暴走した剣士との戦い
俺は異形の化け物へと変身したダミアンと対峙していた。あまりのデカさに圧倒され、全身に震えが走る。
…だが、ここでただ震えている訳にはいかない。怖いけど、絶対にあいつを倒してやる!
『貴様如き、この足で踏みつぶしてくれるっ!』
ダミアンは足を大きく上げ、俺に向けて踏みつぶそうとしてきた。や、やばいっ!俺は素早くそれをかわす。攻撃を食らいはしなかったものの、奴が足踏みした時の余波でよろけそうになる。
何とかかわしてホッとしていたのも束の間、今度は俺の頭上に大きな拳が降ってきた。俺はそれも素早くかわした。
「うわああああ!!何なんだあいつは…!この会場を破壊するつもりかよ!?」
「冗談じゃねぇ、このままだと俺たちゃ死んじまうっ!に、逃げろーっ!!」
「いやーっ!誰か助けてーっ!」
試合を見ていた観客はパニックになり、会場から一斉に逃げ出していった。…これはもはや試合と呼ぶには相応しくない。一方的な殺戮行為だ。
『はーっはっはっはっ!私を恐れるがいい、今まで私を見下してきた愚かな人間どもよっ!この小僧を殺した後、お前らは後でまとめて血祭りにあげてやろうっ!!』
ダミアンは悲鳴を上げながら逃げていく観客を見て大笑いをする。自分の事を見下した人間たちに復讐出来るというのが余程嬉しいのだろう。だけど、こんなの絶対に間違っている…!
「やめろーっ、ダミアン!お前は間違っている!こんな事をしなくても、他にいい方法があったはずだ!」
俺はダミアンに向かって大きく叫ぶ。しかしダミアンは俺の発言を全く聞いていない様子だった。くそっ、もうあいつに何を話しても無駄という事か。
『ふふふっ…。小僧、最初に言っておくが今のお前ではその剣で私に傷を一つ付ける事すら出来まい。神の力を手にした私は強靭な肉体を得たのだからな。さて、どうする?』
ダミアンは俺に挑発をしてくる。悔しいが、確かに今の俺ではあいつにダメージを負わせるどころか近づく事も出来ないだろう。ならば…。
『ライトニング!』
俺は魔法を唱えた。魔法なら、離れた場所にいる相手でも届く。俺の放ったライトニングはダミアンに直撃した。
ダミアンは激しい雷に打たれ感電している。しかし奴は微動だにせず、苦しそうにしていない…。もしかして効いていないのか?
『はっはっはっ、今のがお前の全力か?やはりお前では私に傷一つ付ける事は出来ないようだな』
俺の予想は当たった。この魔法じゃ駄目なのか…。くそっ、ならば次はこれだ!
『ブリザード!』
俺はブリザードの魔法を唱えた。会場内に強烈な冷気が放たれ、周りの建物が徐々に凍っていく。このまま押し込めば、さすがのあいつでも氷漬けになるはず…!
『ふん、氷の魔法で私を凍らせようという作戦か。…だが私には、そんな物は効かんっ!――はあっ!!』
ダミアンは掛け声を上げ、地面を勢いよく踏み鳴らした。その衝撃で地面が揺れ、俺は遠くへ吹き飛ばされてしまう。
「う、うわああああっ!」
俺は吹き飛ばされ、壁に思い切りぶつかった。背中に痛みが走ってくる。あいつが足を踏み鳴らすだけでこんなに衝撃が強いなんて…。俺は改めて、神の力の恐ろしさという物を思い知った。
『無駄無駄っ!その程度の魔法で私を倒せるとでも思っていたのか?実におめでたい奴だっ!』
やはり、俺一人では奴に勝つ事は出来ないというのか…。俺は目の前が真っ暗になりそうだった。せめて、ここで仲間が助けに来てくれれば…!
俺は微かな希望に期待していると、ダミアンは手を伸ばして俺を掴んできた。
「う、うわっ!」
ダミアンに捕らわれた俺は奴の手の中で必死にもがこうとした。だが、奴の握力の方が圧倒的に強いせいで身体が思うように動かない。
『ふふふっ、このまま一気に握り潰してくれるわっ!』
ダミアンはそう言い、俺を一気に握り潰してきた。…く、苦しいっ!俺は痛みで悲鳴を上げる。
こ、これじゃあ魔法も出せないし武器を使って攻撃する事すら出来ない。俺はこのまま奴に握り殺されてしまうのか?そんなのは絶対に嫌だ…!
