黒幕の過去と野望
3月12日追記・文章を少し修正しました。
「――さて、冒険者の方々。貴方達はこの私を探しにここまで来た…それは違いありませんね?」
ロレンツォ神父は俺たちに質問をしてくる。当然、最初からそのつもりでここまで来たんだ。
「ええ、そうよ。あなたがイレギュラーと関係している人なのか、その真相を確かめにずっと探していたの。…まさかあなたが、これまでの騒動を引き起こしていた元凶だったなんてね」
「やはり私の思っていた通りでしたか。しかし、貴方達はどうやって私がここにいるというのを知ったのですか?」
「…あの、ヘレスって女の子が教えてくれたんです。神父さんがこの町で身を潜めているという事を」
「なんと…。あのお方が自ら貴方達をここへ導いてくださったと。そう言う事なのですね?」
神父は驚いた顔をしながらそう言った。…ちょっと待て、今ヘレスの事を『あのお方』って呼ばなかったか?ロレンツォ神父とヘレスってどういう関係なんだ?
「なるほど…ヘレス様はこの私に試練を与えたようですね。私とヘレス様の計画を邪魔する者に裁きを与えなければならないという試練を」
「待って、神父さん。あなたはヘレスを様付けで呼んでるけど、あの子供はあなたよりも偉い人って事?」
「ええ、その通りです。あのお方はこの世界を生み出した神の片割れ――破壊を司る神なのですよ」
な…何だって!?あの女の子が神様!?俺達は今の発言を聞いて驚いた。明らかに普通の子じゃないという事は察してはいたが、まさかロゴスと同じ神様だったとは…。
「嘘…?あの女の子が神様だったの?にわかには信じがたい話ね」
「う、うんっ!あたしも信じられないよ!どうしよう、あたし神様に敬語使わないでお話しちゃった!ば、罰が当たったりしないよね?」
「そんな事を気にしてる場合じゃないでしょ、ミント。にしても驚いたわ、二人の神様がこの世界を創ったというのは本で読んだ事あるけど、まさかその神様が実際に存在していたどころかあたし達の前に現れるなんて」
「ふふふ…驚くのも無理はありませんね。実際、私も破壊神であるお方と直接お会いになれるとは思ってもいませんでしたから」
神父は驚く俺達を見てからかうように笑う。しかし、神父はどこで彼女と出会ったんだろう?俺はその事について聞いてみる事にした。
「なあ、あんたはどこでヘレス…様?に会ったんだ?」
「知りたいのですか?…ふむ、いいでしょう。ここまで来た褒美として貴方達だけ特別にお教えしましょうか」
ロレンツォ神父は彼女と出会った経緯についてゆっくりと話し始めた。
「――元々、この場所はノーヅァンで活気のある誰もが幸せに暮らしていた町でした。そしてここには私の祖父が住んでいたのです。…しかし、祖父はこの町で起きた戦争により命を落としてしまいました。これは私の両親から聞いた話ですがね」
どうやらここは、彼のお爺さんが住んでいたらしい。神父とその家族からすれば因縁深い場所って訳か。
「私は度々この遺跡へ向かい、そしてここで神に祈りをしました。神よ、この世界から争いを完全に無くすには何をすれば良いのですか。もしその方法があるならば、私はどんな事でもします。どうか生きとし生ける者たちに救いを与えたまえ――。私はそう言いながら、ひたすらに祈りを続けました」
「それで、その後はどうなったんだ?」
「当然、そんな都合のいい事が起こるはずがない――少し前までそう思っていました。しかし、ある日を境に私の運命は大きく変わったのです。ある日、私の目の前に一人の少女が現れました。その少女は私に手を差し伸べ、こう語りかけてきたのです。『私に協力をすれば、この世界を変える力を貴方にあげる』と」
「ま、まさかその少女って…」
「ええ、そのまさかです。私の目の前に現れた少女は、先ほど話した破壊を司る神…ヘレス様だったのです。ヘレス様は私に力を与えてくれました。文字通り、世界を変える力をね…!」
神父は両手を上に広げ、高らかにそう発言した。…まさか、こいつも『神の力』を手に入れたのか?俺やダミアンと同じように!
