とっておきの策?
5月4日追記・ちょっとだけ文章を修正。
俺とロートの死闘は続いていた。俺は必死になりながら奴からの攻撃を避けたり、剣を使い攻撃を防ぐ。
ロートは俺が思っていたよりも動きが俊敏で、奴に近づく事さえ難しい状況だ。
「はあっ、はあっ…」
『ふん。意外と粘るようだ。流石は神の力をその身に宿しただけはある』
ロートの攻撃を防ぐ事で精一杯な俺に対し、奴は今も余裕の様子だ。くっ、これじゃあ埒が明かない。どうにかして何とか奴にダメージを与えればいいんだけど…。でもどうやって?
『だが、それもここまでだ!』
俺がそう考えている暇もなく、ロートは俺に向かって突撃してきた。ま、まずい!とりあえずまた剣で攻撃を――あっ、そう言えば俺にはアレがあったんだった!
『――バリア!』
俺は咄嗟にその魔法を唱えた。すると、俺の周りに巨大なドーム状の物体が現れる。前に俺が初めて取得した時と同じ光景だ。
それと同時に、バリアにぶつかったロートが吹き飛んでいった。どうやらこのバリアにはぶつかるとダメージを受けてしまうらしい。…とにかくこれで少しは時間が稼げそうだ。危うくこの魔法の存在を忘れる所だった、危ない危ない。
ロートが怯んでいる間に、何とかあいつを倒せる方法を考えねば…。
『ふんっ、バリアを貼って時間を稼ぐつもりか。だがそうはさせんぞ!』
ロートはすぐ起き上がり、両腕をトゲに変化させてバリアを壊そうとする。バリア自体は頑丈なのでこの程度の衝撃では壊れる気配はしないのだが、それもどれくらい持つかは分からない。早い所、奴を倒す方法を考えよう。
…まず、奴を倒すには強い魔法を使って全身ごと木っ端微塵に消し去るのが一番だ。だがロートは動きが俊敏なので、そう簡単に当てる事はまず不可能だろう。それどころか、俺が放ったバーストの影響で無関係な場所に被害を与えてしまう。もしそこに人や生き物がいたら…?考えただけでも恐ろしい。
――ピシッ、ピシィッ!
ふと、向こうで何かが割れるような不穏な音が聞こえてきた。その音がした方を見ると、バリアに僅かだがヒビが入っている。このままではこのバリアが壊れるのも時間の問題だ。
とにかく、こいつの動きさえ止める事が出来れば少しは何とかなるかもしれない。だけど俺にそういう力は…持っていた!よし、あれを使ってみよう!
『スライド!』
俺はその魔法を唱えると、バリアが解除されたと同時にロートの身体がその場に倒れて行く。
『き、貴様何をした…。身体が全く動かん!』
ロートは身体を動かそうとするも、魔法の効果でしばらくは動けない状況だ。――いいぞ、この魔法もしっかり効いてる!後はこの隙にバーストを放てば、勝利は決まったも同然だ!
俺はバーストの衝撃に巻き込まれないよう奴から離れると、すぐ剣を構えて魔法を唱える準備に入る。そして…。
『――バースト!!』
その魔法を唱え、剣の先端から赤い球が勢いよく飛び出した。球はロートに命中し、激しい爆音と共に大きな煙が立ち上る。相変わらず凄い威力だ。
あんなのがロートに直撃したんだから、さすがの奴でも一溜りではないはず――。
『くっ…。少しはやるようだな』
「えっ!?」
突然、俺の背後に奴の気配を感じ取った。俺はすぐさまその場から離れ、背後を振り返る。――そして、俺はそこで見た光景に驚愕した。
背後には、身体の左半身が丸ごと失っているロートがいたのだ。さすがに身体を半分失っているからかよろよろにはなっているものの、それでもまだ完全に倒せてないという事実に俺は驚きを隠せなかった。
「お前…!まさか、俺のスライドを自力で解除したのか!?」
『そうだ。あれをただで食らう俺だとでも思っていたのか?…まあ、完全に避ける事は出来なかったようだがな。おかげで俺の身体はこの通りだ』
奴はそう言いながら、失った身体を元通りに治していく。くそっ、こいつの動きが俊敏なのは分かっていたがここまでだとは思ってもいなかったぞ。それに俺の魔法を自力で解除するなんて、やはりただものじゃない。
『だが、この俺をここまで追い詰めた事だけは誉めてやろう。その褒美としてお前にいい物を見せてやる』
「いい物?」
『…それをお前に見せるには、ブラウの力が必要だがな。お前はここで少し待っていろ』
ロートは俺にそう言うと、向こうで戦っているブラウに向かって大きな声で呼びかけた。ブラウは今の所、アルベルトに押されている状況だ。奴が弱いのか、アルベルトが強いのかは分からないが…。いいぞ、アルベルト!
『――おい、ブラウ!試合は一旦中断だ、あの手を使うぞ!』
『ゴホッゴホッ…。あ、あの手ですかァ?それは最後まで取っておきましょうよォ、今俺はこいつを殺すのに精一杯ですからァ』
『そう言いながらお前はあのガキに手こずっているではないか。…やれやれ、お前は俺と違って戦闘向きではないからな。とにかく俺に従え』
『へ、へい。分かりましたァ』
ブラウは渋々ながらも、ロートのいる場所まで近寄る。それと同時に俺もアルベルトのいる場所まで駆け寄り、声をかけた。
「アルベルト!大丈夫か?」
「ああ、何とかな。しかし俺が戦ってたブラウって奴?思ってたよりも随分と弱かったぜ」
「それマジ?俺なんか未だにあの赤黒い奴にダメージを与えていないってのに…」
「その赤黒い色をしたロートって奴が言ってたけど、どうやら俺が戦った奴はあまり戦闘には向いていないらしいからな。つまり相手が悪かったという訳だ。――と、のんびり話をしている暇はなかったな。ナオト」
俺とアルベルトは二人がいる方を向く。向こうではロートとブラウが既に準備を終えているようだった。一体何をするつもりなのかは分からないが…。
『ほ、本当にアレをやるんですかァ?ロート』
『ああ。あのナオトとかいうチビはかなりの強敵だ。だが二人で力を合わせれば、あいつを殺す事など容易い』
『でも、それを使えば後に――』
『今はそれを心配する必要はない、ブラウ。そうなる前にあいつ等を殺せばいいのだからな。さあ、やるぞ』
『へ、へい…』
ブラウは何やらその力を使いたくない様子だ。どういう事だろう?俺は疑問に思いながら二人を見ていると、ブラウがロートの身体に密着し、そのまま奴に取り込まれていった。すると、奴の身体が紫色の液体になって溶けてゆき、液体は一つの塊となってどんどんと大きくなっていく。俺たちは何が起きてもすぐ立ち向かえるように、剣を構える。
――そして、その塊はおよそ10メートルもある巨人へと変貌していった。巨人は全身が紫色で、体中からトゲが生えている。一目見ただけでもヤバさが伝わってきた。
『――融合完了ォ!さあ、続きを始めようか人間共ォ!!』
二人に融合された一人のイレギュラーから、ロートとブラウの声が混ぜ合わさった物が聞こえてきた。