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大会終了後の話

 俺たちは避難所にいる人たちを安心させた後、宿屋に泊まり今日の疲れを癒した。今日は色々な出来事があった。この世界に来て初めて違う町へ行った事、そこで男たちに襲われてた冒険者見習いのミントという子を助けた事、大会に参加した際にクリムの幼馴染であるアルベルトに会った事、そして本戦で神の力を手にした剣士、ダミアンと戦った事…。振り返ると本当に充実した一日だったな。

 俺は自分の部屋に行き、ベッドに横たわる。ふかふかでとても気持ちいい。今日はぐっすりと眠れそうだ…ふぁ~あ。


 ――コンコン。


 俺があくびをした瞬間、扉をノックする音がした。誰だ?こんな夜遅くに…。


「ナオト君、部屋に入ってもいい?ちょっとだけ話がしたいの」


 扉の向こうから女性の声が聞こえた。その声は…フリントか。俺と話がしたいそうだが、一体何だろう?眠いけど、ちょっとだけと言うなら聞いてあげるか。


「ああ、入っていいよ」


 俺はフリントにそう言った。扉が開き、フリントが部屋に入ってくる。フリントはどこか悲しげな表情をしていた。


「どうしたんだフリント?そんな顔して」

「うん…。その、さっきの大会の話なんだけどね。ナオト君、決勝であのダミアンって人と戦ったでしょ」

「ああ、戦った」

「ダミアンがナオト君と戦って、その後どうなったのか気になってて…。正直に答えて、ナオト君。あの人は生きてるの?それとも死んだの?」

「それなんだけど…」


 俺はフリントに、ダミアンは俺の放った魔法で跡形もなく消え去ったという事を正直に話した。フリントはそれを聞き、残念そうにため息をつく。


「…やっぱり、あの人は最後まで元に戻る事はなかったのね」

「ごめんよ、フリント。俺も最初はあいつを説得させようと試みたんだけど、どんな事を言っても全然聞いてくれなくてさ。だから、最後はああせざるを得なかったんだ」

「ううん、ナオト君は謝らなくてもいいのよ。君は精一杯頑張ったんだから。…ただ、私の憧れだった人があんな風に変わり果ててしまったのがショックでね」

「憧れだった?」

「ええ。私がまだこの町にいた頃、よく親と一緒に闘技大会を見に行ってたの。その時に見た試合で初めて彼の戦っている所を見た時、私は驚いたわ。あんなに強い人がこの世界にいるなんて、ね。あの戦いを見て、私もあの人みたいに強い人間になりたいって気持ちが湧いてきたのよ」

「…それで、フリントは冒険者になったという事なのか」


 フリントはこくりとうなずく。なるほど、フリントはダミアンが戦っている所を見て冒険者になろうと決めたんだな。彼女の人生を大きく変えた人物という訳か。


「一年前、ダミアンが試合中に相手を殺してしまったという話を聞いた時はビックリしたわ。あの人がそんな事をしてしまうなんて微塵にも思っていなかったから…。最初は凄くショックを受けたわね。だけど、あの人の事だからすぐに汚名返上して戻ってきてくれると信じてたの」

「でもフリント、あの事件のせいで世界中にいる殆どの人から嫌われてしまったって話を本人から聞いたよ」

「そうかもしれないけど…。でも、その中には私みたいに変わらず応援してた人もいたと思うわ。それなのに…それなのに、あんな事になってしまうなんて」


 フリントはうつむき、また悲しげな表情になる。フリントは今にも泣きだしそうだ。こんなに悲しんでいるフリントを見るのは初めてだな…。


「ねえ、ナオト君。ダミアンは世間の人たちから非難されて居場所を無くしてしまったけれど、それでも変わらずあの人を応援してくれる人が側にいたら…。きっと、全ての人間に復讐するなんて事は考えなかったんじゃないかって思うの」


 フリントは俺にそう聞いてきた。確かに、ダミアンの事を変わらず応援してくれる人が側にいてくれたら彼の人生も変わっていたかもしれない。全ての人間に復讐するなんて事は考えなかったかもしれない。あの女の子に会って、神の力を手に入れるなんて事はしなかったかもしれない。そして…俺に倒される事はなかったかもしれない。

