不完全な終幕(前編)
今回は二本立て。
そして更新が遅くなってすみません。
俺とナラが町に戻ると、入り口の方でクリム達が立っているのが見えた。俺たちが戻って来るのを待っていてくれたのだろうか。
「――あっ、ナオちゃんとナラ姉ちゃんだ!わーい、二人が戻ってきたー!」
「よう、待ってたぜナオト。その様子だと約束通りナラを無事に連れて帰る事が出来たみたいだな。ま、お前ならこれくらいはやれて当然って所か」
「二人とも、お帰りなさい。あの合体した人達は倒せたのよね?」
「ああ、倒して来たよ。あいつはもう二度と復活する事はないから安心して」
「それなら良かったわ。これで一件落着ね」
皆は戻ってきた俺たちの事を温かく迎えてくれた。…約一名を除いて。
「…あの、クリムさん?さっきから黙っていますけどどうしたんですか?」
「別に。ただあたしの約束を覚えてなかったどっかの誰かさんのせいで機嫌が悪いだけよ」
クリムは地面に座りながら、不満たらたらな様子でナラにそう言った。まだあの事で怒っているのか?クリム。勘弁してくれよ、あれだけ謝ったんだからさぁ。
…ああそうそう、さっき俺たちが町に向かった際にクリム達と会った事をまだ説明してなかったな。話の流れはこうだ。
「あいつらめ、どこへ行きやがったんだ?…おっ、あそこにいるのって俺たちの仲間じゃないか?」
「え?あ、本当だ!」
「ナオト、あいつらを追いかける前に一度皆に会っておこうぜ。少しだけなら大丈夫だろ」
「…そうだな。皆も俺たちがいなくなった事に心配しているだろうし。早く会って安心させないと」
俺とアルベルトがイレギュラーになった人達を追いに町へ向かうと、その途中でフリント達を見かけた。フリントの背中をよく見るとクリムを背負っているのが分かる。怪我でもして動けなくなっているのだろうか。
それに、誰かが足りないと思ったらナラだけいない事に気づく。彼女はどこへ行ったんだ?とにかく、俺はアルベルトの案に賛成して仲間に会いに行く事にした。
「おーい、みんなー!」
俺は手を大きく振りながら叫ぶ。その声で皆は俺たちの事に気づき、顔をこちらの方へ向けてきた。
「あら、ナオト君にアルベルト君じゃない!二人とも無事だったのね!」
「あっ、本当だ!ナオちゃーん!」
俺たちは仲間と再開出来た事を喜び合う。特にミントは俺が戻ってきた事が相当嬉しかったらしく、ぎゅっと俺の身体に抱きついてきた。他の仲間もいたとはいえ、俺がいなかったから心細かったんだろうな…。
「…ほら、クリムちゃん?二人が戻ってきたわよ。君も何か言ったらどう?」
二人が喜んでいる中、クリムだけは何も言わず黙っているだけだった。それどころか彼女は顔をこわばらせながら、俺たちの方をじっと見ている。…もしかしてクリム、怒っているのか?
