予選試合を突破せよ!
予選が始まった。俺の目の前ではこの大会に参加した選手たちが激しい戦いを繰り広げている。どれも強そうな人ばかりだ。俺がくじ引きで引いた番号札は19番。Aブロックだとかなり後の方になる。
試合が終わり、負けた方の選手がホールから出ていくのを見る度に緊張が高まってきた。後もう少しで俺の番だ。はたして、俺は予選を勝ち抜く事が出来るのだろうか…。
「それでは、19番と20番の番号札を引いた選手は舞台に上がって下さい」
そうこうしてるうちに、とうとう俺の出番が来た。俺は緊張しながら舞台へと上がっていく。俺の対戦相手は大柄で筋肉質な男の人だ。
武器は持っていない。という事は、恐らく職業はフリントと同じく格闘家だろうか。
「ふん、まさか俺様の相手がこんなチビだとはな」
「チ、チビじゃないぞ!俺も冒険者の一人だ」
「はっはっはっ、そう怒るな!お前みたいなチビがこの大会に出るには早すぎるという事をすぐに分からせてやるからよ」
男は俺を挑発してくる。男からすれば俺はただのひ弱な子供としか見ていないんだろう。
…だけど、俺だって今まで色んな相手と戦ってきたんだ。子供だからといって甘く見てはいけないという事をすぐあいつに分からせてやるさ!
「それでは、試合始めー!」
審判の一声と共に、試合が始まった。さあ、相手はどんな戦い方をしてくるんだ…?
「まずは俺様から行くぞ!うおぉぉぉぉっ!!」
男は叫び声を上げ、こっちに向かって走って来る。…が、思ったよりも動きがとろい。今まで素早いモンスターと戦ってきたせいか、男の動きがスローに感じるのだ。
俺は突進を素早くジャンプでかわし、後ろに回り込んだ。
「ぬうっ、どこへ行きやがった!?」
男は俺の事に気づいていない様子だ。よし、今がチャンス!
俺は腰に差していた剣を取ると、鞘を抜かずにそのまま男の頭の後ろに向かってぶん殴った。
「ぐ、ぐおおっ…!?」
男は頭を殴られ、頭を必死に両手で押さえる。体は鍛えていても頭は鍛えていなかったのだろう、結構痛がっている様子だ。
「い、いてえぇぇっ!よ、よくもやってくれたな~!!」
男は鬼のような形相で俺に再び突進してきた。しかし、動きのとろさはさっきと変わっていない。なんて単調な攻撃なんだ…。
俺は突進攻撃を再びかわし、今度は男の後ろに回り込んだ。
「ぬぐぅっ、すばしっこいガキがっ!」
「隙あり!」
俺は男が油断している間に、持っている剣を今度は男の腹に狙って勢いよく殴った。
「ぐふっ、うげぇぇ…」
男は腹を殴られた衝撃で、その場に倒れこんだ。男はしばらく腹を押さえながら苦しんでいると、俺に向かって降参宣言をしてきた。
「ま、参りましたっ~!」
「勝者、19番の選手です!」
男の降参宣言と同時に、審判の判定が行われた。この試合、俺の勝ちで決まったようだ。よし!一回戦突破だ。
周りを見ると、今の戦いを見て他の選手がざわついている様子だった。
「今の見たか?あのガキ、一瞬にしてあの大男をノックアウトしたぜ」
「凄いな!あんなに強い子供を見るのは生まれて初めてだ」
「俺もあいつに負けていられないな」
殆どの発言が、俺に向けての事だった。へへっ、そんなに言われると何だか照れくさいなぁ。
俺は嬉しい気持ちになりながら舞台から降り、次の試合に備えて軽く準備をした。
(…そうだ、フリントとナラはどうなったんだろう?)
俺は準備をしている最中、二人がどうなったのかBブロックとCブロックの試合を少しだけ見てみる事にした。Bブロックの方を見ると、そこにはまだフリントが残っている。という事は、彼女も俺と同じく一回戦を突破したんだろう。
続いてCブロックの方を見ると、今まさにナラが相手の選手と試合をしている最中だった。俺が見たのは、ナラが対戦相手を両手で掴み上げてそれを場外へ放り投げる――という凄まじい光景だった。相変わらず凄い馬鹿力だな…。恐らく、ナラと当たった選手はただの女の子だと思って完全に油断していたに違いない。
「それでは、続きまして17番と19番の番号札の方、舞台に上がって下さい」
気が付くともう俺の出番が来た。一回戦、余裕で勝てたからかさっきのような緊張はもう襲ってこなかった。今の調子で戦えば、絶対に予選を突破出来るはず!
俺は自分に自信を持ちながら二回戦へと挑んだ。
「――勝者、19番の選手!Aグループで予選を突破したのは19番の選手に決まりました!」
「よっしゃー!俺の勝ちー!」
その後、俺は色んな対戦相手と戦いついに予選を突破する事が出来た。まさか自分が予選を突破し、本戦に出場する事が出来るようになるなんて…。現実味がない。
でも今は嬉しいという気持ちでいっぱいだ。早くクリムたちにこの事を伝えて自慢しないと。
(あ!そういえば、他の二人は勝ち残れたのかな?)
だがそれと同時に、二人の事も気になっていた。予選試合が終わってすぐ二人を探したが、フリントはどこにもいない。…もしかして?
「ナオトくーん!予選試合お疲れ様ー!」
と、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。この声はフリントだ。俺は彼女に予選を突破出来たのか聞いてみる事にした。
「なあ、フリントは予選突破出来たのか?」
「それなんだけどね…。ごめん!私、予選敗退しちゃった」
どうやらフリントは予選を敗退してしまったらしい。なんか意外だな、フリントが敗退してしまうなんて。それほど対戦相手が強かったのだろうか?
「決勝までは行ったんだけど、そこで戦った相手が思ったより強くてね。あーあ、後でクリムちゃんに怒られちゃうわね。…あ!でも、ナラちゃんは最後まで勝ち残ったみたいよ」
「それ、本当か?」
「ええ。ほら、あそこにいるでしょ。ちなみにナラちゃんと話をしているのがあたしに勝った相手よ」
フリントが指差した方を見ると、そこにはナラが知らない男の人と会話をしていた。何やら楽しそうに会話をしているようだが、誰だろう?ナラの知り合いなのかな。
気になったので、俺はお祝いもかねてナラと男の人のいる場所まで行ってみる事にした。
「ナラ、予選突破おめでとう!俺もちゃんと突破してきたよ」
「あっ、ナオトさん!あなたも予選を突破したんですね、おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう。…ところで、ナラの隣にいる男の人は誰なんだ?」
ナラの隣にいる男の人は俺と同い年か一つ年上くらいの男性だ。
「あ、この人ですか?この人はクリムさんの幼馴染なんですよ。アルベルトさんって言います!」
…ク、クリムの幼馴染だって?