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しばしの休息と忘れてた用事

 俺たちはトレラントに戻り、そこにある飲食店に行って食事を取る事にした。注文した料理が運ばれたと同時に、皆がっつくように食べ始める。今日はたくさん動いたんだ、余程お腹を空かせていたんだろう。

 ちなみに頼んだ物は、クリムはサラダ料理でナラがスパゲッティ、フリントはフライドチキンでミントはオムライス。そして俺とアルベルトはから揚げを同時に頼んだ。…アルベルトもから揚げが好物なんだな。


「おいし~!やっぱり、いっぱい動いた後のご飯はとても美味しいね!」

「うん、本当ね。このフライドチキン、いつもよりとってもジューシーに感じるわ~」


 フリントはそう言いながらフライドチキンを噛みつく。前にも彼女がそれを食べている所を見た事があるが、いつもより豪快な食べっぷりだ。

 他の皆も美味しそうに食べ続けている中、クリムだけは手を動かさずに何か考え事をしている様子だった。


「おーい、どうしたんだクリム?ずっと黙ってるけど」

「ん?ええ、ちょっとね。あたし、さっきから少し気になってる事があるの」

「気になった事って?」

「さっきあたしとナラの二人で町中を駆け回っていた際に、神父さんと会ったのよ」

「神父さん?」

「ほら、前にあたしが言ってたの覚えてる?昔ナラと一緒にハーシュへ行った事があるんだけど、その時にやってたお祭りで会った人」


 ああ、そう言えばそんな事を言ってたっけ。ナラ曰く、その神父さんって人はとても優しい人物らしいけれど。実際に会った事はないからどんな人なのかは分からないんだよな。


「その人がどうかしたのか?」

「さっきも言ったけど、あたし達がイレギュラーを倒している途中でその人と会ったの。最初はあの連中から逃げ遅れていたのかと思って、彼を助けようとしたわ。で、神父さんの手を掴んだ時なんだけど…」

「手を掴んで、どうなったんだ?」

「…その人の手を掴んだ途端にね、急にあたしの頭の中が汚れるかのような感覚になったの。まるで、底なしの闇に引きずり込まれるかのような…。怖くなって、思わずその人から離れたわ」


 ど、どういう事だ?クリムの言っている意味が分からないが、とにかくヤバい物を見てしまった事は確かなようだ。


「それに、疑問が二つあるの。まず一つ目は、他の人達は奴等から必死に逃げていたのにどうして神父さんだけ逃げずに道端に佇んでいた事。二つ目は、あの人の周辺にイレギュラーの気配が全くしなかった事」

