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無敗の剣士と呼ばれていた者

『な…何という事でしょう!ジョン・ドゥ選手の正体は、かつてこの世界で最強の剣士として名を馳せ、本大会に出場経験のある男!ダミアンですっ!!』


 司会者の人は大変驚いた様子で叫んでいた。やはり、俺の予想通りこの世界だと有名な人物だったようだ。

 それにしても、まさか俺が今戦っている相手がこの世界で最強の剣士と呼ばれていた人だなんて…。よくここまで生き残る事が出来たな、俺。


「どの面下げて帰ってきたんだ、この人殺しが!」

「今更戻ってきた所で名誉挽回のチャンスはないんだよ!とっとと会場から出て行きやがれ!」

「剣士の面汚しめー!帰れー!」


 観客の怒号が会場内に響き渡る。よく分からないが、どうやらこのダミアンという人物はかなり嫌われているようだ。でも、何故?

 クリム達はこの事について何か知っているだろうか。


「聞いたか?今の観客の怒号を…。これが今の人間から見た私だ。私は既に、人々から信頼という物を失ってしまったのだよ」


 ダミアンは観客の反応を聞いて嘲笑うかのように言う。俺は何故、ダミアンがここまで嫌われているのか聞いてみた。


「あんた、どうしてこんなに皆から嫌われているんだ?何かやらかしてしまったのか?」

「そうだ。私はこの大会で、殺人を犯してしまった…。ただし、故意ではなく事故だがな」

「殺人…?」

「お前には私の全てを教えてやろう。私はかつて、この大会によく参加していた。人々は私の事を『無敗の剣士』と呼び、皆から尊敬されていた。中には、私と戦う事を目標にして剣士になった人もいたそうだ」


 そうなのか…。それだけ皆から憧れの的だったんだな、ダミアンって。


「だが…。あの日を境に私の運命は大きく変わってしまった。それは昨年の大会の事。私はいつものように決勝に出場し、そこで対戦相手と戦った。そして――」

「…あんたの事故で、その対戦相手を殺してしまったという訳か?」

「その通りだ」


 俺は一回戦の時に司会者が言ってた事を思い出した。この大会は相手を殺してしまえば即失格となってしまうという事。まさかそれを事故とは言え本当にやってしまった人がいたとは。


「私は対戦相手を殺してしまい、失格となってしまった。…それだけならばどんなに良かった事か。あの時に試合を見ていた観客や大会の関係者どもは、事もあろうか私を剣士の面汚しなどと罵倒し、私を悪評し始めたのだ!この悪評は瞬く間に世界中に広がり、今まで私に味方してくれた者も全ていなくなってしまった…」


 それで、仮面を被って正体を隠さざるを得なかったのか。俺は何だかダミアンが可哀想になってきた。勿論、人を殺してしまうというのは重い罪とはいえ一回のミスで人生を大きく変えてしまうなんてあまりにも残酷すぎる。


「全てを失ってしまった私は、故郷を捨て去り放浪の旅をする事になった。私の事を罵倒した全ての人間に恨みを積もらせながらな…!そして、私が故郷を捨てて丁度一年が経ったとき、私にチャンスが訪れた」

「チャンス…?」

「ある時、私の目の前に一人の少女が現れた。その少女は黒い服を着ており、子供とは思えぬ落ち着きぶりだった」


 えっ…。黒い服を着た少女だって!?その子、まさか昨日出会ったあの子と同一人物じゃないよな?まさか俺の他にもあの子に会った人がいたなんて…!


「私はその少女に近づくと、私にこう言ってきたのだ。『あなたを侮辱した、全ての人間に復讐をしないか』と。勿論、私は喜んでそれを受け入れた。私を罵倒した全ての人間に復讐が出来るなんて、こんなチャンスを逃す訳にはいかないからな。私はその少女によって、今までにない偉大な力を手に入れた。その力は…」

「そ、その力は?」

「――『神の力』だ」


 な…何だって!?神の力!?俺は今の発言を聞いて驚いた。俺の他に神の力を貰った人がいるとは思ってもいなかったからだ。…となると、あの女の子はロゴスと同じ神様なのか?でもロゴスが言ってたはずだ、神は人間界に直接来る訳にはいかないと。とすると、彼女は一体…?

 ここに来て急に謎が次々と出てきた為、俺は頭の中がこんがらがりそうになった。


「…うん?その反応からすると、お前も『神の力』という物を知っているようだな」

「そ、それは…」

「まあ、例えそれを知ってたとしてもお前に私を止める事は出来ないだろう。この力は無敵だ、誰も私を止める事など出来ん!」


 ダミアンはそう言うと、彼の身体中から紫色のエネルギーが浮かび上がってきた。さっき両腕から出してきたエネルギーで作られた剣と同じ奴だ。

 なんて事だ、まさかあいつまで神の力を持っているなんて…。下手すればこの会場は奴によって破壊しつくされてしまうだろう。そうなる前に奴を倒さなければ!


「ふふふっ…。さっきお前に見せた神の力は、その一部分だけに過ぎない。この力を全て解放すればどうなると思う?」

「な、何をするつもりなんだ?やめろ!それ以上やったら大変な事になる!」

「私の持つこの神の力を全て解放すれば…。私は、誰にも負けない最強の存在となるのだっ!!」


 ダミアンの叫びと同時に、強い衝撃波が放たれる。俺はその衝撃に圧倒され後ずさりをしてしまった。衝撃波は観客にも届いたらしく、あちこちで悲鳴が聞こえた。

 ダミアンの身体から大きな紫色の煙が現れ、彼を包み込む。一体何が起ころうとしているのか…?


「――私は、この力を使って全ての人間どもに復讐をする!そして復讐を終えた暁には、私がこの世界の支配者となるのだ!さあ、恐怖に慄くがいい人間どもよ!これが神の力を手に入れた私の真の姿だっ!!」


 ダミアンを包み込んだ煙が消え始め、徐々に姿を現す。その姿はもはや人間とは思えない物だった。赤黒い肌に、16メートルくらいはあるだろう鬼のような姿をした異形の化け物へと変化していたのだ。


『素晴らしい…っ。力が、私に力が溢れてくるっ!はははははっ!!』


 ダミアンは前よりも声質が低くなっているものの、知性は全く変わっていないようだ。俺は変化したダミアンの姿を見てただ恐怖するしかなかった。

 だけど、ここで黙って怯える訳にはいかない。俺は絶対あいつに勝って、暴走したダミアンを止めるんだ!

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