色んな魔法を取得してみよう!
飲食店で昼ご飯を食べ終わり、店から出ると俺たち三人はそのままフリントと別れた。今日の一仕事が終わったのでひとまず家に帰る。
自分の部屋に行ってしばらくのんびりしていると、扉をノックする音が聞こえてきた。誰だろう?
「ナオトー、あんたに見せたい物があるの。ちょっと一階まで来てくれる?」
扉をノックしたのはクリムのようだ。どうやら彼女は俺に見せたい物があるらしい。気になったので、俺は部屋から出て一階へと降りる事にした。
一階に降りると、テーブルに何やら分厚い本が置いてある。クリムはその本を持って俺に見せつけてきた。
「何だよそれ?」
「これはこの世界の魔法の事が全て書かれている本よ。あたしが魔法を練習する際にいつも使ってるわ」
この世界の魔法の事が全て書かれている本か。それは凄そうだな…。で、それを俺に見せつけてどうしたいんだろう?
「ほら、さっきあんたヒーリングをぶっつけ本番で取得出来たとか言ってたでしょ。それを聞いてたらね、あんたならこの本に書かれてある殆どの魔法を取得する事が出来るんじゃないかと思って。だからこれをあんたに渡そうと思ってるのよ」
「いきなりだな…。で、俺にそれをさせる目的って何なんだ?」
「あんたを試してみたいのよ。あんたがどれだけ魔術師としての才能があるのかどうかをね」
クリムは俺が魔術師としての才能があるかを試してみたいようだ。しばらくはフリントと二人っきりで行動する機会が増えるから、今のうちに色んな魔法を取得した方がいいかもしれないな。
よし、クリムがそこまで言うのならやってみるとするか。
「分かったよ。俺、どこまで出来るか分からないけれど、今後の為にも今のうちに練習しておくよ」
「決まりね。じゃ、これを持って早速外で練習をしてきて頂戴。いい成果を期待しているわ」
クリムは俺に本を渡すと、そのまま俺の後ろを通り過ぎていった。…あれ、クリムと一緒に練習するんじゃないのか?
「ちょっとクリム、もしかして俺一人で練習してこいって事なのか?」
「そうよ。あたしはこれから別の用事があるから、あんたに構ってあげられる時間はないわ。悪く思わないでよね」
クリムはそう言い、二階へと上がっていった。うーむ、一人で練習しなければならないのか。なんだかんだ言ってクリムと一緒に魔法の練習をしてると安心するから、心細くなってくるな。
まあ仕方ない。周りに被害が及ばないよう、安全確認をしながら練習するとしよう。俺はクリムから渡された本を持ち、家から出た。
俺は町の外に出ると、草原にある大きな木の所まで行ってそこで魔法の練習をする事にした。ここなら誰もいないし、安全に練習が出来るはずだ。
早速、本を開いて色々ページをめくってみる。…うっ、文字がたくさん詰まってて読みづらい。俺こういう事典を読む機会があまりないからなぁ。読んでるだけでも頭がくらくらしてきそうだ。
そう思いながら本を読んでいると、『バリア』という文字が書かれているページが目に入った。説明を見ると、この魔法は発動させるとしばらくの間自分の身を守る事が出来るという奴らしい。便利そうだし、まずはこれから取得してみるか。
俺は立ち上がり、剣を持ってそれを上にあげると勢いよく叫んだ。
『バリア!』
すると、周りに大きなドーム状の物体が俺を包み込む。俺の想像していた奴と同じだな。これならば敵に囲まれても身を守れそうだ。数秒経つと、バリアは自動で消えていった。
さて、次は何にするか。俺はページを色々めくっていると、『バースト』という文字が目に入る。本の説明によると、触れると爆発を起こす弾を放出させる物だとか。…いかにも危険そうな魔法だが、一応覚えておこう。
『バースト!』
その瞬間、剣の先端から赤い弾が勢いよく飛び出して来た。あまりにも勢いよく飛び出して来たもんだから俺は思わず尻餅をついてしまう。
そして、その赤い球は森の方へと一直線に飛び…。
ドォォォォォォォン!!!