「や、やあクリム――」
俺が恐る恐るクリムに声をかけようとした、次の瞬間。
「あーんーたーたーちー!また何も言わずにあたし達から離れて行動を取っていたわね!前にあたしが言ってた事、忘れたの!?」
突然、クリムが凄い剣幕で俺たちに怒鳴った。やっぱり怒ってたみたいだ。
彼女が今発言した『前に言ってた事』というのは、恐らくフェスティでイレギュラーの親玉と戦った後、仲間と合流した際にクリムが言ってた『今度手強い魔物と戦う時には自分達も誘え』という事だろう。
俺たちはその事をすっかり忘れてて、二人でイレギュラーの親玉と戦っていた。これでは以前と変わっていない。クリムが怒るのも無理はないだろう。
「お、おいおい…そんなに怒る事はないだろ?クリム」
「怒るに決まってるでしょ、アルベルト!これじゃあフェスティの時と全く変わらないじゃない!あんた達、またイレギュラーの親玉とやらと戦っていたんでしょ?」
「あ、ああ。そうなんだ」
「何で戦う前にあたし達に一言も言わなかったのよ?わざわざ危険を冒してまで行くメリットが分からないわ。…まさかとは思うけど、あたし達みたいな女を危ない目に遭わすワケには行かないって感じでカッコつけたかったんじゃないわよね?」
「そ、そんな事一度も思った事ないから!本当は皆も誘いたかったんだけど、そんな時間は無かったんだ。ごめんよ、クリム」
俺はとにかく彼女に謝った。これ以上機嫌を悪くさせたらこの場の雰囲気が悪くなりそうだし…。せっかくの再開なんだから、一安心したいというのが本音だ。
…それよりも、あの集団はどこへ行ったんだ?町に残ったクリム達なら何か知ってるかな。俺はそれについて聞いてみる事にした。
「ところでクリム、一つ聞きたい事があるんだけどさ。この町で全身が紫色に染まった人達を見かけなかったか?」
「それならさっき嫌というほど見たわよ。あたし達はそいつと戦っていたんだけど、その途中で怪我をしちゃってね。だから一旦ここまで逃げてきたの」
「そうか。…クリム、実はあの人達もイレギュラーなんだ。いや、正確にはイレギュラーされてしまった元人間と言った方がいいか」
「あ、あいつらもイレギュラーだったの?じゃあ、フリントが言ってた紫の液体はイレギュラーの種みたいな物だったって事?」
「そう言う事らしいな。さっきイレギュラーの親玉からその情報を聞いたぜ。…それよりも、ナラの奴はどこへ行ったんだ?」
「あのね、ナラ姉ちゃんはまだその化け物と戦っているの!お願い二人とも、ナラ姉ちゃんを助けてあげて!このままじゃ姉ちゃんがやられちゃうよ!」
どうやらナラはその集団と戦っている最中らしい。だったら早く彼女を助けに行かないとな。
「クリム、ナラは今どこにいるんだ?」
「ナラだったらあっちの方角にいるわ。あんた達、まだ戦える余裕はあるの?」
「ああ、俺はまだまだ大丈夫だ。アルベルトは?」
「…わりぃ、俺はパスだ。さっきの戦いでクタクタになっちまった」
アルベルトはもう戦う気力は残っていないようだ。まあ、無理はないだろう。激しく戦っても疲れが見えてこない俺が普通じゃないだけであって。
「何よ、肝心な時にだらしないわねー。…じゃあナオト、あんた一人だけでも行って来て頂戴。絶対にナラをここへ連れて戻って来るのよ」
「分かった。じゃあ、行ってくるよ!」
こうして、俺は一人でナラのいる所へと向かう事になった。――とまあ、流れはこんな感じだ。その後どうなったのかは前の話で語った通り。
で、話は現在に戻る訳だが…。
「それよりもナオト、いつになったらあたしの怪我を治してくれるの?いい加減自分の足で歩きたいんだけど」
「ああ、そうだったな。ちょっと待ってて」
俺はクリムの身体に触れ、ヒーリングの魔法を唱える。それが終わると、クリムはすっかり元気になり自分の意志で立ち上がる事が出来るようになった。
クリムの怪我も治り、イレギュラーもいなくなり、これで本当に一件落着という訳だ。
「この町に現れたイレギュラーはすっかり見かけなくなったし、これで一安心といった所だな。ふぁ~あ、安心したらあくびが出てきたぜ」
「そうね。でもまだ一仕事が残ってるわ。避難所にいる人たちに会って、騒ぎが収まった事を伝えに行かないと」
「はいっ。それじゃあ皆さん、早く避難所へ向かいましょう!」
俺たちはイレギュラーがいなくなった事を報告する為に、町の人達が一斉に避難している所まで行く事にした。