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黒幕との対面

 俺達は廃墟になった教会の入り口付近で待機をしていた。この建物に入れない以上、クリム達がグローボを倒してくれるのを祈るしかない。俺はイレギュラーを相手に何も出来ない事が悔しかった。あんな奴、俺の『神の力』を使えばすぐに倒せただろうに…。


「あいつら、早く倒してくんねーかなぁ。ずっとここにいたら寒くて凍え死んじまいそうだぜ」


 隣にいたアルベルトが、寒さで体を震わせながらそう言う。彼の言う通り、こんな寒い中でずっと待っているのは正直辛い。こういう時にストーブがあればいいのになぁ、と地球出身の俺はそう思うのだった。


「なあ、お前の魔法で俺達をあったかくしてくれるもんはねーの?それさえあればしばらくは凌げるだろ」

「そんな事言ったって…。ん、何だあれ?」


 ふと、俺達の前に緑色の液体が飛び跳ねているのが見えた。あれはスライム…?いや、こんな極寒の地に奴がいる訳がない。だとしたらあれは何なんだ?


「なんだあのちっこいの?ナオト、そいつを捕まえてみようぜ」

「あ、ああ。分かった」


 俺達はそのスライムみたいな奴を捕まえに向かった。と、そいつに近づいたその時――。


『グオオッ!?お、お前さん達はさっきの男二人組!しまった、こいつらが外にずっといた事をすっかり忘れていたんだな!』


 スライムのような奴から聞き覚えのある声が聞こえてきた。…まさか、こいつはグローボ?さっきまではあんなデカブツで威圧感があったのに、こんな弱そうな見た目になるなんて。何があった?


「てめぇ、まさかグローボか!?どうしてそんな姿になりやがった!」

『グググ…。あの格闘家の女のコを食った時、そいつがオラの腹の中で暴れまわりやがったんだ。そしたらオラの身体が破裂して、こんな姿になってしまったという訳さ』


 格闘家の女のコって、もしかしてフリントの事を言ってるのか?フリントがこいつをここまで追い詰めさせたという訳か。凄いぞ、フリント!


「はっ、あのねーちゃんに随分と痛めつけられたみてーだな、お前!さっきまでとは違って全然怖くもないぜ」

『う…うるさいんだなっ!悪いけどお前さん達とのんびり話をしていられる時間はないんだな。オラは何が何でも生き延びて、いつの日かこの身体を完全回復させるんだな~!』


 グローボはそれだけ言うと、遠くへと逃げていく。…まずい、ここで逃がしたら取り返しのつかない事になるぞ。俺がきっちりとトドメをさせなければ。


「ナオト、早くしないとあいつがどっか行っちまうぞ!」

「分かってる!ここは俺に任せて!」


 俺は剣を構え、それを勢いよく振ってビームを出す。ビームは逃げていくグローボの身体に命中した。


『グヒィィィィ!!!オ、オラが…こんな、ガキ、にィ…!!』


 ビームを食らったグローボの身体は崩れ落ちていき、そして完全に消滅していった。よし!何とか逃げられる前に倒せたぞ。


「やったな、ナオト!あいつを完全に倒せたぜ!」


 アルベルトはイレギュラーを倒せた事に喜んでいた。…それよりも、あの建物に張り付いていたイレギュラーはどうなったんだ?グローボを倒した事で何か変化が起こればいいんだけど。

 俺は後ろを振り返り、建物を確認する。見ると、さっきまで建物ごと張り付いていたイレギュラーは綺麗さっぱりいなくなっていた。


「ナオト、見てみろよ!さっきまでくっついてたイレギュラーが全員いなくなってるぜ」

「ああ。あいつが倒された事で壁と同化してた連中も消えたようだな。…よし、中へ入ろう。皆が俺達を待ってるはずだ」


 俺は扉をゆっくり開ける。扉を開けた先にはクリム達がいた。どうやら俺達をずっと待ってたみたいだ。


「ナオちゃん、アルベルト兄ちゃん、無事だったんだね!よかったー!」


 ミントは俺を見るなり勢いよく抱きついてきた。そ、そっちこそ無事なようで何よりだ…。ミントに抱きつかれるのはもう慣れっこだが、それでもいきなり来るとビックリしちゃうな。

