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王子との再会

 俺たちはベアトリスと一緒に、この前も来たシャルルの部屋へと向かう。部屋の前に着くと、ベアトリスがさっきの召使いと同じように扉をトントンと叩いた。


「シャルルー!今少しだけ時間はあるかしら?貴方に会いたい人達がいるの!」


 ベアトリスが扉の前で彼を呼ぶと、すぐさまにシャルルが扉を開けて出てきた。


「――おや、誰かと思えば君たちじゃないか!よく来てくれたね」

「こんにちは、シャルル!今日はあなたに話したい事が会って来たんだ」

「…ま、本来はそれが目的で来たワケじゃないんだけど」

「うん?それは一体どういう事なんだ?」

「ええと、元々私たちはお姫様から頼まれた依頼を報告する為にこのお城へ来たんです。その際にお姫様が、シャルルさんと一緒になってお話がしたいと言ってたので…」

「なるほど。すまないね、わざわざ忙しい時に姫のワガママに付き合ってくれて」

「いいんだ、他に用事もない事だし。…じゃあそろそろ、部屋に入ってもいいかい?」

「ああ、構わないよ。姫も早く私たちと一緒に話がしたいとうずうずしているようだしね」


 俺たちはシャルルの部屋に入り、そこにある大きなソファーに座る。部屋の中は相変わらず豪華な装飾でいっぱいだ。


「――それじゃあ、話を聞かせて貰うよ」

「分かった。長い話になるけど最後まで聞いてくれ」


 俺はシャルルとベアトリスにハーシュという町で起こった事を色々話した。俺たちが探していた偵察兵が遺体で見つかった事、その遺体から紫色の液体が垂れていた事、更に死んだはずの兵が突然動き出し異形の化け物となって病院中が大騒ぎになった事、それを治めた後に今度はイレギュラーが町に現れ、俺たちはそいつらを倒しに向かった事。

 二人は真剣な表情で俺の話を聞き、そして信じられないという顔になる。そう思うのも無理はないだろう。


「ふーむ…。にわかには信じられないが、君が話した事は全て事実なのかい?」

「ああ、勿論だよ。信じられないと思うだろうけど本当の話だ」

「し、死体が動き出すなんて本の中の話だけだと思ってたわ。まさか本当にそんなのがあったなんて…」

「病院でその死体に遭遇した時はびっくりしたわね。止めるのに苦労したけれど、私とナオト君の二人でその人を倒したわ」

「…貴方達、とても勇気あるのね。そんな得体の知れない物と戦って倒すなんて、普通の人だったら絶対にやれないわよ。凄いわ!」


 ベアトリスは俺とフリントの事を褒めてくる。王女様から褒められるのって何だか照れ臭いな。


「それで、その兵士が動き出した原因について君は何か知っているのか?」

「知ってるよ。これはイレギュラーの親玉から聞き出した情報なんだけど、一度死んだ人間の身体に『進化の種』と呼ばれる物を入れるとイレギュラーになって蘇るらしい」

「進化の…種?初めて聞く名前だ。それもイレギュラーへと変化する物だって!?」


 今の俺の発言を聞き、シャルルは驚いた表情をしながら立ち上がる。


「シャ、シャルル…?」

「…ああ、すまない姫。私はてっきりイレギュラーは自然に生まれた物だと思い込んでいたから、まさか人為的に造られたのもあるとは思っていなかったからね」

「そう思うのも無理はないよ、シャルル。俺たちだって最初は驚いたさ」


 ベアトリスに心配されて落ち着きを取り戻した彼は、再びソファーに座る。

 俺は話を続けた。


「奴等は人間の遺体を使ってイレギュラーを次々と増やし、最終的にはこの世界の全ての人間を滅ぼしてイレギュラーが新たな生物界の頂点に立とうとしているらしい。そうする事によって、世界はより素晴らしい物へと生まれ変わるとか言ってたけど…俺にはそれの何がいい事なのか全く分からないよ」

「ああ。私も奴等の考えている事は到底理解出来ないな。大きすぎる代償を払ってまで世界をより良い物にしようとする事は。そこまでしてイレギュラーは何をしようとしているんだ?」

