『あの方』の正体と目的
ロートが敗北宣言をした事により、俺たちは奴等に勝利した。諦めの悪いブラウとは違って、どこか潔い奴だったな。純粋に俺との戦いを楽しんでいたというか…。
とにかく、さっさとこいつにトドメをさして町へ戻らなきゃな。
『――待て、ナオト。お前はこれから俺にトドメをさすつもりだろう?その前に一つだけいい事を教えてやろう』
突然、ロートが俺にそう言ってきた。いい事…?急に何を言い出すんだ、こいつは。
「いい事?何だよそれ」
『俺たちをここまで追い詰めた褒美として、お前に一つ情報を教えてやろうと思ったのだ。…事前に言っておくが、今から俺が言う事に嘘はついていない。素直な気持ちで話を聞く事だな』
「は、はあ…」
敵が俺たちに情報を教えてくれるなんて、何だか怪しいな…。だがここは騙されたと思って話を聞いた方が良さそうだ。どんな物なのか気になるしな。
「信用は出来ねえが、俺もその話を聞いてやるぜ。今は少しでも情報が欲しいからな」
後ろからアルベルトが俺のいる所までやって来た。彼も奴の話を聞きに来たようだ。
『…ふん、よろしい。では話を始めよう。いい事というのは、俺たちを生み出した一人の人間の話だ』
「一人の人間…?それって、さっきからお前たちが言ってるあの方って奴と何か関係しているのか?」
『ああ、そうだ。あの方こそ俺たちイレギュラーを生み、そして育ててくれた人物なのだ』
イレギュラーが言ってる『あの方』の正体は、俺たちと同じ人間だったのか…。何だか信じられないな。でも何がきっかけであのような化け物を生み出すようになったんだろう?
「なあ、どうしてそいつはお前たちを生み出そうとしたんだ?」
「どうしてか?理由は簡単だ。あの方はお前たちのような醜い人類を一人残らず滅ぼし、それに代わって俺たちイレギュラーがこの世界を支配しようと計画している』
「お、俺たち人間を滅ぼそうってか!?」
『その通りだ』
俺とアルベルトは今のロートの発言を聞き、驚いた。…どうして俺たちと同じ人間を滅ぼそうとしているのか。復讐?それとも別の理由?俺にはよく分からない。
ただ、分かる事は一つ。その人間がやってる事は間違いなく『悪』だという事だ。
『そして、あの方はこうも言っていた。イレギュラーが生物界の新たな頂点に立つとき、この世界は今よりも素晴らしい物へと生まれ変わるであろうと。同じ種族が身勝手な理由で傷つきあう事のない、誰もが幸福になれる世界が誕生するのだと』
「傷つきあう事のない世界…だって?」
『そうだ。俺たちはお前らのように同じ種族で争いあうような事は決してしない。お前たち人間ほど下等ではないからな』
…同じ種族が一切傷つかない、誰もが幸せになれる世界。奴の言う通りそれは素晴らしい物なのかもしれない。でも、人間を滅ぼしてまで実現しようとするなんて事は絶対に間違ってる!
「おい、その人は今どこにいるんだ!?」
『あの方は普段、この町から離れた場所にあるハーシュという町にいる。場所までは教えん、会いたければ自力で探して見る事だな』
くっ…場所を教えてくれるほどあいつは馬鹿ではないという事か。だけどハーシュにいるという事だけは分かった。そこを念入りに探した方がいいな。
「肝心な所は教えてくれないってか。…ちっ、しょうがねぇな。ナオト、後でこの騒ぎを治めたら町中をじっくり探し回ろうぜ」
「ああ。俺もアルベルトと同じ事考えてたよ」
『よろしい。…さて、これで俺の話はお終いだ。ナオト、さっさと俺にトドメをさせ。そうすればこの殺し合いは終了される』
ロートの話はこれで終わりのようだ。俺はアルベルトに遠くへ避難するよう促し、それを済ませると魔法を唱える準備に入った。今度はロートもきっぱりと降参宣言している事だし、一発で倒せるはずだ。
俺は奴を信じ、ゆっくりと深呼吸をした。そして――。
『バースト!!』
魔法を唱え、赤い球が勢いよく飛び出す。球はロートのいる所まで一直線に向かい、それが直撃すると大爆発を起こした。
爆発で発生した煙が消えると、そこには奴の姿はどこにもなかった。…今度こそ、奴を完全に倒す事に成功したんだな!俺はその事で一安心すると、思わず地面にへたり込んだ。
(…あっ、そういやブラウはどうなったんだ?)
安心していたら、俺はふとあいつの事を思い出した。ブラウはアルベルトによってバラバラにされていたのだが、まだ完全には倒しきれていないんじゃないか。俺はすぐさま立ち上がり奴を探す事にした。
「おーい、ナオトー!」
その時、向こうからアルベルトがやってきた。俺はブラウの事について彼に聞く。
「…ああ、あの青い片割れの奴の事か?あいつならお前が倒したと同時に身体が消えていくのを見たぜ」
どうやらブラウは、ロートを倒した際に連動するように消えていったらしい。何だか都合がいい話のような…まあ、そんな事はどうでもいいか。もう片方を倒す手間が省けたし。
とにかく、これで俺たちは二人のイレギュラーを倒す事に成功した。…だが、安心するにはまだ早い。町には二人が仕掛けたイレギュラーの集団が向かっている。放っておいたらクリム達が、町の皆があいつ等の餌食になってしまうかもしれない。
「アルベルト、さっきあの二人が言ってた事覚えてる?ハーシュにあのイレギュラー化した人達が向かっているって事」
「ああ、しっかりと覚えてるぜ。俺たちもさっさと町に戻ってそいつらを倒しに行かないとな」
俺たちは急いでハーシュへと戻っていった。