「うーん…。二つ目の事だけど、それってたまたまイレギュラーがいない時に会ったからじゃないのか?」

「それ、ナラも同じ事言ってたわ。その可能性もあり得るけど、やっぱり怪しいのよ。神父さんの手を掴んだ時に起きた現象と何か関連性があるかもしれないし」


 まあな…。もし今度会う機会があれば、その事について聞いてみた方が良さそうだ。正直に話してくれるかどうかは分からないけど。


「クリムさん、またそのお話をしていたんですか?さっきも言いましたけど、神父さんは絶対に悪い人なんかじゃないと思いますよ」


 ナラがスパゲッティを食べながら会話に割り込んでくる。


「あくまで可能性の話よ。そう確信をしたワケじゃないわ」

「で…ですよねっ。あんなに優しい方が実は悪い人だなんて事は絶対にあり得ませんよね」

「ま、あんたはお人好しだからね。仮にあの人が黒幕だったとしても、あんただったら絶対に信じないと思うわ」

「ク、クリムさんっ!」

「悪かったわよ、ナラ。そんなに怒らなくたっていいじゃない。…さ、あたしもご飯食べよっと」


 クリムはそう言い、今まで口を付けていなかったサラダを食べ始める。この後は特に会話もせず、俺たちは黙々と昼食を食べ続けた。




 昼ご飯を済ませて店を出ると、俺たちはアルベルトと別れる事になった。


「ふー、食った食った。トレラントってこんなに美味い料理が食べれる店があったんだな。機会が会ったらまた行ってみたいぜ」

「ほんと?じゃあ、いつかまたこの町に遊びに来てよ!アルベルト兄ちゃん」

「気が向いたら、な。…よし、それじゃあとっとと帰るとしますか。さあナオト、早くワープを唱えて俺をフェスティまで戻してくれ」


 俺はアルベルトの手を掴み、ワープを唱えようとした。――と、その時。


「ああーっ!そういや、あたし達一つだけやるべき事が残ってたわ!」


 突然、クリムが大きな声で俺たちに向けてそう言いだした。


「ど、どうしたのクリム姉ちゃん!?」

「アルベルトが今言った言葉で思い出したわ。あたし達もフェスティに行って、お城のお姫様に会いに行かないと!」

「え、そこで何か用事でもあったっけ?」

「ほら、あたし達がハーシュへ向かったのはお姫様から偵察兵を探しに行って欲しいって依頼が来たからでしょ。その依頼が終わったんだから、戻って報告しに行かないと!」


 あ…そう言えばそうだった!あの町で色んな出来事が起こったもんだから、お城に戻ってベアトリスに報告するという事をすっかり忘れてたよ。思い出させてくれてサンキュー、クリム。

 ワープを使い、皆でフェスティへと向かう。町はだいぶ復旧しており、営業を再開している施設もあった。ミントは自分の生まれ育った所が活気を取り戻しつつあるのを見たからか、とても嬉しそうだ。


「すいません、ちょっといいですか?」

「…ん?おや、君たちは前にこの城へ入ってきた冒険者か。何の用だね?」


 お城の入り口に着くと、そこにいる見張りの人に『ベアトリスから頼まれた依頼を終わらせて来たので、その報告をする為にお城へ来た』と話す。見張りの人はそれを聞き、快く俺たちをお城の中へ入らせてくれた。

 その後、俺たちはお城の中で会った一人の召使いにも事情を話し、王女のいる部屋まで案内して貰う。


「――姫様、貴方様にお会いしたいという方々が参られました」


 部屋の入り口に着くと、召使いは扉をトントンと叩いて彼女を呼ぶ。しばらく待っていると扉が開き、そこからベアトリスが出てきた。


「あら、誰かと思ったら前に来てくれた冒険者の人達じゃない!今日は私に何の用かしら?」

「こんにちは、王女様。…ええと、用というのは――」


 俺たちはベアトリスに、ハーシュで消息を絶った偵察兵を探すという頼まれた依頼を完了した事を報告した。


「ああ、頼んだ依頼を終わらせたというのを報告する為にわざわざここまで来てくれたのね」

「はい。本当はあの兵士を見つけ出した日にここへ来ようと思っていたんですけど、その事をすっかり忘れてしまって…。本当に申し訳ございません、王女様」

「いいのよ、私は全然気にしてないわ。寧ろ、あの時に私の勝手なお願いを貴方達に押し付けてしまった事を謝りたいくらいよ。…それで、探していたあの兵士の件ね。既に伝令の方から聞いてあるわ」


 そう言うと、ベアトリスはたちまち悲しい表情になる。自分達が探していた人物があんな目に遭ってしまうとは思ってもいなかっただろうな…。


「…ねえ、今少しだけ時間はあるかしら?もし良ければ、あの町で何があったのか彼と一緒に話を聞きたいの」


 彼女の口から出た『彼』というのは、他でもないシャルルの事だろう。ここはベアトリスの頼み事を聞いて、ハーシュで起こった事を全て話した方が良さそうだ。今は他にこれといった用事もないしな。


「ええ、構いませんよ。俺も丁度、シャルル王子と話がしたかったので。…皆、いいよな?」


 俺はクリム達に確認を取ると、一斉に頷いた。よし、決まりだ。二人に話をしよう。


「ありがとう、みんな!それじゃあ私についてきて。シャルルの部屋まで案内するわね」


 俺たちはベアトリスについていき、シャルルのいる自室まで行く事になった。

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