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俺が王子様!?

 俺とミントのギルド生活は続いていた。俺は彼女に色んな事を教えながら共に行動をした。武器の手入れはこまめにやる事。途中で疲れたら無理をしないでどこか安全な場所に行って休憩を取る事。凶暴な魔物にうっかり会ってしまったときは相手をせずその場から逃げる事…。

 ミントは俺の言った事をしっかりと理解している様子だった。前にも言ったが、俺は何かを教えるのはあまり得意ではない。なので俺の言った事を素直に聞いてくれるだけでも嬉しかった。

 その成果もあって、ミントは順調にギルドランクを上げていく。依頼が一つ達成する度に見せる彼女の笑顔はとても可愛らしく、これを見るだけでも非常に達成感があった。


「――今だ、ミント!そのまま撃って!」

「うん!」


 そして今日も、一つの依頼が達成されようとしていた。俺とミントは草むらに隠れ、レッドベアーと呼ばれる赤みがかった色の熊に似た魔物を討伐する最中だ。ミントはそいつに狙いを定め、俺の指示通りにクロスボウから矢を発射させる。

 矢はレッドベアーの腹の部分に見事命中し、悲鳴を上げながらそのままゆっくりと倒れていく。


「わーい!倒したー!」


 ミントは喜びながら、草むらから出てレッドベアーの所へと近寄る。以前ダミアンとの戦いで俺を助けた時にも思ったが、彼女の放つ矢の命中率は百発百中と言ってもいいくらい高い。生まれつきの才能って奴なのだろうか。

 よし、これで今日の依頼も無事に終わりそうだ…うん?


(あ、あれは…!)


 ミントの背後をよく見ると、さっき倒された個体とは別のレッドベアーが出てきた。仲間を討伐された怒りからか、今にも彼女を襲おうとしている。

 …ミントはまだ、背後に奴がいるという事に気づいていないようだ。このままではまずい!


「ミント、危ないっ!」


 俺は急いで草むらから飛び出し、レッドベアーに向かって剣を振りかざす。剣が奴の胴体に当たり、そこから血を吹き出しながらレッドベアーは地面に倒れていった。…ふぅ、間一髪セーフって所か。


「ナ、ナオちゃん…」


 ミントは顔をこわばらせながら俺の方を見つめる。今にも泣き出しそうだ。

 俺は怖がっている彼女を安心させる為にそっと頭を撫でると、ミントは俺に勢いよく抱きついてきた。


「――うわぁぁぁぁん!あたし、怖かったよぉー!」


 ミントは大声を出しながら泣いていた。無理もない、俺があと一歩遅れていれば今頃あいつに襲われていたかもしれないのだから…。

 クロスボウを扱う腕はプロ並みだが、冒険者としてはまだまだ未熟だ。だからこれからも、俺がしっかりと支えてやらないとな。


「もう大丈夫かい?」

「…うん。たくさん泣いたらスッキリしちゃった。ナオちゃん、早く証拠品を持ってギルドに戻ろうよ!」


 数分経つとミントはすっかり泣き止み、元気な性格に戻っていた。喜んだり悲しんだり、ミントって感情の切り替えが早い子だなぁ。良くも悪くも子供らしいというか。

 俺たちは討伐の証拠としてレッドベアーの牙を抜き取り、この森から出る事にした。




 ギルドへ戻ると、丁度クリムとナラの二人が依頼の報告を受けている最中だった。それが終わると二人は俺たちの方に気づきこっちに向かってくる。

 丁度いいや、久しぶりに出会うし会話でもしておこうか。


「あら、ナオトにミントじゃない。今日も無事に終わらせてきたみたいね」

「うんっ!今日もナオちゃんのおかげで頑張る事が出来たよ!…途中で危ない目に遭ったけどね。あはは」

「途中で危ない目に遭ったって、何かあったんですか?」

「ああ、それなんだけど――」


 俺は二人に、魔物の討伐をやってる途中でミントがレッドベアーに襲われそうになったという事を話した。


「そんな事があったのね…。ミント、怪我はしてない?」

「あたしなら大丈夫だよ。ナオちゃんがすぐ助けてくれたからね」

「それは良かったわ。ナオト、あんたも少しずつだけど男らしさが上がってきているんじゃない?」

「そ、そうかな…」


 クリムにそう言われて俺は頭をかいた。俺がこの世界に来てからいつも女の子に助けられてばかりだから、男らしさを見せる場面がなかなかないんだよな。…まあ元々、俺に男らしさとかそういうのは持っていないんだけどさ。クリムからヘタレ呼ばわりされるくらいだし。


「ところでミントちゃん、ナオトさんと一緒にギルド生活を送るのは楽しいですか?」

「うん。すっごく楽しいよ!あたしのペースに合わせて一緒に動いてくれるし、色んな事を優しく教えてくれるし…。それに、さっきみたいにあたしが魔物に襲われそうになった時にはすぐ駆けつけて助けてくれるから、側にいるだけでも安心しちゃうんだよね」


 ミントは俺の事を褒めちぎる。やめてくれよ、ますます照れるじゃないか。俺が元の世界にいた時には女の子からそんな事を言われるのは絶対に無かったから尚更だ。


「あたしね、初めてナオちゃんと出会ってから思っていたんだけど…。ナオちゃんはあたしが想像している『王子様』みたいな人だと思ってるの」

「えっ?」


 お、俺が王子様みたいな人だって?俺は今の発言を聞き、思わずすっとぼけた声を出してしまった。いきなり何を言い出すんだ、この子は?


「王子様?あんた、ナオトのどこを見て王子様っぽいと思ったワケ?」

「うーんとね…そう思った理由は色々あるけれど、一番はやっぱり強くてカッコいい所かなぁ。あたしね、昔からそういう男の人に憧れてて、大きくなったらその人と一緒になって幸せに過ごしたいって夢があるの」

「ふーん。要するにあんた、将来はナオトと結婚したいって願望を持っているのね?」

「うん、そういう事!えへへっ」


 …ちょっと待て。クリムも突然何を言っているんだ?俺がミントと結婚するだって???


「ナオト、今の話聞いてた?ミント、将来はあんたと結婚して幸せな家庭を築きたいそうよ。それを実現させる為に、これからもしっかりとこの子の面倒を見なさいよ。分かった?」


 クリムはニヤニヤと笑みを浮かべながら俺にそう言ってくる。…絶対にからかってるだろ、俺の事。

 俺はどうやって反応を返せばいいのか分からず、ただこの場で慌てる事しか出来なかった。というか勝手に決めるなよ…。


「それじゃ、頑張ってね。ミントの『王子様』?」

「あ、あの…。それじゃあ、私たち先に行ってますね!」

「お、おい!待ってくれよー!」


 俺は慌てて先にギルドから出た二人を追っかけた。…やれやれ、今日は色んな意味で疲れたよ。早く家に帰ってゆっくり休もう。

次話を投稿するのが遅い日が続いてしまい、申し訳ありません…。

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