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仲間の危機、そして新たな力

 パールスの一声と共に、死闘が再び始まる。出来る事なら早くこいつを倒して町まで戻りたい所なのだが、そう簡単には行かない。アルベルトが奴の腕に捕まっているせいで、攻撃しにくい状況になっているからだ。

 …くそっ、パールスの奴。さっきも言ったけど卑怯な手を使いやがって!


『どうした、何もしてこないのかァ?やはりこの小僧を人質にしているから何も出来ないんだなァ。はーっはっはっ、これは滑稽だぜェ!』


 パールスは何も出来ない俺を見て煽ってくる。くっ、こいつの煽りに乗っては駄目だぞ俺。ここは冷静になって対処の仕方を考えるんだ。


「おいナオト、何をしているんだ!俺の事はいいからさっさとこいつを倒してくれ!」


 俺がそんな事を考えていると、アルベルトが早くパールスを倒すよう催促してきた。そんな事言われたって出来る訳ないじゃないか!俺は彼にそう叫ぶ。


「だからと言って何も出来ないまま、こいつにやられる訳にはいかないだろ!…大丈夫だ、こいつと共に死ぬ覚悟は既に出来ているさ。だから早く――!」

「…お前、本気で言ってるのか!?お前はいいのかもしれないけど、クリム達がその事を知ってしまったら…!」


 俺の発言を聞き、アルベルトは我に戻ったのか黙り込む。やはり、大切な仲間であるクリム達を残して死ぬ事は出来ないと思ったんだろう。

 まずはパールスを倒す事より、アルベルトを助け出す事を最優先にするしかない。…でもどうやって彼を助け出せばいいんだ?今の俺ではパールスの所まで近寄る事すら難しい。


『くっくっくっ、お前たちは本当に愚かだなァ。くだらない感情なんか捨ててしまえば楽になれるというのに。以前、俺たちが殺したあの男よりも愚かだァ』


 あの男…?それって誰の事を言っているんだ?俺はその人物について聞いてみる事にした。


「おい、その男って誰なんだ?」

『知りたいのか?…ま、お前たちはここで殺される運命にあるんだ。冥土の土産に教えてやるとしようかァ』


 前に奴等が殺した男…一体何者なのか。俺とアルベルトはパールスの次の発言を静かに待った。


『――俺たちが前に殺した男というのは、銀色の鎧を着た奴の事だァ。名前は…そういや、それを聞く前に殺してしまったんだったか』


 銀色の鎧…?まさか、俺たちが探していたあの人の事を言っているのか?


『そいつは礼儀のなってない奴でな、俺たちがあの方と会話している所を盗み聞きしていたのだよォ。だから――俺たちがその男を殺してやったのだァ』

「な…何だって!?」


 俺の予想は当たった。この二人組のイレギュラーのせいで、あの兵士は殺されてしまったんだ。


『本来ならば殺した後、そのまま放っておこうと思ったのだが…。戻る際にあの方は俺たちにこう言ってきた。あの男の遺体に『進化の種』を埋め込めておけ、となァ』


 進化の…種?もしかして、監察医が言ってたあの紫色の液体の事を言っているのだろうか。しかし、何の為にそんな事をしたんだ?


「何故、そんな事をしたんだ?」

『何故かって?簡単な理由さ。あの男はたまたま『実験台』として選ばれたんだよォ。生物の遺体を利用して人工的にイレギュラーを生み出すという実験の為にねェ』

「そ、そんな事の為だけにあの兵士の身体を利用したっていうのか!?」

『ああ、そうだァ。あの後に町中の様子を観察していたが、どうやら実験は成功したようだなァ。あの男には感謝しないとね…くくっ!』


 俺は今の話を聞いて、怒りが湧き上がってきた。…あの人を殺したどころか、勝手に遺体を使ってイレギュラーへと変貌させてしまうなんて。絶対に許せない。

 アルベルトも、今の話を聞いて怒りを露わにしていた。


「てめぇら…人の命を何だと思ってやがるんだ!実験の為だけに利用しただと!?ふざけるんじゃねぇぜ!!」

『くっくっ、動けないくせによく言うぜ。それで、どうするつもりだァ?俺たちを殺すつもりだろうが、そんなのは無駄だと分かり切っているだろうに』

「う…うるせぇ!そんなの、やって見なきゃ分からないだろうが!」


 アルベルトは身動きが取れないながらも全力で叫ぶ。しかし、悔しいがパールスの言う通り今の俺たちでは勝てる確率は低い。せめて、俺にもっと力があれば…!

 ――何でもいいから、俺に新たな力をくれ!俺は持ってる剣を強く握り必死になって祈った。


『…さて、俺たちの話は終いだ。ではナオト、そろそろお前をこの手で葬ってやるとしよう。心配する事はない、俺たちは慈悲深いからなァ。痛みは一瞬だ』


 パールスはそう言うと、もう片方の腕をトゲに変化させてきた。恐らくあのトゲを俺の胴体に向けて勢いよく刺すつもりだろう。

 いくら神の力をその身に宿している俺でも、あれをまともに食らえば一巻の終わりだ。俺は不死身になった訳じゃない。


「お、おい…!ナオト、何をしているんだ!次の攻撃が来るぞ!」

「分かってる!」


 俺はパールスの次の攻撃を避ける準備に入る。とにかく、まずは攻撃を避ける事を優先しよう。


『さぁ…死ぬがいいィ!!』


 奴の一声と共にトゲに変形された腕がこっちに向かってくる。さ、さっきよりも攻撃してくるスピードが速くなってるぞ!?まさか今までの攻撃は本気じゃなかったとでもいうのか!

 …だ、駄目だ!避けきれない――!俺は思わず目をつぶった。


(あ、あれ?)


 しばらく目をつぶっていた俺だったが、そこである違和感を感じた。奴の攻撃を食らったという感触が全くないのだ。誰かが助けに来てくれたのだろうか?

 俺は恐る恐る目を開き、目の前の状況を見る。――そして、俺は違和感の正体に気づいた。


(や、奴の動きが止まっているぞ!?)


 そう、パールスが俺に攻撃をしてくる直前で止まっていたのだ。いやそれどころじゃない、奴の腕に捕まっているアルベルトや空に浮かんでいる雲といった俺の周りにある全ての物体の動きが止まっている。あまりにも異様な光景だ。

 …ただ、その中で普通に動けるのはただ俺一人だけ。こ、これは…まさか俺の新たな力が発現したのか?とにかく、今がチャンスだ!

 俺はすかさずアルベルトが捕まっている腕の所まで向かい、ジャンプして腕を切断させた。


『――ぐ、ぐおっ!?』

「うわっ!」


 それと同時に、全ての物体が再び動き始める。アルベルトを捕まえていた腕は地面に落ちて行き、その衝撃で彼が放り出された。…よし、何とか助け出す事が出来たぞ!


「無事か、アルベルト!」

「つつっ…あ、ああ。俺は大丈夫だ。しかし何が起こったんだ?あいつがお前に攻撃をする直前、急に奴の腕が切断されて…」

「説明は後でするよ。…とにかく、今ので俺たちの勝利は決まったようだ」

「はぁ?おい、急に何を言い出すんだよ。まさかあいつに勝てる方法が見つかったのか?」

「…ああ。今ので見つかったかもしれない」


 さっき俺が新たに取得した、俺以外の全ての物体が止まるという力。これさえあれば動きが俊敏なあいつでも勝てるかもしれないぞ。――勝機が見えてきた気がする!

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