもの仕事」


「わたし?」


「うん、残ったのが、どんなゴミかは分からないけど、やくもは霊感とか強いから、じきに向こうから働きかけてくる。がんばって解決してあげてね。そうすれば、そのとき、ほんとうにやくもにとってのラッキーアイテムになるからね」


「俊徳丸に相談するってのはどう?」


「ダメよ、俊徳丸は善意と感謝の気持ちでくれたんだからね、ガッカリさせちゃダメだよ」


「え、あ……そうなのか」


「まあ、どうしてもって時は相談して」


「今は?」


「ダメ、まだ、その時期じゃないから。ね、がんばってね」


「う、うん……」


「みんな、お嬢様のお出かけですよ!」


 ザワザワザワ


 警備に付いていたメイドたちが、あっという間に出口までのメイド道を作ってしまう。



 行ってらっしゃいませ、お嬢様!



 振り返ると、いつもの五十坪の家があるきりだった。


 


☆ 主な登場人物


やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

教頭先生

小出先生      図書部の先生

杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん       図書委員仲間

あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子チカコ 俊徳丸 鬼の孫の手


 

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