事件の始まり
俺は町を駆け回り、クリムを探しに行った。手がかりが見つかったらすぐ自分のいる所まで戻るようにと言ってたからな。…お、いた!
「おーい、クリムー!」
俺はクリムに向かって大きく声をあげた。彼女は俺の声に気づき、こっちを向く。
「あっ、ナオト。何か手がかりは見つかったの?」
「ああ。さっき冒険者の一人から有力な情報を得る事が出来たよ」
「本当?それなら丁度良かったわ、なかなかいい情報を持ってる人がいなくて困ってたからね。…じゃ、早速皆にもその事を伝えに行くわよ」
俺たちは残りの皆を探しに町を回る。数分後、皆を見つけ出して町の入り口の所まで戻った。
「よし、全員揃ったわね。それじゃあナオト、あんたが見つけた情報をあたし達に話して」
「分かったよ。…えっと、この町にいる冒険者の話によると偵察兵はどうやら教会の方へと走っていったらしいんだ。急いでいる様子だったみたいとか言ってたよ」
「教会って、あの優しい神父さんがいる所ですよね?何かあったのでしょうか?」
そう言えばクリムとナラは前にそこへ行ってたらしいな。神父はナラ曰く優しい人との事だが…。うーむ、とにかくそこに行って確かめた方が良さそうだ。
「何があったのかはさっぱり分からないけど、とにかく行ってみた方がいいわね」
「そうですね。それじゃあ皆さん、教会の所まで行ってみましょう!」
「場所は前にナラと一緒に行った事があるから知ってるわ。あたし達についてきて」
俺たちはクリムとナラについていき、教会がある場所まで向かう。歩いて数分後、町の北側に行くと4階建てぐらいあるであろう大きな建物が目に入った。建物のてっぺんには大きな鐘が見える。とても立派だ。
「着いたわ。ここが教会よ」
俺の予想通り、この建物は教会だ。偵察兵はここに行ってたらしいが、何か気になる物でも見つけたのだろうか。…まさか、ここでイレギュラーと呼ばれる魔物が出現したとか?とにかく中へ入ってみよう。
俺は真っ先に教会の中へ入ろうとした…が、クリムが俺の手を掴んで止めに入る。
「――待って、ナオト!勝手に教会の中へ入るのは禁止されてるわ!」
「でも、この中に何か手がかりがあるかもしれないんだろ?どうするんだよ?」
「ここに入るには、まず施設の関係者に許可を得る必要があるんだけど…。それよりも先に、この付近を探ってみない?案外こういう所に何かあるかもしれないわよ」
うーん、そう来たか…。まあ今は急ぐ必要は無さそうだし、中へ入るのは後回しにしよう。俺たちはクリムの意見に賛成し、手分けして教会の付近を歩き回る事にした。
俺は路地裏の方に向かい、偵察兵の痕跡を隅から隅まで探す。路地裏は薄暗いし人の気配もないから不気味だ。誰も出て来ませんように…。
――コンっ。
そう心の中で願った途端、俺の足元に何かがぶつかる音がした。俺はその音に思わず飛び上がり、その場に倒れてしまう。やれやれ、俺ってば本当にヘタレだなぁ。クリムからそう言われるのも無理はないな。
音がした方を見ると、そこには鎧が無造作に置かれてあった。…な、なんでこんな所に鎧があるんだ?
「…ん?何だこれ」
ふと、俺は身体の部分に赤い液体のような物が出ているのが見えた。それを手に触れてみると、絵具のようなドロッとした感触が俺を襲う。
…俺はこの時点で、嫌な予感を感じ取った。まさかとは思うが、この鎧…。俺は兜のバイザーの部分をそっと開ける。
(こ、これは――!?)
それを開けた途端、全身に震えが走った。これは…ただ空っぽの鎧が無造作に置かれているだけだったらどんなにマシだったろうか。そう、この鎧は中に人がいる。…そして、その人は苦悶の表情を浮かべていた。
――間違いない。これは『死体』だ。
(た…大変だ!この事を早く皆に知らせないと!)
俺は急いで路地裏から出て、クリムに死体を見つけたという事を伝えに向かった。
「ク、クリム!大変だ!」
「どうしたのよナオト、そんなに慌てて。もしかして何か見つけたの?」
「ああ、そうなんだ。そうなんだけど…。とりあえず、皆に手がかりらしき物を見つけたと伝えてきてくれ」
「…?分かったわ」
クリムは皆を呼びに行き、その後すぐに戻ってきた皆を連れてさっきの現場へと戻る。皆は俺が見つけた鎧を着た人物の死体を見て一斉に驚いていた。
特にミントには刺激が強すぎたのか、涙を浮かべながら苦しそうに口を押えている。
「おい、大丈夫か?ミント。辛かったら無理しなくていいんだぞ」
「う、うん…ありがとうナオちゃん。あたし、ちょっとここから離れるね」
ミントはそう言うと、路地裏から出て行った。俺は彼女を見送った後、皆のいる所へ戻る。
「おいナオト、なんでこんな所に死体が置かれてあるんだ?そもそもこいつは一体…」
「うーん…。まさかとは思うけど、この人は俺たちが探してた偵察兵じゃないよな?」
「どうやらそのようね、ナオト君。…ほら、胸の部分をよく見て。フェスティの紋章が描かれてあるわ」
フリントが鎧の胸の部分を指差しながらそう言った。よく見ると確かに、紋章と思われるマークが描かれてある。何気にフェスティの紋章を意識して見るのは初めてだ。
やはり俺の予想通り、この人は俺たちが探していた偵察兵のようだ。…なんて事だ、帰らぬ人になってしまうなんて。シャルルやベアトリスにこの事を言ったら絶対に悲しむだろうな。
「遺体の状態から察するに、この人はまだ死んで数日は経っていないようね。まだ腐敗がそんなに進んでいないわ」
クリムが彼の状態を見ながらそう言った。となると、この人はつい先日に死んだという可能性もあり得るな。教会の方に急いで向かった後、何者かに殺されたという事なのか…?何があったのかは知らないが、とにかく教会が鍵を握っているのだけは確かなようだ。
「この人、一体何があって亡くなってしまったのでしょうか…。もしかしてこの町にイレギュラーが現れて、それに襲われてしまったとか?」
「さあね。現時点では分からない事だらけよ。今はとにかく、町の人を呼んで兵の遺体を運んで貰った方がいいわ」
「そうですね…」
俺たちは町の人を呼ぶ為、一旦この場所から出て行った。