第一試合・ナオト対アルベルト
『さあ皆様、お待たせしました!間もなく、闘技大会の本戦試合が始まりますっ!』
俺たちが会場へと向かっていく途中、向こうから司会者の声が聞こえてきた。それと同時に、観客の歓声が沸き起こる。さすが本戦というだけあってか、凄い賑わいぶりだ。
俺はこの状況で相手と戦う事になるのか…。そう考えたら緊張してきた。観客の前で恥をかかないよう精一杯頑張らないとな。俺はそう決心しながら場内へと入場していった。
『今回予選試合を勝ち抜いた選手たちは、どれも今年初出場となる者ばかり!今年はどのような戦いを繰り広げてくれるのでしょうか!これは目が離せませんっ!』
会場内はドーム状になっており、上には観客席がある。その形状は、イタリアにあるコロッセウムにそっくりだった。
本戦は夜に行われるので空はすっかり暗くなってはいたものの、場内にたくさんある照明が俺たちのいるアリーナを明るく照らしている。その為、暗いという印象はなかった。
『本戦のルールは簡単!お互いに全力を尽くして戦い、どちらかが倒れるか、もしくは降参宣言をするまで試合を行います!ただし、これはあくまで試合ですので相手を殺してはいけません!もし相手を殺してしまった場合は即失格となりますっ!』
司会者が本戦のルールについて説明してくれた。司会者の言う通り、ルールは至ってシンプルだ。ただ相手を殺してはいけないという事なので、そこだけには気を付けよう。まあ、俺がそんな事をするなんて絶対にないと思うが。
『まずは第一試合!第一試合の対戦カードは、ナオト選手対アルベルト選手っ!』
司会者がそう言うと、場内が再び大きく湧きあがる。そういえば、クリム達はどこの席にいるんだろう?俺は観客席からあの三人を探し出す。…だが、あまりにも人が多いので区別すら付かない。
だけど、絶対どこかで俺たちの事を見ていてくれるはずだ。俺はそう信じた。
「言っとくけどナオト、手加減は一切しないからな。だからお前も全力でかかってこいよ!」
「ああ、分かってるよ。全力で戦おうぜ!」
俺たちはそう言うと、お互いに剣を構えた。アルベルトはナラと同じサイズの大きな剣を両手で持っている。あれをまともに食らえば、俺はたちまちノックアウトされてしまうだろう。それだけは何としても避けなければ。
『――それでは、第一試合!始めっ!!』
司会者の一声と共に、場内からゴングが鳴り響いた。俺たちは互いに向かって走り、持ってる剣を相手に向かって勢いよく振りかざした。
剣と剣がぶつかり合い、鋭い高音が耳元で聞こえてくる。明らかにアルベルトの持ってる剣の方が俺のより重いはずなのに、動きがかなり素早い。さすがあのフリントを倒しただけあって、かなりの実力だ。予選に戦った選手とはレベルが違う。
しばらく剣のぶつかり合いは続いていたが、やはり剣の大きさはあちらの方が上だ。俺の持ってる剣ではこれ以上耐えきれない。くそっ、このままでは…!
「そらあっ!」
やがて、アルベルトの一振りで俺の持ってる剣が吹き飛ばされてしまった。
「し、しまった!」
「隙ありだっ!」
俺が剣の方に気を取られていた隙に、アルベルトは俺に向かって思い切り体当たりをしてきた。
「ぐあっ!」
俺はアルベルトの体当たりをまともに食らい、その勢いで吹き飛ばされてしまう。前に討伐したコレクトラプトルというモンスターにぶつかった時に比べれば大した事はないものの、それでも結構痛い。
「ぐっ、強いなアルベルト」
「当たり前さ!俺はあの時の約束を果たす為にここまで強くなったんだ。ここで負けてしまったらクリムに怒られてしまうしな」
「あの時の約束?なあ、それって一体――」
「おっと、その話は後でな。今は試合中だ」
アルベルトが今言った「あの時の約束」という物が気になるが、今はそんな事を気にしてはいられない。それよりもあいつをどうやって倒すかを考えよう。
しかしどうやって倒せばいいんだ?まともに戦ったんじゃ、間違いなく奴に勝てないだろうし。どうすれば…ん?
