表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/120

不完全な終幕(後編)

 俺たちは避難所に向かい、そこにいる人たちに化け物を全部倒したという事を伝えた。町の人はそれを聞いて喜び、建物の中は一気に歓喜の渦へと包まれていく。中には握手をしてくる人もいた。


「うーんっ、やっぱり人から喜ばれるとすっごく気持ちがいいねー!」

「本当ね、ミントちゃん。私、改めて本当に冒険者をやってて良かったと思ってるわ」

「…でも、さすがにたくさんの人に囲まれるのはもう勘弁して欲しいわね。正直息苦しかったし」


 外に出ると、俺たちはそんな事を話しながら歩いていた。無事に町の人達を守る事が出来たからか、皆はとても嬉しそうだ(勿論、その中には俺も入ってる)。

 しかし、ナラだけは何故か浮かない顔をしていた。


「どうしたのよ、ナラ?そんな顔して。騒ぎを無事に収める事が出来たんだし、もっと喜びなさいよ」

「は、はい…。確かに、私も皆さんと同じで嬉しいという気持ちはありますけど…」

「あるけど?」

「…あのイレギュラーにされてしまった人達の事を思っていたら、とても可哀想だと思って」


 そんな事を思いながら歩いていたのか。確かに、彼女の気持ちはよく分かる。倒すべき敵だったとはいえ、元々は俺たちと同じ普通の人間だったんだ。罪のない人達をあんな風にするなんて、イレギュラーの連中は何を考えているんだ?人類を進化させる為だとか言ってたけど、俺にはとてもそうには思えない。


「まったくね。さっきの人達といい前の偵察兵といい、一体誰が何の目的でこんな事をしているのかしら?こんなの絶対に許される事ではないわ」

「私も同感よ。…でも結局、誰がやったのかは何一つ分からなかったわね」

「うーん…。あっ、ねえナオちゃんとアルベルト兄ちゃん。二人はイレギュラーの親玉とかいうのと戦ったんでしょ?そいつから何か話とか聞けたの?」


 ミントが俺たちにそう聞いてくる。その話なら、さっき奴等から色んな事を聞けたな。


「どうすんだ、ナオト?皆にあいつの言ってた事を話そうか?」

「ああ、それがいい。…皆、少し俺の話を聞いてくれ。さっき、俺たちが戦ってたイレギュラーから色んな情報を聞けたんだけど…」


 俺は皆に、さっき奴から聞いた情報を話す事にした。

 まず、ロートとブラウという二人のイレギュラーが自分達の話を盗み聞きしていた偵察兵を殺害したという事。更に、彼の身体に『進化の種』と呼ばれる液体を埋め込まれたという事。また、さっきのイレギュラーの集団は墓地にあった人間の亡骸を利用して生み出された物だという事。そして、その裏には彼らを生み出した『あの方』と呼ばれる一人の人間がいて、全てのイレギュラーはそいつの命令で動いているとの事…。


「…あの偵察兵を殺したのは、あんた達がさっき倒した二人組のイレギュラーによる仕業だったのね。それどころかその兵士の身体を勝手に使って無理矢理イレギュラーにさせるなんて、聞いてて怒りが湧いてくるわ」

「私もクリムさんと同じです。それに、イレギュラーを生み出したのが私たちと同じ人間だと聞いてビックリしました。…ナオトさん、その人についてもっと詳しい事は分かりますか?」

「うーん…。残念ながら、それにについては詳しく聞けなかったんだ。ただ、『あの方』という人物はこの町のどこかに潜んでいるという話は聞けたよ」

「この町のどこかに、ですか?じゃあ、早くその人を探しに行かないと…!」

「待ちなさいよ、ナラ。人物の特定も出来ていないのにどうやって調べろというの?このままやっても無駄に時間が過ぎていくだけよ」

「は、はうぅ…。そうですよね。すみません」


 居場所が分かっても、その場所のどこにいるのかが分からないようではどうしようもない。くそっ、ここは一旦諦めるしかないのか?

 …いや、待て。そう言えばさっき、ブラウが『あの方はこの町にあるきょう――』とかそんな事を言いかけてたな。奴が言いかけていた言葉のその先さえ分かれば、何かを掴めるかもしれない。とりあえず、皆にこの話を言っておこう。


「そういやさっきさ、二人組の片割れが『あの方』の居場所らしき発言を言い漏らしていたんだ。「この町にあるきょう――」と言いかけた所でもう一人の奴に止められたから、最後までは聞けなかったんだけど」

「この町にある、きょう…?その『きょう』って言葉の次に入るのって何だろう?あたしにはよく分かんないよ…」

「うーん…。あっ、ひょっとしてあそこの事を言っているんじゃないかしら?」

「あそこって、クリム姉ちゃん何か知ってるの?」

「ええ。ひょっとしたら、『あの方はこの町にある教会にいる』とあいつは言いたかったんだと思うわ」

「教会って、あの優しい神父さんが普段いる場所ですよね?その人が何かイレギュラーと関係しているのでしょうか?」

「さあね。とにかくそこへ行ってみましょ。もしかしたら何か分かるかもしれないわ」


 俺たちは前に行った教会の入り口まで向かった。そこに到着すると、クリムが何かに気づいたらしく俺たちにこう言った。


「着いたわ。…あれ、ちょっと待って。皆、何か違和感に気づかない?」

「違和感?何の事だ?」

「ほら、教会の周りをよーく見て」


 俺たちはクリムから言われた通り、周りを見渡す。そこには建物があったであろう残骸があちこちに散らばっていた。これもイレギュラーの仕業だろう。しかし、クリムが言う『違和感』の正体が何なのか俺にはよく分からないが…。


「それがどうかしたのか、クリム?」

「分かんないの?ほら、周りの建物は全壊しているというのにこの教会だけ無傷じゃない」


 あ…確かに!言われてみればそうだ。他の建物はあれだけ派手に壊れているのに、教会だけ無事というのは明らかにおかしい。たまたまイレギュラーがそこを壊さなかったという可能性もあるが、それにしては不自然だ。

 まるで、イレギュラーがそこだけを壊さないように町中を暴れまわっていたかのような…?殺された偵察兵の件といい、やはりここは何か怪しい。俺はそう確信し、真っ先に入り口の閉まってある扉の方へ向かった。


「ちょっとナオト!前にも言ったけど、許可も無しに勝手に入るのは禁止されてるわよ!」


 俺はクリムの注意を無視し、扉を開けようとする。…が、鍵がかかっているのかどうやっても開く事が出来なかった。


「――ナオト、聞いてるの!?」

「あ、ああ。ごめん。気になったから思わず体が動いてさ」

「まったく、あんたっていつもそういう事するわよね。…で、その様子だと扉は開かなかったみたいね」

「そのようだ。残念だけど…」


 扉が開かない以上、あの中に入る事は出来ない。かくなるうえはこっそり忍び込んで中に入る…という手も一瞬思いついたが、さすがに皆反対するだろう。

 さて、これから俺たちはどうするか…。


「これからどうするんだ、クリム?」

「そうね…。色々気になる事はあるけれど、まずはどっかで昼ご飯でも食べない?もうそんな時間でしょ」

「そうですね、クリムさん。私、さっきからお腹の音がなってますから」

「俺も賛成だ。ナオト、そこを調べるのはまた後日でもいいだろ?今はあいつらを全員倒せただけでもヨシとしようぜ」


 もうそんな時間か。色んな出来事が起こったから、時間が過ぎるのはあっという間だ。俺も丁度腹減ってきたし、教会や『あの方』の行方について調べるのはまた今度にしよう。調べに行くのはそれからでも遅くはないはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