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崩壊した文明

 黒い服の女の子を追っかけていた俺たちに、突如現れた廃墟の町並み。それは俺たちが探していた遺跡だった。どうやらあの女の子は、本当に俺たちを案内してくれていたらしい。


「これが遺跡…。存在自体は本で知っていたけれど、まさかこうして生で見られるとは思ってもいなかったわね」


 崩壊した建物を見ながら、クリムがそう言う。


「…恐らく、この中に神父さんがいるんですよね?」

「そのようね。皆、到着したからといって油断はしないで。何が起こってもいいように気を引き締めて行くわよ」


 俺たちは緊張感を保ちながら、遺跡の中へと入っていく。遺跡にある建物は殆どがボロボロに崩壊しており、自然に風化していったというよりも誰かが派手に壊したかのような感じだ。

 …そういえばさっき、クリムがこの遺跡にはかつて文明があったとか言ってたな。一体ここで何があったんだろうか?


「なあクリム、ここって昔は人が住んでいたのか?」

「そうよ。本に書いてあった話だけど、昔ここには大きな城下町があったらしいわ。ノーヅァンの中で最も経済が盛んで、常に活気が絶えない所だったみたいよ」

「へー、俺が住んでるフェスティみたいな場所だったんだな。…だけどよ、どうしてそんな町なのに誰もいなくなってしまったんだ?」

「…この町で、大きな戦争が起こってしまったのが原因らしいわ」

「せ、戦争!?」


 俺はクリムの発言を聞き驚く。まさか戦争が理由で滅んでしまうなんて…。だけど、それだったらここにある建物がボロボロに壊れているのも納得がいく。


「戦争って、何がきっかけでそんな事が起きてしまったんだ!?」

「さあね、そこまでは詳しく書かれていなかったから…。だけど戦争というのはいつの時代も、身勝手な大人達が身勝手な理由で起こしてしまう物よ。本当に愚かよね、そのせいで数えきれないほどの人間が犠牲になったというのに」


 クリムは吐き捨てるようにそう言った。…戦争が起きて罪のない人達が苦しめられるのは、どの世界でも同じ事なんだな。当然俺はそんなの体験してないから何とも言えないけど、繰り返してはならない悲劇だという事だけはハッキリと分かる。


「…あ!ねえみんな、あそこを見て!」


 俺がそんな事を思っていると、突然ミントが向こうを指差した。その方角を見ると、さっきの女の子が立っている事に気づく。いつの間にそこにいたんだ?


「あれはさっきの女の子ね。…という事は、場所はここであってたみたいね」

「ああ、そういう事だな。にしても、見れば見るほど不気味な子供だぜ。ナラも言ってたがまるで幽霊みたいだ。俺たちと同じ人間とは思えねぇ」

「ちょっ…あんたまで何言ってんのよアルベルト!と、とにかくあの子に話しかけてみましょ」

「それじゃあ、あたしがまた行ってくるね!」


 ミントはそう言うと、女の子に近づいて話しかけた。


「もう、勝手に行かないでよー!探すのに苦労したんだよ。…ね、ここにあたし達が探してる神父さんがいるんだよね?」

「……」

「ねえ、あたしの話聞いてるの?さっき会った時はあんなに喋ってたでしょ。急に黙らないでよぉ」

「……」


 またこのパターンだ。この女の子、よく喋る時もあれば今のように喋らない場合もあるんだよな…。つかみどころがない子というか。


「…あっ、待ってよ!またどっかへ行っちゃうの?」


 女の子はミントの質問に答えないまま、後ろを振り返って歩き出す。またどこかへ消えてしまうのか…?と思っていると女の子は歩くのを止め、ゆっくりと喋り始めた。


「――見なさい、この有様を。かつてここにあった町は全て、人間の起こした争いによって壊されてしまったのよ。そこにいた人間達もまとめてね。いつの時代も世界は人間の手によって発展し、そして人間の手によって衰退する…。あまりにも醜いと思わないかしら?」


