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洋弓銃見習いのミントちゃん

 俺は路地裏の方に走っていったフリントを追いかけた。一人でこんな暗い場所に行くなんて、途中で危ない目に遭ったら大変な事になるぞ。

 追いかけていくと、フリントが建物に隠れて何かをじっと見つめていた。


「フリント、急に俺たちを置いていかないでよ――」

「しっ。ナオト君、静かにして」


 俺がフリントに声をかけた瞬間、フリントが静かにするように注意した。何だろう、やっぱあそこに人でもいるのかな…。

 前を見ると、そこには一人の女の子が二人組の男がいた。女の子は小柄で、男の方は一人が筋肉質でもう一人がひょろっとした体型をしていた。

 何やら言い争っている様子だが、何があったんだろう?俺もフリントに続いて建物に隠れながら様子を見てみる事にした。


「ちょっと!あたし、ちゃんと謝ったよ!何で許してくれないの!?」

「謝った程度でこの俺が許すとでも思っているのか?考え方がおこちゃますぎるんだよ、お前は!」

「お、おこちゃまとか言わないで!あたしはもう13よ!」

「ははっ、図星を突かれて怒ってやんの!馬鹿正直にも程があるぜ、嬢ちゃん」


 どうやらあの女の子は、あの二人組の男に何かをしてしまったようだ。あの女の子、歳は13とか言ってたな。俺より一つ年下なのか。


「勘弁してよ、どうしたら許してくれるの~?」

「どうやったらって?…へへっ、そうだな。お前の顔面を一発殴ったら許してやってもいいぞ」

「ちょっ、何よそれ!あたしみたいな女の子の顔を殴るなんてサイテーじゃない!」

「サイテーか。ははっ、サイテーで結構!俺たちはサイテーなコンビだからな、そう言ってくれると照れくさいぜ」

「別に、あんたたちを褒めた訳じゃないし!っていうか自分でサイテーって言うの!?」


 女の子が言い終わった瞬間、二人組の男の片割れが女の子の服を掴み上げる。恐らく、さっき男が言ってたように女の子の顔を一発殴るつもりなんだろう。

 どんな理由があったにしろ、女の子の顔を殴ろうとするのは絶対に許せない行為だ。こうなったら俺たちがあの子を助けるしかない!


