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出発準備・厚着を買いに行こう

 俺たちはお城から出た後、すぐ自分達の町へ戻る事になった。今回はアルベルトも一緒で、俺たちと共にノーヅァンへ向かう事になるそうだ。仲間は一人でも多い方がいい。


「おおー、懐かしい我が故郷だ。引っ越してもう数年経つけど、全然変わってねぇな」


 アルベルトはトレラントの町並みを見ながらそう言った。そう言えばアルベルトって元々はこの町出身だったっけ。久しぶりに生まれ故郷へ来たから感慨深いだろうな。


「よし皆、まずは家に戻って支度をしようよ」

「――ちょっと待って、ナオト。その前にある物を買わないといけないわ」


 俺が家に戻るよう催促すると、クリムがそれを止めてきた。…ある物って?


「ノーヅァンは北の方にある国だから、ここよりも寒い気候なの。だから今の恰好で行ったら風邪を引いちゃうわ」

「…そうなんだ。じゃあ、厚着を着て行った方が良いって事か」

「そういう事です。厚着はアーサーさんのお店で買えますから、先にそちらへ行って買って来て下さいね」


 アーサーさんか…。久しぶりにその人の名前を聞いたな。俺がこの世界に来たばかりの頃に、初めて入ったお店の中にいた店主の事だ。


「あたしとナラは既に自分のを持ってるから、あんた達と一緒に買いには行かないわ。先に家へ戻ってるわね」

「分かったよ。また後で会おう」


 俺たちは二人と一旦別れ、アーサーさんのお店に行って厚着を買いに行く事にした。厚着を持っていないのはフリント、ミント、アルベルト、そして俺だ。

 …そう言えば、あのお店ってどこら辺にあったっけ?一度しかあそこに行ってないからすっかり忘れちゃったよ。参ったな、クリムに場所を聞いておけばよかった。気まずいけど、一度家に戻るか…。


「どうしたのナオト君?何やら焦っているみたいだけど」

「いや、実はさ。アーサーさんのお店ってどこにあるのか忘れちゃったんだ。だからクリムにその場所を聞こうと思って」

「落ち着けよ、ナオト。…俺、そのおっさんがやってる店に何度か入った事があるから知ってるぜ。確か名前は『モーディッシュ』だろ?この町の西側にあったはずだ」


 そうだった。アルベルトの発言で全てを思い出した。サンキュー、アルベルト。おかげで戻る手間が省けたよ。


「よし、みんな俺についてきてくれ。店の場所は今でも覚えてるからさ」


 俺たちはアルベルトについていき、お店がある町の西側の方へと向かう。しばらく歩いていくと、見覚えのある建物が目に入った。看板には『モーディッシュ』と書かれている。


「お、あったあった。久しぶりに来たけど、ここも全然変わっていないのな」


 アルベルトは店の外観を見ながらそう言った。…このお店、俺がこの世界に来る随分前から営業していたのだろうか。クリムやナラも昔はよくここに来て買い物をしていたようだし。

 俺はそんな事を思いながらお店の中へ入っていく。中に入ると、奥に眼鏡をかけた小太り気味なおじさんが座っていた。あの人がアーサーさんだ。

 アルベルトは真っ先に店の奥へ向かい、彼に声をかけた。


「おっさん、久しぶりー!」

「ん?…おお、誰かと思えば君は…。もしかして、アルベルト君だね?」

「ああ、そうだよ。おっさんに会うのは久しぶりだけど、あれから全然変わってなくて安心したぜ」

「そういう君は、見違えるほど立派になったね。こんなに逞しく育って…。わたしゃ嬉しいよ」


 アーサーさんはアルベルトと久しぶりに会えた事で、とても嬉しそうに話していた。俺もアルベルトに続き彼に声をかける。


「ア、アーサーさん!こんにちは!」

「おお、君はナオト君か。ここに来るのは久しぶりだね。君も見ないうちにすっかり逞しくなったようだ」

「ははは…。そう言われると凄く嬉しいです」

「ほっほっほっ。…ところで、そちらにいるお嬢さん方は君のお友達かね?」


 アーサーさんはフリントとミントを見てそう言った。二人がアーサーさんと出会うのは初めてだったな。


「はい、そうです。この人が格闘家のフリントで、そっちのクロスボウを持ってる子がミントって言います。両方とも魔物や暴漢に襲われてる所を俺が助けて、それ以降俺たちと一緒に行動をしているんです」

