服を買いに行こう
トレラントという場所は、俺の予想通り活気づいた町だった。町の周りには店がたくさん並んでおり、そこで買い物をしてる人や、主婦と思われる女性たちが世間話をしている光景を見かけた。
町の中を歩いている途中、楽しそうに駆け回っている子供たちにも出会った。それを見ているだけでも、何だかホッと安心できる。
「どう?この町、結構いい場所だと思わない?」
「うん。何か落ち着く」
「でしょー?この町は治安が結構いい方だしね」
このトレラントという町はクリム曰く、治安がいい所だそうだ。…という事は、逆に治安が悪い町もあるという訳なのか?
考えただけでも怖くなってきた。どうかそういう場所に行く機会がありませんように。
「それじゃあナオト、まずはあんたの新しい服を買いに行くわよ。服屋の場所は知ってるから、あたしたちに付いてきて」
俺は二人に付いていき、服屋まで行く事にした。歩いて数分後、町の西側に目的の服屋を発見。結構大きな建物だ。
看板には『モーディッシュ』と書かれているのが分かる。…そういや、この世界で使われる文字は俺がさっきまでいた世界と違うはずなのに普通に読める。これもロゴスから貰った能力のおかげだろう。
この世界の文字を一から学ぶなんて面倒な事にならなくて良かった。
「ここがこの町の中でも有名な服屋、モーディッシュよ。アーサーさんっていう人が一人でやってる店なの」
「私たちも冒険者ギルドに入る前、この店で冒険者に相応しい服装を買った事があるんですよ~」
冒険者に相応しい服装か。俺もそういうの着てみたいな。そう思いながら、俺たちはモーディッシュの中へと入っていく。店の中は服がたくさん飾っており、どれも初めて見る物ばかりだ。
店の奥には眼鏡をかけた小太り気味なおじさんが座っている。どうやら仕事中のようだ。
「アーサーさーん!新しい服を買いに来たわよー!」
「ん?…おお、誰かと思えばクリムちゃんにナラちゃんか。いらっしゃい、随分久しぶりだね」
アーサーさんという人は店に入った俺たちを見て優しく迎えてくれた。どうやら彼は、この二人と知り合いのようだ。
「ふむふむ。君たち、新しい服を買いに来たのかい?」
「はい。とは言っても、私たちの服じゃなくてこの人の服を買いに来たんです」
「ふむ。そこにいる男の子の事だね」
アーサーさんは俺の事をじろじろと見てくる。やはり俺の制服が珍しいのだろう、興味深そうに見ていた。
…そんなに見られると、ちょっと恥ずかしいなぁ。
「ほう、これはまた珍しい服装をしているなぁ。君、名前は?」
「ナオトって言います」
「ナオト君か。服装だけじゃなく、名前も珍しい方だね」
まあそりゃそうだろう、俺は別の世界から来たんだからな。この世界の人間からすれば珍しいと思うのも無理はない。
「さて、ナオト君と言ったね。君に合う服を私が探してくるから、君は試着室の方に行ってくれるかい?」
「分かりました」
俺はアーサーさんの言う通りにし、試着室の方へと向かう。そして俺は、アーサーさんが持ってきてくれたたくさんの服を試着する事にした。
「まずはこの服だ」
「うーん、サイズは丁度いいけど色が俺には派手すぎるかなぁ」
「では、次はこの服」
「ちょっとぶかぶかしてるかも…。俺には着れるもんじゃないですね」
「この服はどうかな?」
「あっ、これなかなか行けるかも!とりあえず保留で」
こんな感じで、服の試着は30分くらいかかった。なんか、親と一緒にデパートに行ってた頃を思い出すなー。あの時は退屈で仕方がなかったよ。
結構時間がかかったし、そろそろどの服にするか決めないとな。
「よし、次はこの服だ。これなら君も絶対に満足してくれるだろう」
次に俺が着たのは、グレーを基調とした動きやすいタイプの服だった。サイズは大きくも小さくもなく、丁度いい。おまけになかなか格好いい。
…よし、決めた。この服にしよう!
