勝利を掴み取れ!
俺とアルベルトは倒れているダミアンの所まで走った。近づいてみると、改めてかなりの大きさだという事が分かる。
さて、どうやってこいつにダメージを与えるか…。
「アルベルト、どうやってこいつを倒すつもりなんだ?」
「そりゃ決まってるだろ。ここを集中的に狙うのさ!」
アルベルトはダミアンの頭に乗ると、そこを剣で何度も攻撃した。なるほど、確かにそこなら奴にダメージを与える事が出来そうだ。よし、俺も!
俺もダミアンの頭に乗り、アルベルトと一緒に奴の頭を何度も剣で攻撃した。何度かやっていくにつれ、奴の頭から血が噴き出してくる。この調子でやれば、さすがのダミアンでも苦しむはず…!
「お…おい、ナオト!見ろ!」
突然、アルベルトが手を止める。俺はアルベルトの言う通りに奴の頭を見ると、今俺たちが傷つけた場所が徐々に治っていくのが分かる。ど、どういう事だ?まさかあいつ、自然に回復出来る力も得たというのか!?
俺はその様子を見て茫然としていると、後ろからダミアンの巨大な手が現れた。
「「う、うわあっ!」」
ダミアンは虫を追い払うかのように、俺たちを手で大きく払った。俺たちはダミアンの頭から離され、地面に落ちてしまう。
『ふ、ふっふっふっ…。無駄無駄っ!私に傷をつけた所で、この完全治癒能力があればそれも全て無駄になるっ!私の身体全部を木っ端微塵にでもしない限り、私を完全に倒す事は不可能よっ!!』
ダミアンは俺たちを嘲笑い、そう言った。…なんて事だ、これじゃあダミアンに傷を付けた所で何の意味もないじゃないか。傷を自然に回復出来る能力を持つ相手なんて、どうやって倒せばいいんだよ!どうすれば…。
(…いや、待てよ。あの魔法が一つ残ってた!)
俺はふと、あの魔法を覚えてた事を思い出した。昨日俺が魔法の練習をした際、あまりにも危険なのでむやみに使わない方がいいと決めたあの魔法…。『バースト』だ。
もしかしたら、あの魔法をダミアンにぶつければ奴を木っ端微塵にする事が出来るかもしれない。…だが、あの魔法をここで使えばどうなるか。間違いなく会場内が大爆発を起こし、ここにいる俺たちも含めて跡形もなく消えてしまうだろう。
せめてあいつを空に浮かせ、その隙にバーストを放てば被害を最低限に抑える事が出来るかもしれないが…。
「おいナオト、何をボーっとしているんだよ!上、上っ!!」
アルベルトが俺に向かって叫ぶ。その声を聞いて俺はハッと我に返り、上を見る。そこにはダミアンが俺たちの事を足で踏みつぶそうとしていた。…だ、駄目だ!避けるのに間に合わないっ!
これはもう駄目だと思い、俺は目をつぶった。
「――させませんっ!」
踏みつぶされるのを覚悟していた瞬間、突然どこからか声が聞こえた。気が付くと前に一人の少女がダミアンの足を必死に押さえている。こ、この子は…!
「ナ、ナラっ!」
ダミアンを足を押さえていた人物は、第二試合でダミアンにやられ怪我をしたはずのナラだった。何故彼女がここに?
「ナラ、どうしてここにいるんだ!怪我はまだ治っていないだろ!?」
「いえ、もう怪我は大丈夫です。さっきここへ来た際、クリムさんに傷を治して貰いましたから!私、医務室で目が覚めた時にナオトさんの事が心配だったのでつい…」
医務室から抜け出して、無理矢理会場へ来たという事か。さっきまでボロボロになっていたというのに無茶するな、ナラは。
とにかく、ナラも加勢に来てくれたのが俺には嬉しかった。ナラの馬鹿力があれば、あいつを倒せる方法がもしかしたら見つかるかもしれない。
『ぬぬっ…。貴様は第二試合、私によって倒されたナラとかいう小娘かっ!また私に倒されに来たとでもいうのかっ!?』
「…違います!もう二度と、あなたに倒されたりなんかしませんっ!ジョン・ドゥ…いえ、ダミアンさん!お願いですから、こんな事をするのはやめて下さい!」
『やめろだと?何故だ?』
「さっき、あなたの事についてフリントさんから聞きました。あなたは以前、この大会に出た時に相手を事故で殺してしまったという事。そしてその事故がきっかけで皆から非難され、あなたに味方してくれる人がいなくなってしまったという事…」
『…何かと思えば、その話か。ああそうだっ!私は身勝手な人間どものせいで人生が大きく狂ってしまったっ!だから私は、その人間どもに復讐を誓ったのだっ!復讐を誓って何が悪いっ!悪いのは私ではない、私の事を罵倒した人間どもだっ!!』
ダミアンは声を荒げながらそう言った。よりいっそう、ナラを強く踏みつぶそうとしてくる。頑張れ、ナラ!もしかしたらあいつを止める事が出来るかもしれないぞ!
