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奇策妙計

 あたし達は突然の出来事に言葉を失ってしまう。フリントがあたし達の目の前で、グローボに食べられてしまったのだ。

 …あの馬鹿、本当に何考えてるのよ!?自ら食べられに行くなんて正気じゃないわ!


「う、嘘だよね…?フリントねえちゃああああん!!」


 ミントが涙を流しながら、フリントの名を叫ぶ。


『グフフッ、こいつはとてもついているんだな。まさか女のコが自分から食べられに来るとは思ってもいなかったよ。…うーむ、やっぱり女のコはとても美味いんだな。グヒヒ♪』


 グローボがくちゃくちゃと汚い音を立てながら笑う。あいつ、今まで会った敵の中で最もサイテーな奴ね…!怒りが湧いてくるわ。


「う、うぇぇぇぇん…。フリントねえちゃんがぁ、食べられちゃったよぉ…」


 ミントは膝をつき大きな声で泣いていた。無理もないわ、彼女にとってフリントは頼りになる姉みたいな存在だったから…。


「ク…クリムさんっ!早くフリントさんを助けに行きましょう!」

「何言ってんの、ナラ!あたし達が行った所であいつに食べられるのがオチよ!それくらいはあんたでも分かるでしょ?」

「それはそうですけど…。うぅ、だったら私たちはどうしたらいいんですか!?あぁ、フリントさん…フリントさん!!」


 ナラは頭を抱えて混乱している様子だ。…マズいわ、今の二人は正気を失っている。あたしは何とか感情を抑え込んでいるのでまだ大丈夫だけど、ナラとミントはもはや戦える余裕も無さそう。


『おやおや、お前さん達は今オラが食った女のコが恋しいのかい?グフッ、心配はいらないよ。お前さん達もすぐあのコに会わせてやる…オラの腹の中でなァ!!』


 グローボはズシンズシンと音を立てながらあたし達に近づいてきた。そして奴はまた口を大きく開き、それをあたし達の方へゆっくりと向ける。

 ――まさか、あたし達まで食べるつもり!?


「ナラ、ミント!今すぐここから離れて!あいつに食われてしまうわよ!」


 あたしは急いで二人に逃げるよう催促をするも、二人は既に冷静さを失っていて聞く耳も持たなかった。

 そうこうしている間にグローボの大きな口がどんどんと迫ってくる。駄目、もう間に合わない――!


『グ、グオオ…ッ!?なんだあッ!?オラの、オラの腹が…苦しいッ!!』


 もう駄目かと思った瞬間、突然グローボの苦しむ声が聞こえてくる。な、何が起こったの?あたしは顔を上げ、奴のいる方を向く。

 そこには自分の腹を必死に押さえながら悶えているグローボの姿があった。


『ガ…ガアアッ!ま、まさかあの女の仕業か…?やめろ、それ以上オラの体で暴れるな!やめろお!』


 グローボの腹はゴムのように大きく伸び縮みをしている。どうやら内側から直接、何者かが攻撃をしているようだ。…まさか、フリントなの?


「な、何が起きているんですか…?」

「分からないわ。だけどあの様子からして奴は相当苦しんでいるようね」

「も、もしかしてフリント姉ちゃん?フリント姉ちゃんがあいつに攻撃しているの?」


 あたし達は何が起きてるのか分からないまま、腹を押さえながら苦しんでいるグローボを見ていた。グローボは必死になって抵抗するものの、腹かどんどんと膨らんでいく。今にも破裂しそうな勢いだ。


『ヒ、ヒィィィ!腹が、腹が割れるゥ!た、たすけ…グボアッ!!』


 グローボが最後まで喋る間もなく、奴の腹は風船のように勢いよく破裂した。そして木っ端微塵になった身体から人影が現れる。

 あの人影は…。間違いなくフリントだ。生きてたのね、フリント!


