『進化の種』が入ったビン
『進化の種』が入ったビンを手に入れた俺は、ひとまず家に戻りクリム達が帰ってくるまで自分の部屋に行って待つ事にした。…昨日はあれだけ動いたんだから、少しぐらい仕事をサボっても罰は当たらないだろう。今更な事かもしれないけど。
しかし、改めて思うとクリム達って凄いんだな。激しい戦いを繰り広げた後でも翌日になればすぐ元気になって、いつも通りにギルド活動を行うんだから。やっぱ住んでる世界が違うと生まれつき体質も違うのかな?俺もこの世界で生まれ育っていたら、あんな風になれるんだろうか?
「ただいまー!ナオトー、部屋にいるの?」
しばらく休んでいると、下からクリムの声が聞こえて来た。もうこんな時間か…。俺は部屋から出て、貰ったビンを手に持ちながら一階へと降りていく。
「やあ、おかえり」
「ただいま、ナオト。あんた、もしかしてさっきまでずっと部屋に引きこもってたとかじゃないわよね?」
「そんな事ないよ。さっきまでちょっと外に出てたし」
「ふーん、それならいいわ。…にしても、今日討伐した魔物は手ごわかったわね。ナラ」
「そうですね。でも、イレギュラーに比べればまだ平気ですよ。魔物の対処法とかしっかり本に書いてありますからね」
クリムとナラは手ごわい魔物と戦っていたようだ。どんな奴だったのか、少し気になるな。
…あれ、そういやミントの姿がいないぞ。まだ仕事を終えていないのかな?
「ところでクリム、途中でミントに会わなかった?」
「いえ、見なかったわ。あいつ一人で魔物の討伐に向かったみたいだけど、心配になるわね…」
「はい。私たちに比べてまだ冒険者としてのキャリアが浅いですし…でも、クロスボウをあれだけ上手に扱えるから大丈夫だと思いますよ」
「それもそうね。あれを器用に扱える人はそうそういないし。とにかく、今はあの子を信じましょ」
二人はミントの事を心配してくれているようだ。と、その時――。
「た、ただいまー!」
玄関からミントの元気良い声が聞こえて来た。ちょうど彼女も一仕事終えて来たようだ。思っていたより余裕そうでまずは一安心といった所か。
「あっ、ミントちゃん!お帰りなさい!」
「いいタイミングだったわね。ちょうどあんたの話をしていた所だったのよ。…って、その傷――」
ミントの身体を見ると、あちこち傷が出来ているのが分かる。相当苦労して魔物を討伐しに行ったんだろう。初日から無茶するなぁ、この子は。
「え、えへへ…。あたしなら大丈夫だよ。初めて一人で仕事したからちょっとだけ張り切っちゃった」
「どう見てもちょっとじゃ済まないでしょ。ほら、あんたの傷を治すわ」
クリムはそう言うと、ミントの身体に触れてヒーリングの魔法を唱える。すると、彼女の傷がなくなり元の綺麗な身体へと戻っていった。
「ありがと、クリム姉ちゃん!やっぱり魔術師って凄いなぁ。あたしも姉ちゃんみたいに魔法を使いこなせればもっと皆の役に立てたのかな」
「私はミントちゃんがクロスボウを使いこなせるだけでも凄いと思いますよ。あれを器用に扱える人って私とナオトさんの職業である剣士に比べれば、かなり少ない方ですからね」
「へー、そうなんだぁ。えへへ、もしかしてあたしって天才?」
「こらこら、調子に乗らないの。そうやって浮かれていたら魔物にやられてしまうわよ」
「はーい」
ミントは笑顔で返事をした。今はまだまだ余裕がありそうだけど、それもいつまで続くか分からないから不安だな…。出来る事なら彼女の後をこっそりつけて、様子を伺いたい所だが。でもそんな事をして、途中で尾行がバレてしまったら気まずい空気になりそうだ。
「ところでナオト、さっきから気になっていたんだけどあんたの持ってるそのビン、中に何が入ってるの?」
「私も気になってました。…その中に入ってある液体?どこかで見覚えがあるような…」
俺はクリム達に、このビンに入ってある物を教えた。
「ちょっ、『進化の種』ですって!?あんた、何でそんなもん持ち歩いているのよ!」
「ナオトさん、それはどこで見つけてきた物なんですか!?」
「お、落ち着いて!その事についても話すからさ」
今の発言を聞いた皆は一斉に驚いていた。まあ、こういうリアクションが来るだろうと予め予測はしていたが…。とにかく俺は皆にどこでこれを見つけたのかを話す。
「…えっと、要するにそれはあんたが最初に見つけたんじゃなくて、パオラっていう人が教会に忍び込んだ際に見つけた物なのね?」
「そう言う事」
「なるほど。やっぱり、あの神父さんがイレギュラーと関わりを持っているのは確実のようね」
「そ、そうなんですね…。私、まだ信じられませんけれど」
ナラは複雑な気持ちのようだ。そういや昨日昼ご飯を食べてる時に言ってたな、神父さんは決して悪い人なんかじゃないって。それだけ彼の事を尊敬しているんだろう。
だけど、クリムが昨日言ってた事も気になる。神父の手を掴んだら、頭の中に邪悪な物を感じ取ったという話だ。彼女の言ってた事が本当だとすれば神父はどう考えても怪しい。俺もその人に直接会って真相を確かめたいけれど、どうやって探せばいいものか。
「…ねえナオちゃん、その種が入ってるビンはどうするの?」
考え事をしていると、ミントが俺に声をかけてきた。
「ん、これをどうするかって?」
「うん。だってそれ、死んだ人に取り付いて化け物にさせちゃう物なんでしょ?…か、勝手に動きだしたりなんかしたら怖いでしょ?」
「かと言って、どっかに捨てるワケにも行かないしね。本当にどうすんのよコレ?あんたが持ってきた物なんだから責任取りなさいよ」
うっ、そう言われると確かにこれをどうするか判断に困るな…。どうしよう、クリムの言う通りこれを捨てたりなんかしたら思わぬ所で被害が出そうだし、うーん…。俺は必死になって考えた。どうするか、どうするか…あ、そうだ!
「なあ、後で少しだけ付き合って貰ってもいいかい?俺、これを使って試したい物があるんだ」
「な、何よ急に…。まあ、あたしはいいけど。皆はどうなの?」
クリムがそう言うと、二人は同時に頷いた。
「ありがとう。じゃあ、昼ご飯食べ終わった後ギルドに集合で」
「分かったわ。…あんたが何を企んでるのかは知らないけど」
話が終わると、俺たちは昼ご飯を食べる準備に入った。俺がこの『進化の種』を使って何をするかは、まだ秘密だ。