 他の皆も俺達の事を温かく迎えてくれた。


「あのねあのね!さっきまでね、あたしたちだけであのグローボってイレギュラーと戦っていたの。どうすれば勝てるのか分からなくて困っていたんだけど、フリント姉ちゃんのおかげで何とかなったんだよ~!」

「その話はさっきあいつから聞いたぜ。ねーちゃん、あんた勇気あるよなぁ。俺だったら絶対思いつかねぇよ」

「ふふん、凄いでしょ?我ながらいい作戦だったと思うわ」


 フリントは誇らしげにそう言った。皆はそんな彼女に尊敬の眼差しで見ていたが、クリムだけ呆れ顔になっていた。


「はぁ、何がいい作戦よ。もし失敗したらそのまま死んでしまうというのに。どうしてあたしの周りには無茶ばっかする奴が多いのかしら」


 クリムが俺の顔を見ながらそう呟く。…待て、俺に質問をしているのか?まあ実際、俺は皆から無茶しすぎだと言われる事はあるけれど。そうなりがちなのはやっぱり俺に『神の力』があるからだろうな。俺はこの力のおかげで様々な難関を乗り越えてきたんだから。


「あ、そうだ。二人とも、さっき外でグローボを見なかった?スライムみたいになって逃げていった奴だけど」

「それならさっき見つけて、ナオトが一発でそいつを仕留めたぜ」

「さっすがね、ナオト君♪イレギュラーも倒せたし、ようやくこれで先へ進めるわね」

「そうだな。よし皆、早く二階へ行こう」


 俺達は階段を上り、二階へと向かう。二階には別の部屋があり、そこも広々とした空間だった。ただ一階と違うのは、物が一つも置かれていない所だ。既に廃墟とはいえ随分と殺風景だな…。


「ここが二階ですか…。でも、一階と違って何もない場所ですね」

「そうね。…あっ、待って!あそこに誰か人がいるわ」


 部屋の奥には一人の人間が立っている。後ろ姿なので顔は見えないが、黒い服を着た男性である事だけは分かった。彼は一体何者?


「クリムさん、あの人どこかでお会いした事があるような…?」

「あたしもそんな気がするわ。皆、あの男の人に近づいてみましょ」


 どうやら二人はこの男性に会った事があるようだ。…まさか、俺達が探していたあの神父?とにかく、俺達はその人に近づいて話しかけようとした。


「――おや、どうやら来客が来たようですね」


 近づこうとした途端、突然男性が喋り出す。どうやら俺達の事に気づいたらしい。男性はゆっくりと俺たちの方を向く。

 その人は、足元まである長い丈の黒服を着た男性だった。男性は優しげな表情をしていたが、どこか悲しげにも感じ取れる。


「あ、貴方は…!ハーシュの神父さん!?」

「どうしてこんな所に――って、まさかとは思うけど…。あなたがイレギュラーを生み出した張本人なのね?」


 クリムは彼にそう質問をする。


「…誰かと思えば、貴方達は前にハーシュでお会いした子でしたか。ここでまた貴方達と会うとは、これも神の悪戯なのかもしれませんね」

「お願い、あたしの話を聞いて!あなたがイレギュラーを生み出した黒幕なの!?」


 クリムが男性にそう問い詰めると、彼は目を閉じ――そして、再び目を開けると俺達に向けてこう言い放った。


「そこのお嬢さんの仰る通り、私こそ貴方達がイレギュラーという名で呼ばれている…新たな生物を生み出した者です」


 俺たちは今の発言を聞き、驚愕した。前々からそんな予感はしていたが…。


「そんな…。今までの騒ぎは全部、貴方のせいだったと言うのですか…?」


 ナラは驚きを隠せず、ショックのあまりその場にへたり込んでしまう。よほど彼の事を尊敬していたんだろう。…ナラの気持ち、俺にもよく分かるよ。


「…ところで、この中に私と初めてお会いになる方が何人かおられるようですね。まずは自己紹介からしましょう。私の名前はロレンツォ。ハーシュにある教会で神父として仕えている者です。以後、お見知りおきを」


 ロレンツォと名乗る男性は、俺たちに向けて深くお辞儀をする。神父と言うだけあって、物腰柔らかな印象だ。とても今回の騒動を生んだ元凶とは思えない。

 …でも、俺達の目の前にいる彼こそが。こいつこそが、イレギュラーを生み出してたくさんの人々を恐怖に陥れた張本人なのだ。

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