 ダミアンは自分の居場所を失い、一人ぼっちになって生きるしかなかったのだ。それがどんなに怖くて寂しい事なのか、俺にも何となく分かる気がする。もし俺もダミアンと同じ立場になってしまったら、きっと彼と同じ事をしていたかもしれないな…。

 ――神の力を手に入れた人間がどうなってしまうのか。俺はふと、あの女の子が言ってた事を思い出した。


「ごめんね、こんな暗い話を持ち込んで。せっかく優勝したんだから、こんな事を話すのは良くないわよね」

「…ううん、いいんだ。フリントの気持ちはよく伝わったから。少しは気持ちがスッキリしたんじゃないかな?」

「うん、少しだけスッキリしたわ。私の話を聞いてくれてありがとね、ナオト君」


 フリントは俺と話して気持ちがスッキリしたからか、またいつもの明るい表情に戻っていった。うん、やっぱり彼女には明るい顔が似合ってるよ。


「じゃ、ナオト君!また明日ね!」


 フリントはいつもの明るい声で、俺にそう言った。…ふぅ、これでやっと眠れそうだな。




 翌日、俺たちは宿屋から出て帰る準備をした。その途中で、アルベルトとミントの二人が俺たちの所へやって来る。俺たちを見送りに来たんだろうか。


「よう、みんな!もう帰るのか?」

「そうよ。もうここでの用事は終わったし、あたしたちの町へ帰るわ」

「そっか…。あーあ、せっかくお前とナラに会えたってのに残念だな。またしばらく会えないんだろ?」

「さーね。ま、あんたは期待しないでギルドで働いてなさい。あたしたちと会うよりももっといい事がそのうち起こるはずよ」


 相変わらずアルベルトが相手だとツンツンした態度になるんだな、クリムは…。まあいつもの事だろうが。


「ク、クリムさん。その言い方はさすがにないと思いますよ?」

「いいんだ、ナラ。短い間だったけど、久しぶりに二人に出会えて楽しかったぜ。んじゃ、またいつか会おうな」


 アルベルトはそう言い、その場から立ち去った。本当は彼も仲間に入れたかったんだけど、ギルドを掛け持ちするなんて事は出来ないだろうしな…。それに俺たちの住んでる町から結構遠いし。


「あっ、待ってアルベルト!あんたにこれを言うのを忘れてたわ」


 とその時、クリムがアルベルトを呼び止めた。アルベルトはすぐさま振り返り、クリムの方を見る。


「ん、何だ?」

「き、昨日のあんたの戦いぶりを見てて思ったんだけど…。あんた、あの時の約束をちゃんと守ってくれたようね。前よりも確実に強くなってたわよ、アルベルト!」


 アルベルトは今の発言を聞くと、ニヤッとしながら何も言わず立ち去った。…クリムに褒められて嬉しかっただろうな、アルベルトは。またいつか、あいつと会える日が来るといいな。


「ところでミント、あんたはこれからどうするの?」

「あたし?…うーん、あたしは出来れば皆と一緒にいたいな。皆といれば安心してギルドに行けそうだし、それに皆と一緒にいるだけでも楽しいんだもん」


 ミントは俺たちの仲間に入れて欲しいそうだ。どうしよう?俺は別に構わないけど、皆がそれを受け入れてくれるかどうか…。


「どうしますか、クリムさん?」

「うーん…。ま、仲間は多いに越した事はないって言うしね。それにあの子を放っておけば、また変な奴に目を付けられる可能性があるわ」

「それじゃあクリムちゃん、この子を仲間に入れるのね?」

「…ええ、いいわよ」


 クリムの発言を聞いたミントは、たちまち笑顔になっていく。そしてミントはクリムにギュッと抱き着いた。


「わーい、ありがとうクリム姉ちゃん!あたし、皆の足を引っ張らないように一生懸命頑張るからねっ!」

「わわ、分かったよミント…。分かったから離れなさいっ」


 俺たちはその光景を見て笑いあった。ミントはまだ駆け出しの冒険者らしいけど、昨日のクロスボウの腕前を見る限り才能はかなりありそうだ。期待してるよ、ミント。

 こうして、ミントは俺たちの仲間に加わる事になった。…また女の子が一人増えたな。

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