「ナオト君、あのままではあの女の子が殴られてしまうわ。急いで助けましょ!」

「ああ、分かった!」


 俺たちは二人組の男に襲われそうになっている女の子の所へ駆けつけた。二人組の男は俺たちに気づき、目を合わせる。


「あぁん、何だお前ら?今俺たちは取り込み中なんだ、あっちへ行きな!」

「そういう訳には行かないわ。その女の子から離れなさい」


 フリントは男の発言にきっぱりと反論する。度胸あるなぁ、彼女は。俺には到底真似出来ないよ。


「この嬢ちゃんから離れろだぁ?あんた、女の割にいい度胸してるじゃないか。久々にいたぶりがいのある奴が来たみたいだぜ、相棒…!」

「へへっ、そのようだな。よし、このおこちゃまはほっといてあいつ等をいたぶろうぜ。俺は女の隣にいる野郎を狙う。お前はあの女を狙いな」

「了解だぜ相棒!さーてお前ら、後でどうなっても知らないぞぉ~?」


 男たちはそう言い終わると、俺たちに襲い掛かってきた。筋肉質の男の方は俺の方を狙ってくる。その威圧感に押されそうになったが、こんなのはもう慣れっこだ。

 筋肉質の男は俺に向かってパンチをしてきたが、俺はそれをひらりとかわした。


「ぬっ、俺のパンチをかわすとは…」

「今だ!」


 男の攻撃をかわした瞬間に、俺は持ってた剣を使って勢いよく殴った。悪い奴とはいえ人間相手に剣で斬る訳にはいかないので、峰打ちで攻撃をした。


「ぐ、ぐへぇ!」


 男は剣が当たった衝撃で倒れていった。筋肉質な体型とはいえ、峰で叩かれるのはやはり痛いようだ。


「あ、相棒っ!?」

「隙ありっ!」


 男が倒れるのを見てもう一人の男が驚いた隙に、フリントは男の腹を思い切り殴った。


「うぼぉっ!?」


 フリントの拳は男の身体にめり込んでいく。男は腹を殴られた痛みに耐えきれず、その場で苦しみながら倒れこんだ。

 見ているだけでもこっちが痛くなりそうだ。さすが格闘家を職業としているだけはある。俺、あれをまともに食らったら数日間意識を失いそうだな…。


「どう?まだ私たちとやりあうつもり?」

「ふ、ふざけるなっ!お前らと相手してたら死んでしまうっ!相棒、あの嬢ちゃんは諦めてこの場から逃げるぞ!」

「わ、分かったぜ!…ぐふっ、てめーら覚えてやがれ~!」


 男たちは捨て台詞を吐き、苦しみながら路地裏から去っていった。ふぅ、楽勝だったな。これならモンスターと戦った方がまだ手ごたえがあるぞ。

 二人組の男を撃退した後、俺たちは襲われてた女の子の所へ向かった。


「もう大丈夫よ、あの男たちは逃げていったわ」

「あ…ありがとうお姉ちゃんたち!あたし、もう駄目かと思ったよ~」


 女の子は俺たちを感謝をしつつ、ゆっくりと立ち上がる。女の子はショートヘアの髪型をしていて、髪の毛の色が緑色なのが特徴的だ。

 彼女の片手をよく見ると、弓矢のような物を持っている事に気が付いた。…なんだっけあの武器、何かのゲームで見た事があるんだけど名前が思い出せないんだよな。うーんと…。


「あら?君、手にクロスボウを持っているのね。という事は、君も冒険者なの?」


 そうだ、クロスボウだ。今のフリントの発言で名前を思い出す事が出来た。しかしクロスボウを所持しているなんて、小柄な体型の割に力持ちなんだな。まるでナラみたいだ。


「あ、うん!そうなの。…とは言っても、まだ駆け出しの冒険者なんだけどね」

「そうなのね。ところで、君はどうしてあの男たちに襲われそうになっていたの?」

「えっと、それなんだけど――」


 女の子が説明をしようとした瞬間、後ろからクリムとナラが俺たちの事を呼ぶ声がした。どうやら二人も俺たちを追っかけていたらしい。


「探したわよ、二人とも!いつまでも戻ってこないんだから心配していたのよ」

「ごめんな、クリム。でも大丈夫だよ、怪我一つもしていないから」

「そういう問題じゃなくてね…。ん?あんたの後ろにいる子は誰なの?」


 クリムは緑髪の女の子に気づく。とりあえず、どこから話せばいいんだろうか。


「皆、こんな薄暗い路地裏にいるのもあれだし一度広い場所に移動しない?話はそれからでも遅くはないわ」


 俺たちはフリントの意見に賛成し、路地裏から出て場所を移動する事にした。移動した場所は町の中にある大きな公園だ。ここでなら、落ち着いて話が出来そうだ。

 俺とフリントは、さっき路地裏に駆け付けたら女の子が二人組の男に襲われそうになっていたという事と、そいつらを撃退した事、そして助けた女の子が俺たちと同じ冒険者である事を話した。


「へぇ、あんたもあたしたちと同じ冒険者なの。…その割には、他に仲間はいないようだけど」

「そうなの。実はあたし、友達とかいなくて…。だからこの町を回って、仲間になれそうな人を探していたの。そうしたら、途中であの男にぶつかってしまって」

「それで、あの路地裏に連れて行かれたという訳か。酷い事するよなぁ」

「うん。もしあなたたちが来てくれなかったら、今頃あたしは顔をボコボコにされている所だったわ。改めてお礼を言うね。助けてくれてありがとう!」

「どういたしまして」


 緑髪の女の子は改めて俺たちにお礼を言った。やはり人からお礼を言われると凄く嬉しい。


「そういえば、まだあんたの名前を聞いてなかったわね。名前は何て言うの?」

「あたし?あたしはね、ミントって言うの。『洋弓銃(クロスボウ)見習い』のミントちゃん!」


 この子はミントって言うのか。女の子らしい(?)、可愛い名前だな。しかし、『洋弓銃(クロスボウ)見習いのミントちゃん』って…。

 本人は真面目に考えたつもりなのかもしれないが、ちょっと可笑しいと感じてしまう。


「あんた、ミントって言うのね。じゃああたしたちからも自己紹介するわ。あたしはクリム、職業は魔術師よ」


 俺たちはクリムに続き、自分の名前と職業を紹介した。俺の自己紹介が終わった後、ミントは俺の事を不思議そうに見る。


「あなた、ナオトって言うの。変わった名前をしているね」

「え?…ああ、まあね。世の中にはこういう変わった名前の人もいるという事で」

「ふーん、そうなんだ」


 俺は適当に言い訳をしておく。ミントは概ね納得している様子だ。

 クリムとナラに出会った時もそうだったが、他所の世界から来ましたなんて言う訳にはいかないしな。


「――ああっ!そういえば、大事な事を忘れてたわ!」


 と、突然フリントがそう叫んで立ち上がった。な、なんだ?大事な事って。急に大声を上げるの驚くからやめてくれよ…。


「大事な事って、何だっけ?」

「闘技大会の事よ!」


 …あっ!ミントを助ける事に夢中になっててすっかり忘れてた!

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