「ナオちゃーんっ!今、あたしが助けるよーっ!!」
と、突然観客席の方から誰かの声が聞こえてきた。俺はその声が聞こえた方を見ると、緑髪の少女がクロスボウを構えている光景が見えた。あの子は…ミントだ!
ミントはクロスボウを構え、そのまま矢を放つ。矢はダミアンの目に見事命中した。
『ぬ、ぬおおおおっ!!』
ダミアンは目に矢が当たった衝撃で絶叫し、思わず俺を手から離した。俺は地面に落とされる。
ふうっ、何とか助かった…。まさかここでミントが助けに来てくれるなんて思ってもいなかったよ。後であの子にお礼を言わないとな。
『おおおおっ!!お、おのれえええっ!!私の…私の目がああああっ!!』
ダミアンは目を刺された痛みで暴れまわっていた。奴が苦しんでいる今なら行けるかもしれない。
俺は今すぐ立ち上がろうとしたが、身体が思うように動かない。ダメージを食らい過ぎたのが原因だろうか。くっ、今が奴に攻撃を与えられる最大のチャンスだというのに!どうすれば…。
「ナオトー!」
俺は何も出来ない事に悔しがっていると、後ろからクリムの声が聞こえてきた。後ろを向くと、クリムとアルベルトが俺の方へと駆け付けてきた。
「ク、クリムにアルベルト!助けに来てくれたのか?」
「当たり前よ!仲間のピンチに駆けつけないなんて、そんな最低な事をするワケには行かないでしょ」
「そういう事。…だからナオト、皆であのダミアンとかいう奴を倒そうぜ」
クリムは俺の肩に触れ、傷を治してくれた。サンキュー、クリム。これで再び戦う事が出来るぞ。さあ、皆で力を合わせてあいつを倒そう!
『ぬぐぐっ…。もうお遊びはここまでだっ!貴様らまとめて殺してやるぞっ!!』
ダミアンは激怒し、俺たちの方に向かって走ってきた。さっきまでの余裕はなく、全力で殺しに来ている。
「クリム、何か手はないのか?」
「なくはないけど…。とにかくこの魔法をあいつにぶつけてみるわ。――『スライド』!」
クリムはスライドという魔法をダミアンに向けて放つ。しかし、何も起こる気配がしない。そもそもスライドってどういう魔法なんだ?
「やはり駄目なようね。あいつが大きすぎるから転ばす事が出来ないわ…」
「こ、転ばす?――うわっ!」
ダミアンはそのまま突進をしてきた。俺たちはそれを何とかかわし、急いで奴から離れる。俺は走りながら、スライドの事について聞いてみた。
「なあ、スライドってどんな魔法なんだ!?」
「簡単に言うと、相手を転ばす事が出来る魔法よ!だけど転ばせるのには限界があって、あいつのような巨大なモンスターに対しては全然効かないわ!」
相手を転ばす魔法か。…それを聞いて、俺はふと閃いた。もしその魔法を俺が使えば、どんな威力になるのだろうか?こうなったらいちかばちか、試してみよう。
俺は剣を構え、スライドを出してみる事にした。ぶっつけ本番だが、今までのパターンを考えればこれも一発でいきなり出せるはずだ。
「ちょっとあんた、何をするつもりなの!?」
「決まってるだろ!俺も、さっきクリムが出してた魔法を使ってみるよ!――『スライド』!」
俺はスライドをダミアンに向けて放つ。――するとダミアンは、突然その場で滑った。
『ぬ、ぬおっ!?』
ダミアンは滑った後、うつ伏せになって倒れる。…やった。クリムでも出来なかった事を、俺が今ここで成し遂げたんだ!やはりこれも神の力のおかげだろうか。
「あ、あんたの魔法は一体どうなってるの!?あんなに巨大な奴を転ばす事が出来るなんて…。こんなの普通じゃないわ!」
クリムは信じられないという顔をしながらそう言った。
「とにかく、これであいつに攻撃を与える事が出来そうだぜ。今のうちにやるぞ、ナオト!」
アルベルトは俺にそう言い、倒れているダミアンの所へと向かった。俺も一緒についていく。――これでようやく、奴に一泡吹かせそうだ。希望が見えてきた。
戦闘シーンはやはり書くのが難しい…。