初めての仲間
俺は二人に、これまでの経緯について話した。まず、さっきまで草原の中を歩いていたら突然俺の目の前に狼のような凶暴な生き物が現れた事。俺は必死になって逃げていたものの、運悪く足を滑らせて転んでしまい危うく狼に食われそうになった事。そして狼に食われる直前、無意識に片手を前に出したらそこから巨大なエネルギーのような物が放出され、それで狼を撃退した事。
二人は俺の話を不思議そうに聞いていた。
「色々気になる所はあるけれど、あんたの片手から出たエネルギーのような物っていうのが一番気になるわね。魔法、とはちょっと違う奴なのかしら?」
「君はその能力について何か知らないのか?」
「いいえ、全然。そんな物は見た事もないし聞いた事もないわ。ナラ、あんたは何か知ってる?」
「私も全く知りません」
うーん、どうやら俺がさっき使った力については何も知らないらしい。あまりポピュラーな物じゃないのかな?だとしたらあれは一体何だったんだろうか。
…それより、この二人はさっきまで何をしていたんだ?俺はそっちの方が地味に気になってた。
「ところで二人はここで何をしていたんだ?」
「あたしたちはここで魔物の討伐をしていた最中だったの。ほら、さっきあんたを襲ってた狼のような魔物がいたでしょ?あれはファングと言ってね、あいつを討伐して欲しいって依頼が来てたからそいつの出没場所である森まで来てたのよ」
なるほど、さっきの狼みたいな奴はファングって言うのか。…確かに牙は鋭かったけど。
「私たちはそのファングをたくさん倒していたんですけど、最後の一匹だけ逃してしまって…。それで、急いで後を追っかけたんです」
「じゃあさっき俺を襲ってた奴が、最後の一匹だったのか」
「恐らくそうね。でも、まさか最後の一匹をあんたが倒してしまうなんて思ってもいなかったわ。あたしが倒そうと思ってたのに~」
赤髪の子はどうやら最後の獲物を横取りされて悔しがっているようだ。うん、何かゴメン。でもあの時の俺は必死だったんだから許してくれ。
「とにかく、これで討伐完了ですね。クリムさん、町に戻りましょう?」
「…分かったわ。ところで、あんたはこれからどこに行くつもりなの?」
「俺?実は、俺も町まで行こうと思っていた所なんだ。だけど道が広いから途中で迷っちゃって」
「そうだったんですね。…あの、もしよかったら私たちと一緒に町まで行きませんか?」
金髪の子は俺に、一緒に町まで行かないかと誘ってきた。ちょうど町を探していた所だったからラッキー。それに、女の子と一緒に付いていくなんて男としてはこのチャンスを逃す訳にはいかないしな。…なぁんて。
「ちょっとナラ、あいつを連れて行くつもりなの?」
「勿論です。一人で行くよりも、みんなで一緒に行った方がずっと安心だと思いますよ?それに、もし途中でファングのような凶暴な魔物が現れても私たちがやっつけてしまえばいいですから」
「そりゃあ、そうだけど…。でもあいつ、見慣れない恰好をしているから何か怪しいのよねー。明らかに普通の人間じゃないわ」
金髪の子とは対照的に、赤髪の子は俺と一緒に行く事をあまり良く思っていないようだ。まあそりゃそうだろう。
そういや、今の俺の服装は学校から家に帰る途中だったから制服のままだったな。この世界には俺と同じ制服を着た人はさすがにいないのか。何だか先行きが不安だ…。
「大丈夫ですよ、クリムさん!この人は絶対に怪しい者じゃないって、私分かるんです」
「本当?正直、あんたの勘はあまりあてにならないけど…。分かったわ。とりあえず、ここはあんたを信じてあげる」
「ありがとうございます、クリムさん♪」
どうやら話し合いの末に、一緒に付いてきてもいい事になったようだ。よかった、まずは一安心。
「それじゃあ、私たちと一緒に町まで行きましょう!…えーと、そういえばまだあなたの名前を聞いていませんでしたね。名前は何て言うんですか?」