激しい爆音とともに、弾は大爆発を起こした。恐らく神の力が混ざっているのが原因で、あのような大爆発を起こしてしまったのだろう。
俺はその光景を見て震えが止まらなくなった。…俺の予想通り、いやそれ以上に危険な魔法だ。これだけはむやみに使わない方がいいな。
しばらくして気を取り直すと、次に取得したい魔法を探す。今度は『ワープ』という魔法が気になったので、それを取得してみる事にした。
『ワープ!』
俺がその魔法を唱えた途端、突然目の前の風景が変わり草原から異空間のような場所になった。
「ど、どこだよここ!?」
突然場所が変わったもんだから俺はパニックになりかけた。すると、今度は俺の目の前にいくつかの風景がモニター画面のように映しだされる。
風景をよく見ると、さっきまでいた草原や俺たちが住んでいる町『トレラント』、初めてモンスター討伐をした時に行った洞窟にヴァイラ山…。どれも俺が行った事のある場所ばかりだ。
恐らく、一度自分が行った事のある場所なら自由に移動する事が出来るという魔法なのだろう。…あの本にもその事について書かれているんだろうけど。
「この後はどうやって移動すればいいんだ?この画面に触れればいいのか?」
俺は草原が映っている画面に触れる。すると、俺は一瞬にして元いた草原に飛ばされた。なるほど、こうやって移動出来るのか。
しかし一度行った場所にしか移動出来ないってまるでゲームの設定みたいだなぁ。まあこの世界自体、ゲームみたいなもんだけど…って前にも同じ事思ってたな。
俺はその後もしばらく魔法の練習を続けていた。気が付くと、空はすっかりオレンジ一色に染まっている。もう夕方になったようだ。
これ以上続けてたらクリムに叱られそうだし、そろそろ帰るとするか。俺は本を持って町に帰ろうとした、その時――。
「…ん?」
ふと、後ろに誰かの気配を感じ取った。この気配、何かに似ているような…?俺は咄嗟に後ろを振り返る。
振り返ると、そこにはあの黒い服を着た女の子が立っていた。
(またあの時の子だ…!今度こそ、あの子が何者なのかを聞いてみよう!)
今回は周りに誰もいないし、邪魔が入る事はないはず。今がチャンスだと思い、俺はあの子の近くまで行った。
女の子は俺の方をじっと見つめ、俺にこう言ってきた。
「なあ、君は一体何者――」
「――借り物の力に頼って、皆から褒められるのは楽しい?」
「へっ?」
俺は彼女が何者なのかを聞こうとした瞬間、女の子は突然俺に質問をしてきた。借り物の力って、神の力の事か?確かに、俺はその力を使うたびに皆から褒められたりはするが…。
「うーん…。正直に言うと楽しい方、かな?」
「そう。あなたは他人から褒められる事を強く望んでいる人なのね」
「…それ、嫌味で言ってる?」
俺は女の子にそう言ったが、黙っているだけで何も言わない。そういうのなんかもやもやするから、ハッキリと言ってくれないかなぁ。
「藤崎直人。前にも言ったけど、神の力は本来人間が使っていい物ではないの。人間が使えば、最終的にその力に飲まれ自我を失うわ」
「それ、脅しのつもりかよ?」
「私の言ってる事は本当よ。さあ、今すぐにその力を私に返して」
女の子はそう言い、俺に手を伸ばしてくる。ここで女の子の手に触れれば、神の力は使えなくなるという事か。
本来ならば、ここで素直にこの力を返すのが正解だろうが…。でも俺はこの力のおかげで今まで困難を乗り越えてきたんだ。そう簡単に返す物か。
「…それは出来ないな。俺はこの力に何度も助けられたんだ、そんな物を手放す訳にはいかない。君の気持ちは俺にもよく分かるけど、断っておくよ」
俺がそう言うと、女の子は手を伸ばすのをやめて後ろを振り返った。女の子はそのまま向こうへと歩き出す。またどこかへ行ってしまうのだろうか。
…あっ、ちょっと待って!まだ彼女が何者なのかを聞いてなかった!
「なあ、君は何者なんだ?どうして神の力の事や俺の名前を知って――」
「藤崎直人。神の力を手に入れた人間の全てが、正しい事に使ってくれるだなんて思わない事ね」
「はぁ!?おい、それどういう意味なんだよ!」
「…いずれ思い知るわ。神の力を手に入れた人間がどうなるか、ね」
女の子はそう言うと、突然パッと消えてしまった。な、何だったんだあの子…?突然出てきたかと思えば突然消えてしまうし。せっかくあの子が何者なのかを聞くチャンスだったのに…。
俺は気持ちがすっきりしないまま、町へと戻っていった。