「ダミアンさんっ!世界中の殆どの人はあなたの事を嫌っているかもしれませんが、その中にはあなたを変わらず応援し続けている人や、あなたの帰りを待っている人がいるかもしれませんよ!ダミアンさんはその人たちの想いまで裏切ろうとしているんですかっ!?」
『…私を、応援している人がいるだと?…ふふふっ、はーっはっはっ!!そんな人間などもはやこの世界のどこにもいやしないっ!この世界にいる人間どもは、全員私の敵だっ!!』
ダミアンはもはや話を聞いていなかった。ただ彼の中にあるのは、自分の事を蔑ました人間たちへの復讐…。その復讐心のみで動いているのだろう。
こうなってしまってはもはやどうしようもない。
「ナラ!もうそいつには何を言っても無駄だ!あいつを…あいつを倒すんだっ!」
「…はいっ!」
ナラは踏ん張り、押さえているダミアンの足を力強く押す。ダミアンも負けじとナラを力強く踏もうとしていた。両者とも凄い気迫だ。
『ぬぐっ…ううっ!?』
ダミアンが徐々に後ろへとのけぞる。そして、そのまま押されて行き地面へ倒れていった。
――この勝負は、ナラの勝ちだ。
「いいぞ、ナラ!」
「ありがとうございます、ナオトさん!…でも、まだ終わっていません!」
ナラはそのままダミアンの所まで行った。何をするつもりなのかと見守っていると、ナラは今度は彼をそのまま持ち上げようとしていた。俺は思わず目を疑う。
「い…いくらなんでも無茶だ、ナラっ!あんなデカい奴を持ち上げる事なんか出来ないだろ!」
「…いえ、出来ます!最後まで決して諦めないという気持ちさえあれば…。どんな事にも不可能はありませんっ!はあああああっ!!」
ナラは渾身の力を振り絞り、ダミアンを思い切り持ち上げた。…す、凄い。これがナラの全力なのか。俺はナラを凄いと思ったと同時に、恐怖さえ感じていた。
ダミアンを持ち上げたナラは、そのまま踏ん張って彼を宙へと放り投げる。ダミアンは会場を突き抜いて宙へと飛んでいった。
(…しめた!今がチャンスだっ!)
俺はこの状況を見て、あの魔法を使えるチャンスだと思った。奴が宙にいる今ならバーストを使っても被害は出ないはずだ。俺は急いでナラがいる場所へ走り、剣を上にあげた。
「ナラ!後は俺がとどめをさすよ!だから君はそこから離れてて!」
ナラは俺の言う事に従い、その場から離れていく。これで準備は整った。――よし、発動させるぞ!
『バーストっ!!』
俺がその魔法を唱えた瞬間、剣の先端から赤い球が勢いよくダミアンに向けて飛び出して来た。俺はその反動で後ずさる。
やがて、赤い球はダミアンの巨大な身体に命中し――。
『――ば、馬鹿な…!!この私が、あんなガキどもにやられるだと…っ!?こんなの…絶対に認めるものかああああっ!!!』
ダミアンは断末魔を上げ、大爆発を起こして散っていった。
「や…やったのか?」
爆発の後の煙が全て消えると、そこにはもうダミアンはいなかった。どうやらダミアンは木っ端微塵になって消えたようだ。
…やった。俺、勝てたんだ。俺は放心して大の字になって倒れた。
『け…け、け、決勝戦を勝ち抜いたのは…ナオト選手っ!ナオト選手ですっ!!』
会場から司会者の声が聞こえてきた。どうやら司会者はこの会場から逃げず、この戦いの一部始終を見ていたようだ。あの人もある意味凄いかも…。