一時の休憩、そして本戦へ…
クリムとアルベルトが公園に行って話をしている間、俺たちは屋台に行って食べ物を買って食べる事にした。この後は本戦が始まるからな、しっかりと栄養補給をしておかないと。腹が減っては戦は出来ぬって言うしね。
売店の近くにあった椅子に座って食事をしていると、しばらくして二人が戻ってきた。アルベルトは相当くたくたな様子だが、色んな話をクリムに聞かせたんだろう。忙しい時にご苦労様、アルベルト…。
「あ、おかえりなさい!お話は終わったんですか?」
「ああ、終わったよ…。疲れたぁ~」
アルベルトはそういい、その場でうつ伏せになって倒れこんだ。クリムも酷い事するなぁ、これから本戦に出場するというのに…。それだけ久しぶりに会えたのが嬉しかったんだろうか。
「はわわ、アルベルトさんっ!?大丈夫ですか?」
倒れたアルベルトを見て、ナラは慌てて彼のそばに寄る。
「大丈夫よ。くたくたになっても数分経てば元に戻るのがアルベルトという人間だったじゃない」
「そ、そういえばそうでしたね…。えっと、アルベルトさん?本戦が始まるまで時間はありますから、一回あそこのベンチに座って休みましょう?」
「ああ、そうしてくれ…」
ナラはアルベルトを背中に背負い、近くにあったベンチの所まで行きそこにアルベルトを横にさせた。ナラは力持ちとは言え、女の子が男を背負うのってなんか異様な光景だな…。
「そうだナオト、予選の方はどうだったの?もちろん、勝ち抜く事が出来たんでしょうね?」
ナラが戻ってくると、クリムは俺に予選を勝ち抜く事が出来たのかを聞いてきた。
「心配しなくても、勝ち抜く事が出来たよ」
「それは良かったわ。あたしの約束をちゃんと守る事が出来たのね。で、ナラとフリントの二人はどうだったの?」
「私は何とか本戦に出場する事が出来ましたよ!でもフリントさんは…」
「ごめんねクリムちゃん、私負けちゃったの。決勝で戦ったアルベルト君が思いのほか強くて」
「あんた、アルベルトに負けたの?へぇ、あいつも見ない間に強くなったのね」
…ん?アルベルトって昔は弱かったのか?あのフリントを倒したくらいだから相当な実力者なんだろうと思っていたから、意外だ。
俺は昔のアルベルトがどんなだったのか気になったので、ちょっと聞いてみる事にした。
「クリム、アルベルトって昔から強い奴じゃなかったのか?」
「そうね。昔はしょっちゅうあいつと喧嘩してたりナラと稽古をしてた事があったけど、そういう時はいっつもあいつが負けてたわ」
「ふーん、アルベルト君って昔はクリムちゃんたちより弱かったの。という事は、君たちと別れてからは相当修行をしたに違いないわね」
「さっきあいつが言ってたけど、この町に来てから相当鍛えてきたみたいよ。ああ見えて負けず嫌いな所があるからね」
そうなのか。アルベルトって意外と努力家なんだな。そういう所がちょっとだけ俺に似ているかも。
「ナオちゃんってお友達がたくさんいて楽しそうだね。いいなぁ」
と、今まで黙って食事をしていたミントが俺に話しかけてきた。ナ、ナオちゃん?それって俺の事を言ってるのか?