「ほほう、そうなのか。二人の女の子を助けたとは、見ない間に随分と男らしくなったようだ」


 お、俺が男らしいか…。他人からそう言われるのって生まれて初めてだから、照れ臭くなって頭をかく。フリントとミントはそんな俺を見て楽しそうに笑っていた。


「それよりも、今日は何の用だね?ここへ来たという事は何か買っていくつもりなんだろう」

「俺たち、これからノーヅァンっていう国へ出かけるんです。その為にここで厚着を買いに来ました」

「そうかそうか。それじゃあ、ゆっくりと見て行ってくれ」


 俺たちは店の中を歩き回り、自分のサイズに合う厚着を探した。皆は厚着という物を見るのが珍しかったからか、興味津々になって見ている。ウェスターンって西の方にあるから、気候的に厚着は着ないんだろうな。


「ところで、ナオト君。ちょっと君に聞きたい事があるのだが」


 俺が服を見ている途中、アーサーさんが俺を呼び掛ける。


「どうしたんですか?アーサーさん」

「以前君がここで新しい服を買った時、古い方の服を私が貰っただろう。大変珍しい物だったから、君たちが帰った後にカタログを調べたり、世界中を巡って君が着ていた服を探して見たんだ」


 古い服というのは、俺が元の世界にいた時に着ていた中学の制服の事だ。その恰好のまま別世界に転生したもんだから、クリムから「その恰好で歩き回ってると怪しまれる」という理由で新しい服を購入する事にしたのだ。


「…だが、奇妙な事に君と同じ服を着ていた人は一人もいなかった。いや、それどころかこの世界には本来存在するはずのない物だったんだよ。ナオト君、これはあまりにも不可解だと思わないかね?そもそも君は一体何者なんだ?」


 当然、答えられるはずがない。にしてもまさかこのタイミングで、俺の正体について追及されるとは思ってもいなかった。…いや、俺がアーサーさんに制服を渡した時点で後々そういう事が起こると気づくべきだったか。

 くそっ、俺はどうすればいい?ここは素直に「他所の世界から来た」っていうべきなのか…?俺は今にもパニックになりそうだった。


「…す、すまない。君を追い詰めるような事を言ってしまったね。いいんだ、たとえ君が何者であろうと私には一切関係ないさ」

「そ、そうですか…」

「うむ。それに、少なくとも君が悪い人ではないという事は分かるよ。そうでなければ今の君に素敵なお友達が出来るはずがないからね。それじゃあ、引き続き服を見て行ってくれ」


 アーサーさんは俺が悪い人ではないと信じてくれるそうだ。…よかった、気まずい空気にならなくて。

 俺は気を取り直して厚着を見に行く。幸い、他の仲間は服を探すのに夢中になってて今の会話を聞いていなかったようだ。




「うわー、ふかふかしてあたたかーい!」

「凄いわね。私、いつも動きやすい服しか着ていなかったからこういうの新鮮よ」

「全くだな。…正直、ここだと暑すぎる気がしなくもないが」


 俺たちは自分が着るサイズの厚着を探し終え、それぞれ試着に入った。やはりこの服を着る機会はなかったからか、三人とも楽しそうだ。


「気に入ってくれたようだね。その服はノーヅァンに生息しているホワイトベアーと呼ばれる生き物の毛皮を加工して作られた物なんだ」


 なるほど…。この世界でも、動物の毛皮を使って服が作られているんだな。

 その後、俺たちはこの厚着を購入してお店を後にした。これでノーヅァンへと向かう準備は完了だ。さっさと自分の家に戻ってクリム達に報告しよう。

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