西の国『ウェスターン』へ出発!
一人で魔法の練習を行った翌日、俺はいつものように支度を済ませてギルドに向かう。入り口にはいつものようにフリントが俺の事を待っていた。
「おはよう、フリント」
「あっ、おっはよー!ナオト君!」
今日もフリントは元気いっぱいだ。そんな彼女を見て俺も元気が湧いてきた。さあ、今日も一仕事頑張るぞ!
…おや?フリントの手をよく見ると、何かチラシのような物を持っているような…。あれは何だろう?
「なあフリント、君が持ってるそのチラシはなんだ?」
「あ、気づいた?ふふ、実はナオト君に見せたい物があるのよ。じゃーん!」
フリントはそう言い、手に持っていたチラシを俺に見せつける。チラシには「ウェスターンの最大都市、『フェスティ』にて闘技大会を開催!」と大きな文字で書かれていた。
「闘技大会?」
「そうよ。ウェスターンにはフェスティという城下町があるんだけど、そこでは一年に一回闘技大会が行われるの。世界中から戦士や冒険者などが集まってきて、毎年激しい戦いが繰り広げられるのよ」
ウェスターンって、国の名前の事を言ってるのかな。前にクリムが北の方にノーヅァンっていう国がある事を言ってたのを思い出した。
それにしても、闘技大会か…。フリントの説明を聞いてて興味が湧いてきた。ここの世界にいる強い人の戦いを間近で見たら絶対に興奮しそう。
「どう?ナオト君。せっかくだし、あの二人も誘ってウェスターンまで行かない?今日の仕事は無しにしといて!」
「ああ、いくいく!俺、ちょっと二人に聞いてみるよ!」
俺はフリントにそう言い、急いで家まで戻った。家に戻ると、丁度二人が家から出ようとしている最中だった。
「どうしたの、ナオト。何か忘れ物でもした?」
「ううん、違うよ!さっきフリントから、皆でウェスターンに行かないかって誘われたんだ。何でもそこで闘技大会が行われるんだってさ」
「闘技大会…。そっか、もうそんな時期なのね。あ、言っとくけどあたしたちはこれから仕事があるから――」
「フリントが言ってたよ、今日の仕事は無しにして皆で行こうって」
「ちょっ、あいつそんな事言ってたの?まったく言ってくれるわね…。ナラ、あんたはどうなの?」
「わ、私ですか?えっと、私は構いませんよ。たまには仕事を休んで皆でお出かけをするのも悪くないと思います。クリムさん、一緒に行きましょう!」
「…はぁ、分かったわ。あんたがそこまで言うなら、私も一緒に行くわよ。これでいいわねナオト?」
「ああ。忙しい時にありがとな、二人とも」
よし、何とか二人を誘う事が出来たな。俺は二人を連れて行き、フリントのいるギルドの入り口まで戻った。
「あっ、クリムちゃんにナラちゃん!一緒に行く事になったのね?」
「まあ、ね。たまには休暇を取った方がいいってナラが言ってたし」
「はい。…それに実を言うと私、一度でいいから闘技大会を間近で見てみたいなって前から思っていたんです」
「ふふっ、そうだったのね。ナラちゃん、きっと今日は思い出に残る日になると思うわよ」
「はい!とても楽しみですっ♪」
「それじゃあ、早速皆でウェスターンに向かって出発するわよ!」
俺たちはウェスターンに向かって出発しようとしたその時、俺は重要な事に気が付いた。…ウェスターンって所までどうやって行くんだ?まさか、徒歩で行くなんて訳にはいかないよな?