「アーサーさん!俺、この服買います!」
「そうか、この服にするんだね。やはり私の思っていた通り、気に入ってくれたようだ。よかったよかった」
俺はさっきクリムから貰ったお金を使い、新しい服を購入した。これで町中をうろついても怪しまれる可能性は無くなったという訳だ。
ちなみに、俺が着ていた学校の制服はアーサーさんが「興味深い物だから私に預けて欲しい」と言ってたので彼に預けて貰う事にした。…どうなってしまうんだろう、俺の制服。
俺はそんな事を考えながら店を後にした。
「どうかな、この服?結構格好いいと思って選んだんだ」
「似合ってますよ、ナオトさん♪私も格好いいと思います!」
「まあまあといった所ね。ま、さっきの服に比べればさまになっているわよ」
二人からも好印象のようで何より。よし、これで服の購入は終わった。問題はこれからどうするか、だが…。
「ところでナオト、これからあんたはどうするつもりなの?」
「うーん。俺、お金を持ってないからどこにも行けないしなぁ」
この町には飲食店や宿屋はあるだろうが、お金がないからそこで食事をする事や泊まる事も出来ない。俺はこれからどうすればいいんだ?
「…あ、そうだ!ナオトさん、私たちの家に行きませんか?」
悩んでいると、突然ナラがそう言ってきた。これはつまり、俺を二人の家に泊まらせてくれるって事なのか?
「いいのか?二人の家にお邪魔しちゃって」
「はい。ナオトさん、困っている様子でしたから…。いいですよね、クリムさん?」
「…ま、あんたがお金を持ってない以上は仕方ないわね。いいわ、あたしもあんたを歓迎してあげるから」
他所の世界から来た人間である俺を仲間に入れてくれるばかりか、家に行かせてくれるなんてこの二人は本当に優しいんだなぁ。あまりにも都合が良すぎて後が怖くなってくるけど…。
でも今は素直に二人に感謝しよう。ありがとう、クリム、ナラ。
「さ、着いたわ。ここがあたしたちの家よ」
俺は二人が住んでいる家に到着した。二階建ての家で、外観はしっかりと造られた木材になっていた。
「ここは元々空き家だったんですけど、私たちが自立する時に買ったんです。私の両親とクリムさんの両親が、就職祝いで記念に買ってきてくれたんですよ」
自立?って事は、この二人はもう親から離れて生活をしているのか。歳は俺とあまり変わらないだろうに、頑張るんだな。
家に入ると、中にはテーブルや椅子、棚やソファーといった一般的な生活用品が置かれている。また、キッチンルームやトイレ、シャワールームなども完備されてるのが分かった。
随分と立派な家だ、こんな家に泊まらせてくれるなんて俺はとことんついてるなぁ。
「それじゃあ、あたしたちはこれからギルドに戻って依頼の報告をしに行ってくるから。あんたは二階にある部屋でゆっくり休んでて」
「二階は奥にある階段から行けますよ。それから、部屋は扉に名前が書かれていないのを使って下さいね」
二人は俺にそう言って、家から出た。俺は二人から言われた通り、家の奥にある階段から二階へと上っていく。そこには、旅館にある廊下のように扉がいくつも並んでいた。
扉を見ると、その中に「クリム」「ナラ」と書かれた物がある。恐らくここが二人の自室なんだろう。そこを通り過ぎ、俺は扉に何も書かれていない奴を見つけた。
俺はその扉を開く。部屋の中にはベッドや電気スタンド、鏡やタンスが置かれていた。まるでホテルの自室のようだ。
とりあえず俺は疲れたので、ベッドで横になる事にした。いやぁ、それにしても今日は色々な事があったな。いつも通り学校が終わって家に帰ろうとしていたら、トラックに轢かれて死んでしまったと思ったらロゴスという神様によって別世界に蘇らせて貰ったり、蘇って早々モンスターに襲われそうになったり、襲われる直前に俺の片手から謎のエネルギーが放出されたり、その後にクリムとナラに出会ったり…。
昨日の俺に、明日こんな事が起きると言ってもまず信じないだろう。というか信じる方がおかしいけど。
さて、これから俺は何をしようか。蘇ったのはいいが、まだ俺はこの世界の仕組みとか全然知らないし…。
そういえば冒険者ギルドという職業があるって二人が言ってたけど、それ少しだけ気になるな。後で二人に、その事について聞いてみようか。
投稿が遅くなってすいません!