(待てよ、さっきフリントがああ言ってたような…)
俺はさっき、予選が終わった後休憩を取ってた時にフリントが言ってた事を思い出した。
「ところでフリント、この大会って使ってはいけない武器ってあるのか?」
「あるわよ。さっきミントちゃんが言ってたでしょ?ボウガンを使うのは禁止されてるって。ボウガンは悪く言えばただの飛び道具だからね」
「へえ…。じゃあさ、逆に言えばボウガン以外の職業は参加してもOKって事なんだよな?」
「そうね。クリムちゃんは参加しなかったけど、魔術師が職業の人でも参加出来るわ」
…フリントの言ってた事が正しければ、この大会では魔法を使う事は禁止されていないはず。こうなったら、最後の手段としてこの力を使うしかなさそうだ。だけど、俺の場合は神の力が入っているから下手すれば相手を殺してしまうかもしれない…。
出来るだけ火力は抑えるつもりだが、何を使えばいい?あいつを瀕死に追い込まず倒せる魔法は…。あった、あったぞ!
俺は立ち上がり、地面に落ちてる剣を拾うとすぐその剣を上にあげた。
「何をするつもりかは知らないが、そうはさせないぜ!」
アルベルトはまた俺に向かって体当たりをしてくる。だけど俺にその攻撃は二度と通用しない。――何故ならば、今から俺がこの魔法を使うからだ!
『タイフーン!』
俺がこの魔法を唱えた瞬間、アリーナ全体に強い風が巻き起こる。火力は抑えたつもりだが、それでも台風並みに強い風だ。
「う、うわあああ!なんだ、この強い風はっ!?」
「何よこれーっ!風の魔法にしては強すぎじゃないのー!?」
俺の放ったタイフーンは、観客席の方にも届いているようだ。場内から叫び声が聞こえてくる。無関係の人に被害が及んでいなければいいが…。
一方、アルベルトは突風に吹き飛ばされまいとばかりに必死に堪えていた。
「ぐぐぐっ…。な、なんのこれしきっ!絶対に堪えてみせるっ!」
アルベルトは持ってた剣を地面に突き刺し、それを盾代わりにして自分の身を守っている。凄い根性だ、俺にはとても真似出来ない。
俺のタイフーンの威力が勝つか、アルベルトの根性が勝つか。この勝負の行方は…。
「う、うわああああっ!!」
アルベルトは剣を両手で押さえながら必死に堪えていたものの、限界が見えたのか武器を手から離してしまう。そして、アルベルトは壁側の方へと勢いよく吹き飛ばされていった。
よし!何とかアルベルトを無力化させる事に成功したぞ。俺は魔法を解除すると、アルベルトの所まで走り出した。
「この勝負、どうやら俺の勝ちのようだな」
俺は壁にぶつかってうずくまるアルベルトを見てそう言った。彼はもう武器を持っていない。だが、彼の事だから最後は素手で勝負してくるかもしれない。俺は最後まで気を抜かなかった。
「ふふっ…。ははは…。はーっはっはっはっ!」
突然アルベルトが大声で笑いだした。な、何を笑っているんだ?
「いやー、まさかお前が魔法も使えるどころかあんなに強い魔力を持っているなんてな。これには俺もビックリだよ。負けた負けた。これ以上お前と戦っても、勝負は見えてるわ」
「…えっ?アルベルト、今何て言ったんだ?」
「聞こえなかったのか?負けたって言ったんだよ、俺は」
なんと、アルベルトは降参宣言をしてきた。という事は…。
『だ…第一試合の勝者、ナオト選手!ナオト選手に決まりましたーっ!!』
司会者が終了宣言を行う。その宣言に続くように、観客席の方から歓声が沸き起こった。
…よっしゃ!俺、勝ったんだ。勝ったんだ、あいつに!俺は嬉しさのあまりにガッツポーズをとった。
戦闘シーンを書くのは結構難しかったりします。上手く伝わっているかな…?