「フリント、そのウェスターンって国までどうやって行くんだ?」
「ナオト君、不安そうな顔をしているわね。心配はいらないわ、ちゃんと馬車を雇っておいたから」
どうやら既に馬車を雇っていたらしい。良かった、徒歩で行く事にならなくて。今回は快適な旅になりそうだ。
俺たちは馬車に乗り、西の国ウェスターンにあるフェスティという町まで向かった。馬車の中は広々としており、丁度四人分座れるスペースがある。
俺は馬車の窓から景色を眺めていた。自然の景色はもう飽きるくらい見たけれど、乗り物に乗りながら見るのは初めてだからとても新鮮だ。
そういや俺、この世界で乗り物に乗るのは初めてだったな。やっぱり乗り物という物はいい。歩く時よりもずっと楽ちんだし。
「どうしたのよナオト、目を輝かせて。外から見る景色がそんなに珍しいの?」
景色を眺めていると、俺の向かい側にいるクリムが俺にそう言ってきた。…俺、目を輝かせながら景色を眺めていたのか。何だか恥ずかしいなぁ。
「えっ?…ああ、まあね。馬車に乗るの滅多にないし」
「そうなの。まあ、あたしたちも馬車に乗る機会なんてあんまりないから人の事言えないけどね」
「ふーん、三人とも馬車に乗った経験はあまりないのね。私は小さい頃に数回乗った事があるわ。例えば、ウェスターンからイースタンに引っ越してくる時とか…」
「えっ、フリントって元々はウェスターン出身だったんだ?」
「そうよ。親の都合で引っ越してきたの。ウェスターンからさよならしてもう何年になるのかしらねぇ」
そうだったのか。それは初耳だ。…後、何気に俺たちの住んでる国の名前がイースタンだという事を今初めて知った。今更かよって話だが。
そうやって皆と仲良く会話をしたり、景色を楽しんだりしてあっという間に数時間が経過した。
「あ、皆見て!そろそろ町が見えてきたわよ!」
突然、フリントが立ち上がり窓から身を乗り出しながら向こうを指差した。どうやら目的のフェスティという町に近づいてきたらしい。
俺も窓から身を乗り出して向こう側を見ると、遠くからでもはっきりと目立つ大きな町が見えた。俺はその光景を見て思わず声が出た。
「――うわぁ、すげぇ」
「驚いた?ナオト君。チラシにも書いてあったけど、あれがウェスターンの最大都市『フェスティ』よ」
「す、凄いですね。あんなに大きな町を見るのは私も初めてです」
「本当ね。あたしも初めてよ、こういうのは」
フェスティに近づいていくにつれ、がやがやと人の声が聞こえてくる。町の入り口にはたくさんの人がいるのが分かった。
入り口でさえあんなに人がたくさんいるのだから、町の中はかなり混雑してそうだ。俺は町の中はどうなっているんだろうとわくわくした気持ちで馬車を降り、皆と一緒に町へと入っていった。
「凄い場所ね、ここは。どこもかしこも人だらけよ」
「ビ、ビックリです…」
町の中は俺の予想通り、人が大勢いた。友達同士で楽しく会話をしている人や町の中を走り回る子供、食べながら町を歩いている人。ウェスターンの最大都市という事もあってか、それとも今日は大会があるからか俺たちの住んでる町よりとても賑やかだった。
奥の方を見ると、大きな城がそびえ立っているのが分かる。そういえばフリントが、ここは城下町だと言ってたな。やっぱ偉い王様とかいたりするんだろうか。
周りには屋台があちこち設置されており、そこからいい匂いがしてきた。それに釣られてか、俺の腹から音が鳴りだす。
「クリム、ちょっとここで何か買って食べてきてもいいかな?俺、腹減ったんだ」
「構わないわよ。あたしたちも丁度お腹空いたし、ここで食べ物でも買っていかない?」
俺たちは屋台で食べ物を買い、それを食べながら町をぶらついていた。そういや肝心の闘技大会ってまだ始まっていないのかな。俺はフリントにいつ始まるのか聞いてみた。
「なあフリント、闘技大会っていつ始まるんだ?」
「二時に始まるわ。まだ時間はたくさんあるから、町の中を色々巡りながら行きましょ」
俺は皆で一緒に、フェスティの色んな場所を巡る事にした。どこも人が多く思うように歩けないのが不満だったけれど、それでも初めて見る物ばかりだからとても楽しい。
歩いている途中、たまたま通りかかった路地裏の入り口を通り過ぎようとしたその瞬間――。
「…あれ?」
路地裏の方から、何やら誰かが怒っている声が聞こえてきた。女の子と男が喧嘩でもしているような…。
「どうしたの、ナオト君?」
「いや、路地裏の方から声がしたんだ。女の子と男の声があっちから聞こえてくるんだけど…」
「女の子と男の声?うーん…、何やら嫌な予感がするわね。行って見ましょ、ナオト君!」
「えっ、ちょっとフリント!?」
フリントが路地裏の方へと駆け込んでいく。どうしよう、彼女がああいってたんだし俺も一緒に行った方がいいかな。
「ちょっとフリントにナオト、どこへ行くの?」
「そこは路地裏ですよー?」
「ごめんクリム、ナラ!ちょっと用事があるんだ!」
俺は二人に謝りながら、路地裏に向かったフリントを追いかけた。