お城へご招待
「みんな、おはよう」
次の日、俺はいつものように起きて一階に降り、居間へ行って皆に挨拶をした。
「おはようございます、ナオトさん。今日もいいお天気ですね」
「ナオちゃん、おはよー!今日も一日頑張ろうね!」
皆は俺に気づき、元気に挨拶を返してくる。いつもと変わらない日常の一コマだ。
「おはよう、ナオト。…あ、突然だけどあんたに見せたい物があるの」
クリムはそう言うと、手に持ってた一つの封筒を俺に渡してきた。どうやら手紙のようだが…。
「これは?」
「さっき家のポストに入ってあった奴よ。あんたにも関わる事だから、見せてあげようと思って」
封筒には差出人の名前が書いてあった。差出人の名前は…アルベルトからだ。俺にも関わる事って何だろう?
俺はすぐ封筒を開け、中に入ってある手紙をしっかりと読んだ。手紙の内容はこうだ。
『――クリムへ。元気にしているか?突然だけど、俺の元に一人の兵士がやってきて城へ来るよう言われたんだ。何でも、あの王子様が俺と話がしたいらしい。クリム達にも来て欲しいと言ってたから、朝の用事を済ませたらすぐフェスティまで来てくれないか?待ち合わせ場所は町の中央区にある公園だ。来た事はあるだろ?それじゃ、待ってるぜ』
アルベルトの住んでる国にいる王子――つまり、シャルルが俺たちに用があるとの話だ。急な話だな…。もしかして例の魔物について何か分かったのだろうか?気になるし、絶対に行った方が良さそうだ。
「朝ご飯を食べて支度を済ませたら、すぐアルベルトの住むフェスティまで向かうわ。皆、分かったわね?」
俺を含めた皆はクリムに賛成し、朝ご飯を食べた後にすぐフェスティへ行く事になった。…あ、そう言えば。
「なあクリム、フリントにもこの事を伝えた方がいいかな?」
「うーん、そうね。あいつにも少なからず関係してる事だし。ナオト、悪いけど後でフリントを探しに行ってきてくれる?」
クリムは俺にフリントを探しに行ってきて欲しいと頼んできた。…朝っぱらから面倒くさい事頼まれたけど、まあ俺にはワープがあるから問題ないか。クリムもその事を分かってて俺に頼んだだろうし。
フリントのいる場所はだいたい目星が付いている。恐らく、この前ミントと一緒に行ったあの森の中で修行をしているんだろう。
俺は朝ご飯を食べ終わった後、すぐさまワープを使い森まで向かった。…今度は水浴びしてる最中に会わなければいいな。俺はそんな事を思いながら彼女を探しに行く。
――ズゴォォォォォン!!
森の中を歩いていると、突然どこからともなく大きな音が聞こえてきた。その音にビックリして俺は思わず立ちすくんでしまう。こ、この音は…。まさかフリントの仕業か?俺は音のした方に向かい走っていくと、フリントの姿が見えた。その近くには粉々に砕かれた巨大な岩がある。
やはりフリントの仕業だったみたいだな…。まあそのおかげで彼女を見つけ出す事は出来たが。
「おーい、フリントー!」
俺は大きく手を振りながら呼ぶと、フリントはすぐ俺の事に気づいてこっちを向いた。いつもと変わらない、明るい表情だ。
「あら、ナオト君じゃない。こんな朝早くからどうしたの?」
「実は――」
俺はフリントに、皆と一緒にフェスティにあるお城まで来て欲しいという事を伝える。急な用件にもかかわらず彼女はそれを快く応じてくれた。感謝するよ。
フリントを自分の家に連れて帰り、その後すぐに皆を連れてワープを使いフェスティまでひとっ飛びした。
フェスティに着くと、たくさんの人が建物を修復している光景を見かけた。ここの町に住む住民たちが協力して町を元通りにしようと頑張っているのだろうか。早く復興して、元の活気ある町並みに戻って欲しいな。俺もこの町には思い入れがあるから…。
しばらく歩くと公園が見えてきた…が、そこにはアルベルトはいなかった。
「あれ?アルベルト、ここで待ってると手紙で書いてあったのにいないな」
「まだこの時間帯には来てないと思っているんでしょ。仕方ないわよ、あんたがワープを取得しているなんて知らないんだから。ここでしばらく待ちましょ」
ああ、そう言えばアルベルトは俺がワープを使えるって事を知らないんだっけか。仕方ない、クリムの言う通りここでしばらく待っているとしよう。俺たちは芝生に座り、仲良く会話をしながら彼を待ち続けた。そして…。
