悪い予感
途中で謎の魔物に襲われそうになってた人たちを助け終えた後、俺たちは町へ戻った。町に戻るとギルドの入り口付近でクリムとナラに出会う。どうやら二人は今日の依頼を終わらせてきたみたいだ。
「あ、ナオトさんにミントちゃん!お帰りなさい、今日の依頼は終わったんですか?」
「…いや、実を言うと今日は仕事を休む事にしたんだ。ちょっと別の用事があったからさ」
「ふーん。ま、いつも仕事ばっかやるのも疲れるだろうしたまにはそういうのもアリだと思うわ。…で、別の用事って何なの?」
「フリントに会ってきたんだ。久しぶりに顔を見たくなったからね。いつもと変わらず元気そうだったよ」
「なるほどね。二人ともご苦労様」
俺は二人に報告をした後、本題に入る。例の黒い魔物についての事だ。
「そう言えば、二人に聞きたい事があるんだ。俺たちさっきフリントと別れて町に戻ろうとした際なんだけど…」
「ん?何かあったの?」
「えーとね、森から出る途中で地面から黒い魔物が飛び出してきたの。頭に二本の角みたいなのがあって、目は一つで、口が大きい感じの奴。クリム姉ちゃんたちはこの魔物について何か知ってる?」
ミントは身振り手振りで魔物の特徴を二人に教えていた。真剣にやってるとはいえ、演技が少しオーバー気味だから思わず笑ってしまう。
二人は今のミントの話を聞いたあと顔を見合わせ、俺たちにこう言った。
「何よそれ?見た事も聞いた事もない魔物ね。本当にそいつと遭遇したの?」
「本当だって。俺、確かにそいつ等と会って戦ったんだから」
「うんうん!後ね、その魔物に襲われそうになってた冒険者たちにも会ったんだよ!それも全部ナオちゃんがやっつけたけどね」
俺たちは実際に遭遇したという事を話すが、二人はあまり信じてくれないようだ。うーん、困ったな。どうしたら信じてくれるのだろうか。
「あんたの言ってる事が本当だとしても、あたしたちは実際に会った事がないから何とも言えないわ。悪いわね」
「そんなぁ。あの魔物をやっつけてた時のナオちゃん、かっこよかったのにー」
「あの…二人ともごめんなさい。でも、もしナオトさんの言ってた魔物に会ったら報告しますね!」
俺とミントは腑に落ちないまま、家に戻った。家に戻って昼ご飯を食べ終わった後、自分の部屋に行ってさっきの魔物の事を思い出す。あの魔物…本当に何者だったんだろう?俺が今まで出会った奴に比べると異質だったし、それにあいつを見たという人は現時点で一人もいないのだ。明らかに普通の魔物とは思えない。
…俺は何か胸騒ぎを感じた。
「ねえナオちゃーん、ちょっといいー?」
考え事をしていると、扉をノックする音がした。扉の向こうからミントの声が聞こえてくる。何か珍しいな、ミントが扉越しで俺の事を呼ぶのって。
「どうしたんだ?」
「あのね、ナオちゃんに会いたいって子がいるの。その子、何か焦ってるみたいだったよ」
俺に用がある子…?はて、知り合いにそんな人いただろうか。俺は疑問に思いながら部屋から出て一階におりる。一階に行くと小学生くらいの男の子が部屋の中に立っていた。
「その子は?」
「さっきクリムさんと一緒に外へ出かけた時、たまたま町中で会ったんです。この子、私の事を見るなり急にナオトさんの知り合いですね?って聞いてきて…」
「それで、ここへ連れて来たという事か」
この子はナラを見て反応をしたらしい。ナラを見て俺の知り合いだと判断したって事は、俺たちは以前この子と会った事があるという訳か。身に覚えはないのだが…。
そんな事を思っていると、男の子は俺を見て喋ってきた。
「あ、あなたがナオトさんですね?やっと見つかりました」
「そうだけど…俺に何か用なのか?」
「はい。実は僕の住んでる町が今、見た事のない魔物に襲われて大変な事になっているんです」
見た事のない魔物…?まさか、俺がさっき倒したのと同じ奴とかじゃないよな。
「なあ、君の言ってるその見た事のない魔物ってどんな感じの奴なんだ?」
「えっと…色んな形のがいるんですけど、どれも影のように黒い色をした魔物でした」
影のように黒い色をした魔物…まさか、あいつ等か?でも色んな形をした奴がいるというのが気になるな。さっきの球体の形をした奴の他にも色んな個体が存在しているのだろうか。
「ねえナオちゃん、もしかしたらこの子が言ってるのって…」
「ああ、ひょっとしたら可能性はあるな」
俺はそう確信した。
「…ところであんた、どこの町から来たの?」
「はい。ウェスターンという国にあるフェスティって町です。僕は馬車に乗って、この国にいるというナオトさんという人を探していたんです。その人なら、きっとあの魔物たちをやっつけてくれると信じていたので…」
フェスティ…以前俺たちがフリントに誘われて行った城下町の事か。そんな遠い所から俺を探しに来たという事は、あの町はかなりの危機に陥っているようだ。
「そうなのね。でも、どうしてナオトを探していたのよ?」
「それは…。以前、大会であの化け物を倒したナオトさんなら何とかしてくれると思っていたからです」
大会の時に俺が倒した化け物って、神の力で変身したダミアンの事を言ってるのか。確かに俺はそいつを倒したが、あれは皆が協力してくれたおかげであって俺一人で倒した訳ではない。
さすがの俺でも、その新種の魔物たちを全員倒す事が出来るかどうか…。正直微妙な所だ。
「ナオトさん、助けて下さい!このままでは僕のお父さんやお母さん、友達もあいつ等に食べられてしまうかもしれないんです!」
男の子は涙目になりながら俺に助けを求めてくる。そこまでされたら助けに行かない訳にはいかない。だけど、さっきも言ったように俺一人で何とかなる相手ではなさそうだし…。だったら方法は一つ。
「なあ皆、俺と一緒に魔物を退治しようよ!皆で力を合わせればどんな奴でも絶対に勝てる!やってくれるよな?」
俺はクリム達と一緒にその魔物を退治する事を提案した。
「…分かったわ。あの町にいるあいつの事も気になるし、あたしたちも一緒に行くわよ。ナラ、ミントも賛成するわね?」
「当然です!困った時はお互いに助け合う、ですよ!」
「フェスティはあたしの故郷だもん、助けない訳には行かないよ!」
皆はすぐ俺の意見に賛成し、一緒に来てくれる事になった。
「あ、ありがとうございます!皆さんならきっとあの魔物を倒してくれるって信じてます!」
男の子は今の話を聞いて希望に満ちた表情になる。この子の期待に応えるよう頑張らないとな。俺たちは準備をしっかりとやった後、フェスティに向けて出発する事になった。