「あ、あれは…フリント姉ちゃんだ!わーい、フリント姉ちゃんが生きてたー!」


 ミントはフリントが生きてた事を知るとたちまち笑顔になり、彼女の元へ駆け寄る。さっきまであんなに泣きわめいていたのが嘘みたい。


「…ふぅ、作戦成功♪上手く行ったわね――って、うわっ!」

「フリントねえちゃーん!あの化け物を倒してくれんだね!やっぱり姉ちゃんはすごーい!」


 ミントに思いっきり抱きつかれ、フリントはその場に転倒した。まったく、元気すぎるのも困りものね…。そんな事を思いながら、あたし達もフリントへ近づきに行く。


「ミ、ミントちゃん…!いきなり抱きついてこないでよ、ビックリしちゃったじゃない」

「えへへ…ごめんなさい。でもすっごく嬉しかったんだよ。フリント姉ちゃんがあの化け物に食べられた時は、本当に死んじゃったと思っていたから…」

「まったくよ。ナオトじゃないんだから、あたし達を心配させるような事はしないで」

「ごめんごめん。皆に心配かけちゃったわね」

「…とにかく、フリントさんが無事で何よりです。それよりもフリントさん、どうやってあのイレギュラーを倒したんですか?私達には何が起きてるのかさっぱり分からなくて」


 確かに気になるわね。もしかして、体の中に弱点でもあったとか?


「それについて今から説明するわね。ほら、さっきグローボが『外側からの攻撃じゃ致命傷を与える事は出来ない』って言ってたでしょ?それを聞いて私はふと閃いたの。内側からの攻撃だったらあいつを倒す事が出来るかもしれないって」

「…それで、あいつにわざと食われて体内から暴れようと考えたのね?はぁ、呆れた。あんな醜い化け物に自ら食われに行くとか、あたしだったらできっこないわ」

「でも、それだけフリントさんが勇気あるって事ですよね。ナオトさんと同じくらいかっこよかったですよ、フリントさん!」

「ふふん、伊達にずっと一人で修行していた訳じゃないのよ?」


 フリントはナラに褒められ、得意げになっていた。…ま、とにかくこれでイレギュラーは倒せたし先へ進めるわね。とその前にあの二人を迎えに行かないと――。


『ヒィィィ!オラがこんな目に遭うなんて、信じられないんだな!』


 そう思った時、突然グローボの声が聞こえてきた。あいつ、まだやられてなかったの!?随分としつこいわね…!


「皆、気を付けて!あいつはまだ生きてるみたいよ」


 あたしは皆に注意を呼びかけながら、グローボの姿を探す。奴の気配はするものの、姿は見当たらない。どこかに隠れているのかしら?


「…あっ、みんな見て!あそこに誰かいるよ!?」


 ミントが地面を指差しながらそう叫ぶ。そこには緑色のスライムみたいな物が地面を這いずり回っていた。まさか、あれがグローボ…?


『グヒッ!?み、見つかってしまったんだな!もうお前さん達の顔は二度と見たくないんだなァァァァ!!ヒィィィ』


 スライムのようになったグローボはあたし達に気づくと、建物の入り口の方へ全速力で逃げていった。くっ、さっきと違って動きが速くなっているわね。だけどここで逃がすワケには行かないわ、ここで決着をつけ――いだっ!?


「ク、クリムさん大丈夫ですか!?」


 あたしは壁と同化していたイレギュラーがいた事をすっかり忘れていたせいで、そいつにぶつかってしまった。ああもう、サイアク!ねばねばしてて気持ち悪いし、こいつがいるせいで外には出られないし…!


「どうしよう、みんな!このままじゃあいつが遠くへ逃げられてしまうよ!ああ、せっかくあと少しで倒せそうだったのに~!」


 ミントはグローボが逃げられてしまう事に慌てていた。しかし、それとは真逆にフリントはやけに落ち着いてる様子だ。


「大丈夫よ、ミントちゃん。外にはあの二人がいるでしょ?」

「あ…!そっか、そうだったね!それなら焦らなくても大丈夫だよね」

「そういう事。後は彼らに任せておきましょ」


 彼女の言う通り、外にはナオトとアルベルトがいる。フリントはあの二人を信頼しているからこそ、冷静だったワケね。

 …直接トドメをさせなくて悔しいけど、残りはあんた達に任せるわ。だから絶対にしくじらないでよね!

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