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あの時の約束

 観客席から歓声が沸き上がる。きっとあの三人も今の試合を見て喜んでいるに違いないだろう。俺はそんな事を思いながら、アルベルトに手を伸ばした。


「ほら、立てるか?アルベルト」

「ああ、何とかな。…いててっ」


 アルベルトは頭を押さえながら、俺の手を掴み立ち上がる。試合に負けたとはいえ、とても爽やかな表情をしていた。


「まさかお前がここまで強かったなんて思ってもいなかったよ。あーあ、後でクリムに怒られるなこりゃ。ま、それも仕方ないか」


 アルベルトはやれやれといった表情を出しながらも笑う。俺たちは観客に見送られながら、会場から出ていった。

 出口に着くと、そこにはナラが俺たちを出迎えるかのように立っていた。


「ナオトさんにアルベルトさん、試合お疲れさまでした!どちらもいい試合でしたよ!」

「ああ、応援ありがとな。ところでナラ、どうしてそこにいるんだ?」

「実は、二人の試合を見たくてここまで来たんです。どっちが勝つのか気になってて…」


 ナラもさっきの試合が気になって見に来ていたようだ。


「ナオトさんが魔法を使った時はどうなるかと思いましたよ。私も飛ばされるかと思っていましたから」

「ははは…、ごめんよナラ。でもアルベルトを倒すにはこの方法しかないと思ってさ。許してくれ」

「でも驚いたぜ。ナオトって剣術だけでなく魔法も使えるなんてな。その両方が使えるのは限られた奴しかいないからな」


 …えっ、そうなのか?それは初耳だ。俺がこの世界に来たばかりの頃に剣と魔法の練習をしてた時も思っていたが、やっぱり俺って天才なのかも。


「驚きましたか、アルベルトさん?これがナオトさんの実力なんですよ♪」


 ナラが嬉しそうに俺の事を自慢する。俺の目の前でそれを言うのやめてくれないかな、照れるから。




「ところで、さっきあんたが言ってた「あの時の約束」って何なんだ?教えてくれよ」


 控室に戻ると、俺はさっき試合中にアルベルトが言ってた「あの時の約束」が何なのかを彼に聞いてみた。


「ん?ああ、あの話か。あれは3年前、俺がこの町に引っ越す前日の事だけどな――」


 アルベルトは3年前の事を回想し始めた。




「クリムさん、アルベルトさん、夜空が綺麗ですね」

「そうね。ここ最近はずっと雨だったから、久々に綺麗な空を見れたわ」

「地面はまだ水溜りで溢れているけどな。ま、それもまたいいもんか」


 俺がトレラントからフェスティに引っ越す前日の夜。俺たち三人は空き地へ行って夜空を眺めていた。クリムの言う通り、ここ数日はずっと雨だったから綺麗な夜空を見たのは本当に久しぶりだった。


「三人で集まってこの夜空を見れるのも、これが最後になるんですね…」


 ナラは悲しそうにそう呟く。明日になれば、俺は二人と別れる事になる。そう考えると寂しい気持ちになった。とは言え、寂しいという気持ちを表には出さなかったが。


「そうだな。…でもよ、別れという物は悪い事だけじゃないと思うぜ?」

「どうしてですか?」

「俺が二人と別れるという事は、二度とクリムに怒られる事やナラにボコボコにされる事がないという訳だからな。そう考えただけでスッキリするよ」

「…ア、アルベルトさんっ!そんな事を言わないで下さい、クリムさんに失礼ですよ!」

「いいのよ、ナラ。あたしもアルベルトの間抜け面を見れなくなるというだけでスッキリしそうだし」

「ク、クリムさんまで何を…」


 俺はよく二人と一緒に遊んでいたが、クリムに怒られたり喧嘩する事がよくあった。喧嘩するほど仲がいいとは言うが、俺はそう言うのにウンザリしていた。

 だから、二度とそういうのが無いと思うと気持ちが楽になってたものの…。本当は、少しだけ寂しかった。


「あーあ、せめてあんたが強い人間だったらあたしも楽だったのにね。あんたいっつもあたしやナラに負けてばっかだったじゃない。それどころか、あたしたちに助けを求める事も多かったし…。男として恥ずかしいと思わないの?」

「まーたその話かよ。そりゃあ、俺だって強い人間になりたいという気持ちは持っているさ」

「本当に~?あんたの事だから怪しいわね」

「本当だって!」

「まあまあ、二人とも落ち着いて…」


 俺はクリムといつものように喧嘩をしていた。やれやれ、結局最後までこの調子かよ…。この二人とこうして会えるのはあと僅かしかないってのに。ま、ある意味彼女らしいけどな。


「じゃあアルベルト、次に会う時まであたしたちより強い人間になるって約束するわね?」

「え、約束?いきなり何を…」

「あんたが本当に約束を守れる人間かどうか賭けてみたいのよ。もし次会う時に強い人間になってたら、あんたの事を認めてあげる」


 うへぇ、勝手に約束なんか作るなよ…。俺が次、クリムたちと出会うのか分からないってのにそれまでに強くなってろだって?正直、不安しかない。

 …だけど、これ以上クリムから馬鹿にされるのだけは嫌だ。辛い道のりになるだろうけど、ここはクリムの約束を守ろう。


「…ああ、約束するよ。必ずお前らより強い人間になって見せるからな!」

「言ったわね。絶対に約束よ!もし約束なんか破ったら許さないんだからね!」


 こうして、俺は強い人間になるという事をクリムに約束したのだ。絶対に強くなって、あいつ等を見返してやる。俺はそう決心した。




「…という話だ」

「なるほど、それがあの時の約束って奴なのか」


 俺はアルベルトの話を聞き終わった。あの時の約束というのは、アルベルトが次クリムたちと会う時までに強い人間になるという事だったんだな。


「なあナラ。俺、強い人間になってるか?」

「はい♪クリムさんもきっと、喜んでいると思いますよ」

「…そっか。ありがとな」


 アルベルトはとても嬉しそうに笑っていた。フリントを倒して、俺をここまで追い詰めたんだ。アルベルトと会うのは今日が初めてだから昔の事は知らないけど、確実に強い人間になってると思うよ。アルベルト。


「それではナラ選手、ジョン・ドゥ選手、間もなく試合の方が始まります。会場へと移動して下さい」


 そうこう話をしている内に、係員が控室へとやって来た。今度はナラが出る番か。そしてさっきから気になっていた仮面を被った選手…。名前は「ジョン・ドゥ」というらしい。一体どんな人物なんだろう?

 ナラとジョン・ドゥは立ち上がり、控室を出ようとする。


「あ、あの…。あなた、ジョン・ドゥさんって言うんですね。よろしくお願いします!」


 ナラはジョン・ドゥに話しかける。ジョン・ドゥは一瞬ナラの方を見つめるも、すぐに前を向いて控室を出て行った。変な奴…。


「あいつ、ナラに一言も喋らず出て行ったぜ。変な奴だよな、ナオト?」

「ああ、そうだな…。ナラ、気を付けて行ってこいよ。あんな得体の知れない奴は何をしてくるか分からないしさ」

「はい!気を付けて行ってきますね」


 ナラはそう言い、ジョン・ドゥに続いて控室から出て行った。大丈夫かな、ナラ…。何か嫌な予感がしてきた。

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