「分かんない、けど…あいつらの目的は単純に言えば、世界征服みたいな事をしようとしているんだと思う」

「世界征服、か」


 シャルルがそう呟いた後、しばらく沈黙が流れる。何だか気まずい空気だ…。そんな状況を何とかしようと思ったのか、ミントが慌てて声を上げた。


「…あ、あのっ!そういえばナオちゃんが言ってたけど、イレギュラーを操っている人がいるんだって!化け物とかじゃなくて、あたしと同じ人間なんだよ!」

「何、イレギュラーを裏から指揮している黒幕がいるのか?それも私たちと同じ人間だと?」

「勿論だ。これもイレギュラーの親玉から聞いた情報だけど、その人物はハーシュにいるらしい。でも肝心の居場所までは最後まで聞けなかった。『この町にあるきょう――』までは聞き取れたんだけど…」

「王子様、今のナオトの話を聞いてあたしはこう思ったの。もしかしたら黒幕は教会にいるんじゃないかって」

「何故そう思ったんだ?」

「それについてなんだけどね――」


 クリムは何故、黒幕が教会にいるのか訳を二人に説明する。さっき俺が昼ご飯を食べていた時に話していたのとほぼ同じ内容だ。


「…その神父から邪悪な気を感じ取った、だと?」

「ええ、後で気づいたんだけどあれはイレギュラーの気にそっくりだったわ。あたしはあれで、あの人がイレギュラーと何かしら関係しているかもしれないって思ったの。最初はあくまで憶測に過ぎないと思っていたんだけど、全てが終わった後に教会へ向かった際、それは確信へと変わったわ」

「それってつまり、どういう事なのかしら?」

「あの町にあった建物はイレギュラーのせいで滅茶苦茶に壊されていたの。…でも、何故か教会のある所だけ傷一つないまま無事だったのよ!もしイレギュラーを指揮している人物があの神父さんだったとしたら、奴らがそこだけ壊さなかったのも理由が付くわ。とは言っても、まだそう確定したワケではないけれど…」

「でも、これまでの貴方達の話を聞いてたら絶対にその人は怪しいと思うわ。今すぐにでも調べた方がよさそうよ、シャルル!」

「ふむ…。姫の言う通り、ハーシュに潜んでいるというその黒幕について念入りに調べた方がいいだろう。今は少しでも情報が欲しい。しかし――」

「しかし?」


 シャルルは目をつぶり、しばらく黙り込む。その後に彼はこう言った。


「今すぐ私の部下たちにその事を知らせ調査に向かわせたとしても、今回のケースのように黒幕の部下によって口封じをされてしまう可能性が高い。彼らを無駄死にさせるのはもうごめんだ。…それに、私はもう誰かが死ぬのだけは見たくないんだよ」

「シャルル…」


 ベアトリスは悲しそうな声を出しながらシャルルの顔を見る。彼にも複雑な思いがあるという事が俺にも十分伝わってきた。…優しいんだな、シャルルって。


「すまない、姫。王子である私が弱気な事を言う物ではないな。…君たちも、こんな情けない私を見て幻滅しただろう」

「そんな事はないよ。寧ろシャルルがとてもいい人だという事が伝わった。皆もそう思ったよな?」


 今の俺の発言を聞いて、クリム達は一斉に頷く。皆も同じ事を思っていたようだ。


「ありがとう、皆。そう言ってくれるだけでも嬉しいよ。…先ほどはあのような事を言ったが、イレギュラーやそいつ等を生み出した黒幕について追求するのはまだ諦めていない。君たちが帰った後、今日貰った情報を父上や私の部下たちに報告する予定だ」


 シャルルは機嫌がすっかり直ると、真剣な表情になりながらそう言った。


「分かった。もし何か新しい情報が見つかったら、前のように手紙を送って。俺たちも出来る限り最善を尽くすよ。…なあ、皆も一緒にやってくれるか?」

「いいわよ。ここまで来たら、全てのイレギュラーとその黒幕をぶっ潰しに行かないとね」

「当然です!これ以上、罪のない人達が苦しむのは見たくありませんから!」

「オーケーよ。腕が鳴るわね」

「…こ、怖いけどあたしも一生懸命頑張るよ!」

「賛成だ。俺も付き合うぜ」

「ふふっ、君たちは頼もしいな。それじゃあ約束だ。お互い頑張ろう」


 俺はシャルルと握手をし、イレギュラーとその黒幕を絶対に食い止めるよう誓った。…これからの旅は、これまで以上に過酷な物になるかもしれない。それでも俺たちはこの世界を絶対に救いたい。あんな得体の知れない魔物に滅ぼされてたまるものか。俺は心の中でそう決意した。

気が付いたら前回の更新から一か月も経ってしまいました。遅筆にも程があるよ自分。

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