魔法の練習の続き。
俺の魔法の練習は続いていた。クリムから他の魔法も出してみろと言われたので、今度はサンダーを出してみる事にした。さて、どうなる事やら。
『サンダー!』
俺はさっきと同じように剣を上にあげ、掛け声と共にそれを前に振った。すると…。
ズドォォォォォン!!
クリムがやった時と同じように、天から雷が落ちてきた。よし、これは普通に出せるようだな…って、え?
ズドォォォォォン!!ズドォォォォォン!!ズドォォォォォン!!
「ちょっ、ちょっと待って!?」
なんと、天から無数の雷が落ちてきた。おかしい、クリムが俺に披露した際には一回しか出てこなかったのに!
ファイアの時と同じように、これも上位魔法の一つなんだろうか?
「なあクリム、この魔法もひょっとして…」
「…ええ、そうよ。これはサンダーの上位魔法、『ライトニング』よ。まさかこの魔法もいきなり出せるようになるなんてね」
やはりそうだった。どうやら俺が魔法を出そうとすると、上位魔法の方が出てしまうらしい。…という事は、さっきクリムが出してたアイスやウォーター、エアーも俺が出すと同じようになるのか?
よし、試してみよう。
『アイス!』
俺はアイスの魔法を叫ぶと、剣の先端から無数の凍気が放たれた。まるで吹雪のようだ。さ、寒いっ!
クリム曰く、これも上位魔法の一つだそうだ。名前は『ブリザード』。よし、次行ってみよう。
『ウォーター!』
俺は次にウォーターの魔法を叫んだ。すると、剣の先端から強烈な水圧が放たれる。その衝撃で俺は思わずよろけそうになった。
これはウォーターの上位魔法、『ハイドロ』と言うらしい。さあ、最後はこのエアーとかいう魔法を…。
「ナオト、ちょっと待って!あんたエアー…じゃなくて、『タイフーン』を出そうとしているわね?」
出そうとした直前、突然クリムが俺を止めてきた。どうしたんだ急に?
「ん?ああ、そうだけど…。それがどうかしたのか?」
「言っとくけど、その魔法をここで使うのは危険すぎるわ。あまりにも威力が強すぎて周りに被害が及ぶかもしれないから。だからそれだけはやめておきなさい」
まあ、どんな物なのか俺でも大体察しが付くな。ここは町の中だから、タイフーンという魔法を使ったら大変な事になりそうだ。
仕方ない、これを出すのはまた別の機会にしよう。その機会があるかは知らないけど。
「それにしても、あんたが短時間で魔法を取得出来たどころかいきなり上位魔法を放てるなんて思ってもいなかったわ。あたしたち、とんでもない掘り出し物を見つけてしまったようね」
「そうですね。私、ナオトさんの事がますます気になってきました。ご両親はどんな方なのでしょうか?もしかしたら、凄い魔術師だったりして!」
「それって、あたしよりも?」
「そ、それは…。私の勝手な想像ですけど」
ナラは俺の両親の事が気になっているらしい。あー、また面倒な事になりそうだ。当然、この世界にいる訳ないし。もし俺の両親について聞いてきたらなんて誤魔化せばいいんだろう?
「それよりもクリム、魔法の練習はまだあるのか?」
「…いや、今日の所はこれで終わりにするわ。それだけ魔法を使ったんだから、魔力も減ってきてるはずよ。ナオト、具合はどうなの?」
そういや、あれだけ魔法を使ったにも関わらず疲れが全く見えてこない。俺はまだまだ元気だ。
「具合?特に悪くはないけど」
「強がっても駄目よ、ナオト。休憩はしっかりと取らなきゃ。二人とも、一旦家に戻るわよ。休憩が終わったらすぐに冒険者ギルドへ出発するわ」
別に強がってはいないんだけど…。ま、ずっと練習を続けるのもあれだしな。ここはクリムの言う通り、家に帰ってゆっくり休もう。
(それにしても、さっきのあれは何だったんだろう…)
俺は自分の部屋でベッドに寝転がりながら、さっきの奇妙な出来事を思い出していた。俺が魔法を使った時、クリムが出してたのとは異なる上位魔法というのをいきなり放てるようになった事。そして、魔法をあれだけ使ったにも関わらず疲れが全く見えてこない事だ。
明らかに俺の体は普通じゃない。いや、そんなの今更か。ロゴスが俺を蘇らせる前に、間違って神の力を入れてしまったのだから。今の俺は半分神様みたいなもんだろう。
…ん、ちょっと待って。まさか俺がいきなり上位魔法を使えるようになったのは、その神の力が関わっているからなのだろうか?もしそうだとすれば、自然と納得がいくような気がする。神様って人間に出来ない事を涼しい顔でやってのけそうだし。一番強い魔法を使うのも彼らからすれば朝飯前だろう。
とにかく、俺はこの強すぎる魔法とも関わらなければならないようだ。こういうのは下手すれば無関係な人や物に被害を与えてしまいそうだしな…。たくさん練習して、早く力を制御出来るようにしなくちゃ。
「ナオトー、そろそろ出かけるわよー!」
扉の向こうからクリムの声が聞こえた。もう十分休憩は取れたし、そろそろ出かけるとするか。
俺たちは町の西側に向かうと、ひと際目立つ大きな建物を見つけた。よく見ると、武器を持った人たちが建物の中に入っていくのが見える。恐らくあれが冒険者ギルドだろうか。
「クリム、ここが冒険者ギルドなのか?」
「そうよ。正式な名前は冒険者ギルド『グロース』って言うの。この町の名所の一つね」
やはり俺の予想通り、冒険者ギルドのようだ。中はどんな感じなんだろう。
…ふと、俺は体が震えている事に気づく。これは一体何だ?
「どうしましたか、ナオトさん?体が震えていますよ」
「ははーん、もしかして怖いんでしょ?あの中に入るのが」
「そ、そんなんじゃないってば!こ、これは武者震いって奴さ」
まあ、これは半分嘘なんだけど。本当は少し怖かったりして。
「大丈夫ですよ、ナオトさん!私たちがついてますから、困った時は何でも聞いてくださいね!」
「そういう事。最初のうちは先輩であるあたしたちに甘えちゃってもいいのよ~?」
うーん、二人の女の子に甘えるというのは一人の男としてやっていいのか迷う所だけど…。でも、無理して意地を張るよりは安全だろう。
俺はまだこの世界に来たばかりで、知らない事がたくさんある。だから単独で行動するより、この世界に住む仲間と一緒にいれば確実に安心出来るはずだ。
「分かったよ。これからよろしくな、二人とも」
俺は二人にそう言い、グロースの中へ入っていった。
三連休は事情があって更新出来ませんでした…。すっかり待たせてしまい、申し訳ございません!