 見た目に反して大人びた考えを持つ子だ…。そんな彼女の発言を聞いて、フリントが女の子に向けてこう言ってきた。


「君、歳の割に随分とませてるのね。もしかしたら私より考えが大人っぽいかも。…だけど、そういう暗い話は無暗に他人に話すもんじゃないわ。友達が減っちゃうわよ?」

「何を言ってるの、貴方?私はただ真実を話しているに過ぎないわ」

「真実だとしてもよ。それに、全ての人間が君の言う醜い人ばかりじゃないわ。私たちみたいに手を取り合いながら、毎日を楽しく過ごす人だってたくさんいる。それは君も知っているでしょ」

「そんな物は私からすれば綺麗事にしか聞こえないわ。…そうやって貴方も逃げているのね、この現実から」

「こら、ひねくれちゃダーメ。そんな事ばかり考えてたら誰も幸せになれないわよ」

「…幸せなんかいらない。私は貴方達人間と違うの」


 ん、それはどういう事だ?まるで自分が人間ではないような言い方だが…。まあこの女の子が普通の人間じゃないというのはとっくに気づいていたけれど。

 女の子は話を終えると、再び向こうへ歩き始めた。


「ちょっとあんた、消える前に一つだけ聞かせて!あんたは一体何者なの?名前だけでもいいから!」


 クリムがそう質問した途端、女の子は動きを止める。そして彼女は一言、


「――私の名前は、ヘレス」


 俺たちにそう教えると、女の子は霧のように消えていった。ヘレス…それが彼女の名前。またどこかで会えるだろうか。


「き、消えちゃったわね…。あのヘレスって子、あたし達人間を嫌ってるみたいだけど何があったのかしら?それにあの喋り方…どう考えても年相応の子供には思えないわ」

「だよね、クリム姉ちゃん。あたしより少し年下なのに凄く落ち着いてたもん。…あたしもあの子を見習った方がいいのかなぁ」

「君はそのままでいいわよ、ミントちゃん。子供は元気が一番だから。それよりも、今はあの子の事より神父さんがいる場所を探すのが先よ」

「そうだな。よし、先へ進もう」


 俺たちは気を取り直し、遺跡の中を歩き回る。ここは元々大きな町だったという事もありかなり広かったので、手分けしながら探す事にした。

 歩き回って数分後、俺は向こうに遺跡の中で一際目立つ大きな建物を見つける。その建物はハーシュで見た教会を更に大きくしたような物で、比較的損傷はなく綺麗な状態を維持していた。

 俺はその建物が気になり、近づいてみる事にした。――とその時、全身に寒気が走る。


(な、なんだ…?この寒気は)


 この寒気は、ノーヅァンの気候が原因とかではなく――あの建物の中に、とてつもない邪悪な気配を感じ取ったからだ。その気配はイレギュラーと似ている。あの中にも奴等が潜んでいるのだろうか?そして、そいつらを束ねていると思われる神父も…?


「どうしたの、ナオト?そんな所に突っ立って」

「あ、クリム…」


 俺がしばらくその場で震えていると、後ろからクリムがやって来る。


「ナオト、あんた身体が震えているわよ。もしかして熱でもあるの?」

「ち、違うんだ。あの建物に近づいたら突然寒気に襲われて…。いや、本当に突然なんだ。信じてくれ」

「はあ…。一応、あんたに熱が無いか確かめてみるわ」


 クリムはそう言うと、俺のおでこに手を当てる。女の子の手という事もあってか、冷たい感触がした。


「…うん、熱はないみたいね。で、あの建物がどうかしたの?」

「ああ。あそこからイレギュラーに似た気配を感じ取ったんだ…。クリムは何も感じないのか?」

「あたしは全然感じないわ。あんたの気のせいじゃないの?」


 どうやらこの気配は俺だけにしか感じ取れないらしい。もしかして神の力と関係していたりするのだろうか?


「とにかく、あの中も調べておいた方が良さそうね。だけどあんたの言う通り、中にイレギュラーが潜んでいるとすればあたし達二人だけでは危険だわ。一旦皆を呼びに行きましょ」

「ああ、それが一番だよ」


 俺とクリムは一旦この建物から離れ、皆を呼ぶ為に遺跡の中を駆け回った。

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