金髪の子は俺に名前を聞いてきた。うーん、ここは素直に答えた方が良さそうだ。俺の名前を聞いて怪しまれないか不安だが。
「俺、藤崎直人って言うんだ」
「フジサキ、ナオトさん…ですか?変わった名前をしていますね」
「ふーん…。ま、いいわ。あんたの事はナオトって呼んであげるから。これからよろしく頼むわね、ナオト?」
俺の名前を聞いても怪しまずに、下の名前で呼んでくれるとはなんて心が広い子たちなんだろう。この二人と一緒にいれば、何だか安心できそうな予感がする。
「ああ、よろしく!」
こうして、俺は二人の女の子と一緒に町まで付いていく事になった。
「あたしはクリムって言うの。職業は魔術師で、さっきあんたに使ったヒーリングの他にも色んな魔法を使う事が出来るのよ」
「私はナラって言います。職業は…。ええと、背中に背負ってある剣を見れば分かると思いますが、一応剣士です!」
俺は二人と一緒に町まで行く途中、二人の自己紹介を聞いていた。
まず、赤髪でツインテールな子がクリム。性格は活発な印象で、マントを羽織り片手に杖を持っているのが特徴だ。いかにも、魔術師と言った感じ。
次に、金髪でショートヘアな子がナラ。性格はクリムと正反対で穏やかな印象だ。しかし、背中には明らかに女の子が持つには相応しくないような巨大な剣を背負っており、少しだけギョッとした。こういう子はあまり怒らせない方が身のためだな。うん。
「そう言えば二人は魔物の討伐をしてたとか言ってたけど、そういう仕事があるのか?」
「あるわ。冒険者ギルドっていうのがあるんだけど、あたしたちはそこに入ってるの。そこではさっきのように魔物の討伐をしたり、依頼人が欲しがってる物を探しに行ったりなど色々やってるわ」
…なんか、どっかのゲームで聞いた事があるぞそういうの。でも話を聞いて、俺は少しだけ興味がわいてきた。
「なあ、そこって俺でも入る事は出来たりしない?」
「誰でも入れるワケじゃないわ。武器や魔法を使いこなせる人以外は入っちゃ行けない決まりになってるから。冒険者ギルドは危険な仕事だからね」
「でも、ナオトさんはさっき魔法のような物を使ってたと言ってましたよね?もしかしたら、ナオトさんでも入れる可能性はあるかもしれませんよ」
「本当にぃ?どう見ても、ただのヘタレな男にしかあたしは感じないけど」
ヘタレって何だよ、失礼だなぁ。
「ナオト、とりあえず町に着いたら新しい服を買った方がいいわ。その恰好で町をうろついてたら怪しまれる可能性も十分にあり得るから。ところで、あんたお金は持ってるの?」
お金…。そんな物持っていないぞ。ロゴス、俺をこの世界に蘇らせるついでにお金をたくさんくれれば良かったのに。
「いや、持ってない」
「あんた、お金も持ってないのにここまで一人で歩いてたの!?今までよく生き延びてられたわね」
「まあね。俺、悪運だけは持ってるし?」
勿論、そんな物は持っていないが。
「…しょうがないわね。後でお金を渡すから、それであんたの服を買って頂戴」
「えっ、いいのか?」
「あんたがお金を持っていないからと言って、いつまでもその恰好でうろついてたらいずれ面倒な事になるわ。困ったときはお互いに助け合う!…そうよね、ナラ?」
「はい!困った時はお互いに助け合いですよ、ナオトさん!」
なんと、クリムが俺の新しい服を買う為にお金を少し渡してくれるそうだ。言い方はキツイ所があるけれど、根は優しい子なんだなぁ。ありがとう、クリム。
それに、困った時はお互いに助け合いだって二人が言ってたな。その言葉、覚えておこう。
「あ、ナオト!町が見えてきたわ。あそこがあたしたちの住んでる町、『トレラント』よ」
そうこうしてるうちに、どうやら町が見えてきたようだ。俺は前を見ると、大きな建物が立ち並んでいるのが分かる。かなり活気づいた町のようだ。
トレラント…。一体どんな町なんだろうか。俺は期待に胸を膨らませながら、町の方へと進んでいった。