「ミント、ナオちゃんって俺の事を言ってるのか?」
「うん、そうだよ。そっちの方があたし的には呼びやすいかなーって思ったから。いいよね?」
「ま、まあいいけど」
この世界に来てからあだ名で呼ばれるのって何気に初めてだな。俺が元の世界にいた時は、友達からあだ名で呼ばれた事がよくあったけど。しかし「ナオちゃん」って、女の子みたいでちょっと恥ずかしいな。
ところでこのミントって子、さっき予選が始まる前にも言ってたけど友達はいないのか。フリントの時もそうだったが、こういう子を見かけると無性に仲間に入れてあげたいという気持ちが湧いてくる。一人より皆でやった方が安心だって前にナラも言ってたし。
「ふあーあ、よく休んだ。ん、まだ本戦は始まってないよな?」
そうこう話をしているうちに、アルベルトが起き上がった。どうやら疲れはすっかり取れたようだ。クリムの言う通り、疲れても数分休めば元に戻る体質をしているんだな。なんか羨ましい。
アルベルトは起き上がると、俺たちのいる所までやってまだ本戦は始まっていないのかを聞いてきた。
「あ、アルベルトさん!もう疲れは取れたみたいですね」
「おかげさまでな。で、本戦の事なんだが…」
「本戦ならまだ始まってないわよ。まだ時間は少しあるし、どっか屋台に行って美味しい物でも買ってきたら?」
「ああ、そうするよ」
アルベルトは屋台に行って食べ物を買い、俺たちと混ざって他愛のない話を続けた。そして数時間後…。
『まもなく、闘技大会の本戦が始まります。本戦に参加する選手は受付へとお集まり下さい』
会場の方からアナウンスが響き渡ってきた。いよいよ本戦が始まる時間か。俺たちは立ち上がり、会場へと向かう事にした。
「ナオト、ナラ、いよいよ本戦が始まるわね。二人とも負けたら許さないから!」
「負けちゃった私の代わりに、精一杯頑張ってきて!いい成果を期待してるわよ!」
「あたしたちは観客席で見てるからね!みんな、ファイトだよっ!」
クリムとフリント、そしてミントが俺たちの事を応援してくれた。応援してくれるだけでも、頑張ろうという気持ちが湧いてくる。それはどこの世界に行っても同じ事だ。
「おいおいクリム、少しは俺にも応援してくれよ…」
アルベルトはクリムにそう言ったが、顔をぷいっとそむけた。…クリム、アルベルトに対して厳しくないか?これも愛情表現の一つって奴なのだろうか。
「ははっ、こりゃ参ったな。ま、こういうのには慣れっこだからいいけどさ。とにかく俺も頑張ってくるよ。よし、二人とも早く行こうぜ!」
俺たち三人は本戦へと出場する為に、会場へと向かい歩き出した。
俺たちは受付に行き、確認と登録をしっかりと行った。その後、本戦が始まるまで選手専用の控室へ行きそこで準備をする事になった。控室は広々としたスペースになっており、とても快適だ。
この控室にいるのは俺とアルベルトにナラ、…そして仮面を被っている黒いコートを着た選手が一人。そういやあの選手について全然聞いてなかったが、何者なんだ?明らかに只者ではなさそうだが。
「アルベルト、Dグループで生き残ったあの選手って誰なんだ?」
「ん、あいつか?実は俺もさっき気になっていたんだけど、どんな人なのか全く分からないんだよな。かなりの実力者である事は確かなんだが」
「じゃあ、ナラはあの人について何か知ってる?」
「ごめんなさい、私もあの人については全く知らないんです。初めて見る人だったので」
どうやら二人も、この仮面を被った選手の事は知らないようだ。だとすれば、無名の人なのか?いや、実は有名な人物ではあるけれど事情があって素顔を隠しているという可能性もあり得そうだ。そうなると何故素顔を隠しているのかという話になるが。
もしかすると、その仮面を被った選手と戦う時が来るかもしれない。気を付けねば。
「ナオト選手、アルベルト選手、まもなく本戦試合が始まりますので会場へと移動してください」
控室の扉が開いて係員がやってきた。俺とアルベルトは立ち上がり、係員についていきながら会場へと向かう。
仮面を被った選手の事も気になるが、今は対戦相手であるアルベルトを倒す事だけを考えよう。…よし、頑張るぞ!
登場人物がだんだんと増えてきました。その分、一人ひとりを動かすのが少しずつ難しくなってきたり…。