「…神父さん。まさかその力って、ナオトが持ってる『神の力』って奴なの?」
「ほう、貴方はその力についてご存じなのですね」
「ええ。さっきあなたがけしかけたイレギュラーが、その力について喋ってたわ。『神の力』って一体何?」
クリム、まさか俺の持つ力の名称が『神の力』だと知ってしまったのか!?あのグローボって奴、余計な事をしやがったな…。まずい、ここまで来るともう誤魔化しきれないぞ。
「その名の通り、神に等しい力を使う事が出来るのです。この力には『創造の力』と『破壊の力』の二種類が存在し、私が得たのは後者の方、つまり『破壊の力』です」
『神の力』って二種類あったのか…。そんなの初耳だ。そう言えば俺が最初に会った神様は創造を司る神と言ってたから、俺が持っているのは『創造の力』になるのか。
「そこの少年。名前は確か、フジサキナオト…と言いましたね?」
「お、俺の本名を知っているのか?」
「当然です。貴方の事は全て、ヘレス様から聞きましたよ。貴方がこことは異なる別の世界から来た事、この世界へ来る直前に神から力を与えられた事。そして、私達の計画を悉く邪魔している事も…。ふふふ」
どうやら俺の事は既に全部把握済みらしい。これは一筋縄ではいかなさそうだ…。
神父は不気味に笑うと、俺達のいる方へとゆっくり歩き始める。彼から僅かに殺気を感じた俺は剣を構え、戦闘態勢に入った。
「しかし、貴方達の快進撃もここでお終いです。――ナオト、貴方はこの私を倒そうと考えているのでしょう。しかし私を倒す事は絶対に出来ない」
ロレンツォ神父は自信満々で俺に挑発をする。…神父を倒す事は出来ない、だって?どういう意味だ?
「貴方は今、何故?と思いましたね。理由は簡単。貴方は私とは異なり、神の祝福を完全に終えていないから…なのですよ」
「神の祝福?どういう意味だよ、それ!」
「ふふふ、その意味を知らなくても結構です。何故ならば貴方はもうその力を扱う事は出来ないのですからね…!」
神父の右腕から邪悪なオーラが浮かび上がる。ダミアンの時と同じだ。…にしても、神の祝福って何なんだ?くそっ、こんな時に気になるワードを言いやがって!
「ナオト、気を付けて!神父さんはあんたを真っ先に狙おうとしてくるつもりよ。ここは皆で力を合わせてあの人を止めに行かないと!」
クリムは皆で協力して神父を止めようと催促してくる。彼女の言う通り、その方法が一番いいだろうが…相手も俺と同じく『神の力』を持っている。同じ力を持つ俺ならともかく、一般人である彼女達を巻き込む訳には行かない。皆には悪いけど、ここは――。
「悠長に仲間とお話をしている時間はありませんよ、フジサキナオト!」
考え事をしていると、ロレンツォ神父の声が聞こえてくる。俺は慌てて後ろを振り返ると、神父の右腕から紫色の球が飛び出しているのが見えた。
「――さあ、私の力を食らいなさい!」
神父は紫色の球を俺に向けて勢いよく飛ばしてくる。…しまった、避けきれないっ!
「ぐあっ!!」
俺は神父の攻撃をもろに食らってしまい、その衝撃で壁まで吹き飛ばされてしまう。ぐっ、今のはかなり痛かったぞ…。
「おいナオト、大丈夫か!?」
皆が俺の所まで駆け寄って来る。クリムは俺の肩を掴み、ヒーリングの魔法で俺の怪我を治した。
「あ、ああ…。大丈夫だ。ちょっと油断しただけだよ」
「ったく、少しは成長しなさいよ。とにかく、ここからはあたし達も一緒に彼を止めるわよ」
「いや、その必要はないよ。俺も『神の力』を使ってあいつに反撃してやる!」
俺は立ち上がり、剣を構えて魔法を唱える準備に入る。さっきはすっかり油断したけど、もうやられないぞ。
とにかく、まずはあいつを転ばせて身動きを取れないようにしないと。
『――スライド!』
俺は剣を振り、スライドの魔法を唱える。…が、神父が転ぶ気配は全くない。
「あ、あれ…?とにかくもう一度だ、『スライド』!!」
俺は何度も魔法を唱えるも、さっきと変わりなく神父は一切転ばなかった。ど、どういう事だ…?おかしい、ちゃんと俺は魔法を唱えたはずなのに!
「ナオト君、一体どうしたの?ちゃんと魔法を唱えたはずなのに何も起きていないわ」
「そ、そんなの俺に聞かれても…!くそっ、こうなったら違う魔法だ!『ブリザード』!」
俺は咄嗟に違う魔法を唱えたが、やはり何も起こらなかった。そんな俺を見て神父はニヤリと笑う。
「まだ気がついていないのですか?私の『破壊の力』によって、貴方の能力は破壊されてしまったのですよ」