凶暴化した生き物を止めろ!
俺たちは凶暴化したブタチビを討伐するべく、他の冒険者たちと合流する事にした。俺は剣を使ってブタチビを次々と倒していく。
ブタチビは一匹一匹はそんなに強くはなかったものの、数はかなり多い。
『ファイア!』
他の皆も当然負けていなかった。クリムはファイアの魔法を使い、ブタチビに当てていく。
「はああああああっ!!」
ナラは背中に背負ってた大剣を使い、チビブタをなぎ倒していく。そういえばナラが戦っている所を見るのは初めてだったな…。
あの穏やかな性格からは想像出来ないくらいに剣を振り回すのを見て、俺はゾッとなってしまった。ナラが俺の味方で本当に良かった。
「ふっ!はっ!てやあっ!」
フリントは打撃技を使っていきながらブタチビを倒していった。さすが格闘家というだけあってか、一瞬のスキもない。
俺もあれくらい早く動けたらいいなぁ。
「ふぅ、これで全部か」
その後、俺たちは途中でピンチに陥る事もなくブタチビを全匹討伐する事に成功した。他の冒険者たちはひとまずこの依頼を達成出来た事に喜び合っていた。
「うぅっ、どうして…」
しかし、ナラだけは動かなくなったブタチビを見てとても悲しんでいた。普段は大人しく、人を襲わない生き物を自分の手で殺してしまったのがよほど辛かったのだろう。
実際、俺も倒してた時に心の中で罪悪感を感じていたからその気持ちはよく分かる。
「おい、ナラ…」
俺はナラの近くに寄ろうとするも、クリムから止められる。
「何で止めるんだよ、クリム」
「悲しんでいる人の側によって話しかけようとするのは逆効果になるわ。今はそっとしてあげなさい」
「でも、何もしないよりはマシだろ?」
「女の子の気持ちっていうのはね、男の子が理解するのはとても難しい物なのよ。ナオト君」
フリントが俺にそう言った。女の子の気持ち、か…。そういや俺、この世界に来てから男と一緒に行動した事はあまりないんだよな。
最初は女の子に囲まれてラッキーとか思っていたけれど、やはり男が一人ぐらいいないと少しだけ寂しく感じる。俺だけ仲間外れにされてる感じがするし。
「ナラの気分が良くなるまで、どっかで休みましょ」
クリムはナラの気分が良くなるまで、休憩を取る事を提案した。仕方ない、急な依頼で疲れたし俺たちも休むとするか…。
「…ん?」
と思っていたその時、動かなくなったブタチビの様子がおかしい事に気が付いた。突然、ブタチビが次々と消滅していき紫色の液体のような物になっていったのだ。
さっきまで悲しんでいたナラもこれには驚き、すぐさま気を取り直す。
「え、えっ…?一体、何が起こっているんですか!?」
「分からないわ…!でも、とてつもなく嫌な予感がするわね。皆、気を付けて!」
紫色の液体のような物はやがて一つに集まっていき、融合していく。一体、何が起ころうとしているのか?
「お、おい…何が始まるっていうんだよ…?」
「分かんねぇ。だけど、今までにないくらいにヤベー奴が来るって事だけは分かるぜ」
「こ、怖いよぉ…」
他の冒険者たちも動揺を隠しきれていない様子だ。
一つに集まっていった紫色の液体は巨大化していき、やがてそれは一つの生き物の形へとなっていった。俺はその姿を見て驚く。
「あ、あれって…、ブタチビなのか!?」
俺たちの目の前に現れたのは、なんとさっき倒したはずのブタチビだった。しかし、サイズはさっきと比べ物にならない程大きい。恐らく、ゾウと同じくらいのサイズはあるぞ。
昔やってたゲームで雑魚モンスターが次々と集まって巨大なモンスターになるのがあったが、あれを思い出してしまった。
「どういう事だよ、ブタチビがあんなにデカくなるなんて!?」
「分からないわ。でも、皆で力を合わせればあんな奴でも絶対に勝てるわよ!」
「よし、皆!行くぞーっ!」
冒険者たちは次々と巨大化したブタチビに突撃していく。皆は一斉にブタチビの身体を攻撃していくが、全然ダメージを与えていない。恐らく奴からすれば、蚊に刺された程度にしか思っていないんだろう。
巨大化したブタチビは、鬱陶しくなったのか冒険者たちを追い払うように暴れまわった。
「「「うわあああああああああっ!!」」」
ブタチビが暴れまわった影響で冒険者たちは次々と吹き飛ばされていく。束になって掛かっても倒せないだなんて、どうしたらいいんだよ!?
「ここはあたしに任せて!ファイア!」
クリムは巨大化したブタチビに向けてファイアの魔法を放った。しかし、ダメージを負って苦しんでいる様子は全く見せていない。
「やはりファイア程度じゃ駄目なようね…。ならば、バーニング!」
クリムは続いてバーニングの魔法を放つ。さすが本業の魔術師というだけあって凄い火力だ、これなら巨大化したブタチビでも敵わないはず…。
「きゃあっ!」
と思いきや、ブタチビはそのままクリムに向かって突っ込んできた。その衝撃でクリムが吹き飛ばされてしまう。
「ク、クリムさんっ!大丈夫ですか!?」
「え、ええ…。何とかね」
幸いクリムは大きな怪我はしていないようだ。良かった、無事で。
しかしなんて奴なんだ、あいつには魔法は一切効かないというのか…?
「物理も魔法も効かないなんて、私たちはどうしたらいいの!?ナオト君、何か手はある!?」
そんなの急に言われても…いや、一つだけ手があった。だけどこの力を使えば周りに被害が及んでしまうかもしれない。どうすれば…そうだ!
「フリント!皆に向こうへ避難するよう伝えてくれ!」
「ナオト君、いきなり何を…」
「いいから早く!」
「…分かったわ!クリムちゃん、ナラちゃん、私と一緒に皆を向こうへ避難させるわよ!」
三人は他の冒険者たちを向こうへ避難させるよう行動に移った。冒険者たちは一斉に遠くへ避難していく。
…よし、これで準備は整った。このチャンスを作れた事に感謝してるよ、三人とも。
俺は巨大化したブタチビと対峙していた。ブタチビは俺の事をじっと見つめている。俺はその迫力に威圧されそうになっていた。
さっき奴に魔法は効かないと思っていたが、魔力を限界まで高めれば奴を倒す事が出来るかもしれない。ならば、あの力を使うしかない。…そう、『神の力』だ。
俺は剣を上にあげ、それを勢いよく前に振った。
『ブリザード!!』
ブタチビが俺に向かって走り出したと同時に、剣の先端から強烈な冷気が放出された。その衝撃で周りが吹雪のように視界が悪くなっていく。
(くっ、相変わらず寒いっ!…だけど今は耐えるんだ、奴が動かなくなるまでこの魔法を使うんだっ!)
俺は必死になりながら魔法を放出していた。後で体調を悪くしてもいい、今はあいつを倒す事だけを考えるんだ。
やがて、巨大化したブタチビの身体はたちまち凍り付いていく。どうやら俺の魔法が効いているようだ。
「はぁ、はぁ…。やったか?」
俺は魔法を使うのをやめ、凍り付いたブタチビを見る。ブタチビが動く気配は全くない。
…やった。あの凶暴な生き物を、また俺一人で倒す事が出来たんだ。