故郷へ帰還
皆さま、明けましておめでとうございます。今日から連載を再開します。
新しく仲間になったミントを連れて行き、馬車に乗ってトレラントへと戻ってきた俺たち。町に入ると、ミントは興味津々になりながら町中を見ていた。
「ここがナオちゃんたちの住んでるトレラントって町なんだね」
「ああ、そうだよ。フェスティに負けないくらい賑やかな町だと思わないか?」
「うんっ!あたし、ここにいるだけでもワクワクしてきちゃう!」
ミントはこの町を気に入った様子だ。これからは俺たちと一緒にこの町で住む事になる訳だから、早く慣れて貰わないとな。…あ、そう言えば。
「なあミント、お金はどれくらい持っているんだ?」
「え?…ええとね、正直に言っていいかな。実はあたし、まだギルドで働いていないからお金はそんなに持っていないの」
マジか。それじゃあ、外で買い物をしたり宿屋に泊まったりするのは出来ないという事になるな…。そういや俺も、この世界に来たばかりの頃はお金がない事に困っていたんだっけ。俺はふとその事を思い出し、懐かしくなった。
「なあ皆、どうしよう?この子、お金はそんなに持っていないとか言ってたけど…。何か助けとか出来ないかな?」
俺は皆に、お金を持っていない彼女を何とか助けてあげる事は出来ないか聞いてみる事にした。すると、真っ先にナラがこう言ってきた。
「…あの、確か私たちの家に空き部屋がもう一つありましたよね。だから、そこをミントちゃんの部屋にして私たちと一緒に住むというのはどうでしょうか?」
「えっ、ナオトと同じように居候させるの?」
「はい。だってミントちゃん、お金が無くて困っている様子だから…。それに、あの子を一人にさせたらまた危ない人に襲われるかもしれませんし」
「うーん…。ま、それもそうね。いいわ、ナラの意見に賛成してあげる。ナオトも賛成するわね?」
「ああ、勿論だよ」
俺たちはナラの意見に賛成し、ミントを俺たちの家に住ませる事になった。俺はその事をミントに話すと、たちまち笑顔になって俺に抱き着いてくる。さ、さっきのクリムと同じパターンだ…。
「わーい、ありがとうナオちゃん!改めてよろしくね!」
「わ、分かったよミント…。分かったから俺から離れてくれっ」
俺は仰向けになりながらミントにそう言った。…とにかく、これでミントは安心してこの町でも生活出来そうだ。
俺たちはフリントと一旦別れ、自分達の家に帰ってきた。家から出て一日しか経っていないのに、久々に帰ってきたような感じがする。
家に入ると、俺はミントに二階にある空き部屋の所まで案内させた。扉を開けると、ミントは部屋の中をまじまじと見ていた。
「ねえねえ、この部屋はあたしが全部使っていいの?」
「うん、自由に使っていいよ。この空き部屋は今日から君の物になるんだからね」
「えへへー、嬉しいな♪」
ミントは部屋に入り、奥にあるベッドに飛び込んだ。ベッドの上ではしゃぎ回っている姿はとても可愛らしい。
…少し疲れたし、俺も自分の部屋に行ってベッドで横になろうかな。ふぁ~あ。
俺は自分の部屋でゆっくりと休んでいた。昨日行った宿屋も快適だったけど、やはりここが一番落ち着く。俺は隣にある棚の上を見た。そこには昨日、俺が大会で優勝した時に貰ったトロフィーや、受付の人に渡せなかったので自分で保管する事になったコピースライムのコアがある。
どっちも、俺の持つ『神の力』のおかげで手に入れた物だ。やはりこの力は凄い。昨日俺と戦ったダミアンという人物が興奮するのも少しだけ分かる気がする。
神の力といえば、ふと俺はダミアンがあの黒い服の女の子からその力を手に入れたという話を思い出した。昨日も同じ事を思っていたが、やはりあの女の子はロゴスと同じ神様なのだろうか?だがそれよりも、何故あの子が一人の人間に神の力を渡したのかが分からない。彼女の目的は何だ?考えれば考えるほど謎が深まってくる。
…とにかく、今はあまり深く考えるのだけはやめておこう。『過ぎたるは及ばざるが如し』ってことわざもあるしな。
「ナオちゃーん、そこにいるの?下でクリム姉ちゃんたちが待ってるみたいだから、あたし先に行ってるね」
考え事をしていると、扉の向こうからミントの声がした。休憩は十分取れたし、そろそろ行くとするか。俺はベッドから起き上がり、支度をしてから部屋を出た。
俺たちはミントと一緒に冒険者ギルドへと向かった。ミントはこういう建物の中に入るのは初めてだからか、どこか緊張している様子だ。何かちょっと前の俺を思い出すな…。
ちなみにフリントは別の用事があるという理由で一緒には来れなかった。ちょっと残念。
「どうしたのよミント、体が少し震えているわよ?」
「う、うん…。あたしね、ちょっとだけ緊張してるの。冒険者ギルドで働くのって初めてだから」
「大丈夫よミント、あんたは一人じゃないわ。困った時はナオトに何でも相談しなさい」
「そうそう…えっ?」
クリムの発言で俺は思わず困惑してしまった。…そこはクリムがやるんじゃないのか?待ってくれよ、俺だってまだ分からない事がたくさんあるというのに…。
「ちょっとクリム!そこは二人が教えてくれるんじゃないのかよ!?」
「当たり前よ。いつまでも初心者を指導する立場にはなれないわ。あんたも十分先輩なんだから、あんたが面倒を見てやりなさい」
「そんな事言ったって…」
「あんた男でしょ?男だったら女の子に格好いい所しっかりと見せなさいよ」
…むぅ、確かに。クリムの言う通り、そろそろ俺も女の子に格好いい所を見せた方がいいかもしれないな。普段からその女の子に甘えてばっかだったし。しょうがない、俺がミントの面倒を見てやるとするか。
「えへへ~、よろしくねナオちゃん!」
気が付くとミントが俺の側に寄ってきていた。この子を危ない目に遭わせないためにも、俺がしっかり頑張らないといけないな。俺はそう決心し、ギルドの中へと入っていった。