「…あ、アルベルト!お先に来てたわよー!」
クリムが立ち上がり、手を振りながら彼の名を呼んだ。どうやら来たみたいだな。向こうを見るとアルベルトが何やら驚いている様子でこっちに走ってきた。
「えっ、ちょっ…。お前ら、先に来てたのかよ!?」
「そうよ。前会った時あんたに言うのを忘れてたけど、ナオトにはワープっていう魔法が使えるの。一度行った事のある場所なら一瞬でひとっ飛び出来るのよ」
「おいおいマジかよ。ナオト、お前そういうのズルくないか?そういう事はもっと早く俺に伝えてくれよな。一瞬焦ったじゃないか」
「ははっ、ごめんよアルベルト。…それよりも、今日は皆であそこにあるお城へ行くんだろ?」
「ああ、そういう事だ。まさかこの国の王子様から直々に招待されるなんて思ってもいなかったけどな…。ま、とりあえず行ってみようぜ」
俺たちはアルベルトについていき、お城に向かって歩いた。お城の入り口にたどり着くと門の両脇に武器を持った兵士が立っているのが見えた。侵入者が入ってこないようしっかりと見張っているんだろう。
アルベルトは見張りの兵士に近づき、彼に声をかけた。
「すいません、このお城に住む王子様に会いに来たのですが」
「…ん?ああ、君はアルベルトか。昨日の約束通り、ここへ来てくれたんだな。そこにいる人たちは君の仲間だね?」
「はい、そうです。…ほら皆、名前を言ってくれ」
俺たちは一人ひとり順番に自分の名前を言った。全員言い終わると、兵士は納得したようににこやかな表情になる。
「そうか、君たちが王子の言ってた以前この町を救ってくれた旅人だね。この間はどうもありがとう、君たちのおかげで助かったよ。…よし、入っていいぞ」
兵士はそう言うと、もう一人の兵士と一緒に門をゆっくりと開けた。お城の中に入るのって初めてだな…。そう考えると緊張してきた。俺たちは恐る恐るお城の中へと入っていく。
「――うわあ、すっげぇ!」
お城の内観は立派で、一つ一つが立派に作られている。その光景を見て俺は思わず声を上げてしまった。他の皆も、初めてお城の中へ入ったからかとても興味深そうにあちこちを眺めていた。
「凄い場所ね。私、今まで色んな場所を見てきたけど流石にここへ入るのは初めてだわ」
「あたしもー!この町にずっと住んでたけど、いつもお城の外側しか見れなかったから凄くワクワクしちゃう!」
「あんまりはしゃぐんじゃないわよ、あたしたちは遊びに来たワケじゃないんだから…。あっ、あそこにいるのって王子様じゃない?」
クリムが言った方を見ると、階段の上にシャルルがいて俺たちの事を温かく迎えてくれた。
「シャルル!」
「やあ皆、よく来てくれたね。私たちの住むお城へようこそ!早速だけど、話は私の部屋でするからついてきてくれ」
俺たちはシャルルについていき、彼の部屋に向かう。部屋に向かう途中、召使いの人や兵士たちが忙しそうに歩いている光景を見かけた。さすが偉い人が住んでるお城と言うだけあって、たくさんの人がこの建物の中にいるんだな。
部屋に着いて中に入ると、そこもまた立派な所だった。部屋の中には大きなベッドに暖房、ソファー、鏡、テーブル等々色んな物が置かれてある。天井には青空と雲が描かれた絵が飾ってあった。あまりにも豪華すぎて、俺からすれば個人で使うには勿体ないと感じるくらいだ。こんな素晴らしい場所で生活出来たら最高だろうなぁ。
「遅いわよー、シャルルー!私、ずっとこの部屋で待ってたのよ!」
部屋の中には一人の女性がシャルルに文句を言っていた。この見るからに上品な印象を与える人物は…確か、ベアトリスって名前のお姫様だったか。当たり前のように王子の部屋にいるけど、この人も俺たちと話がしたいのかな?
シャルルは彼女に軽く謝った後、俺たちをソファーに座らせた。シャルルも彼女の座っている向かい側のソファーに座る。
「…さて、今日君たちをここへ連れてきたのは他でもない。今回の話というのは、私たちは以前倒した例の正体不明の魔物についてだ」
俺の予想通り、あの黒い魔物についての話だそうだ。一体どんな話なのだろうか…。俺は真剣になって彼の話を聞く事にした。