孤独な冒険者との出会い
俺は全速力で走っていた。ファングに襲われている、一人の女性を助けるために。女性はファングに足を噛まれ、動けなくなってる状態だ。あのまま彼女を放っておけば、奴に食い殺されてしまうかもしれない。
その前に俺があの人を助けなければ――!
(くっ、間に合うか!?)
ファングは今にも女性に飛び掛かろうとしている。早くしないと、取り返しのつかない事になりそうだ。急げ、俺!
「グオオオオオッ!!」
ファングは咆哮をあげながら女性に襲い掛かる。――その瞬間、ファングは胴体から血しぶきを上げて勢いよく地面に転がっていった。
ファングが女性に襲い掛かるギリギリで、ジャンプ斬りを使って奴を倒す事に成功したからだ。これ、事前に覚えといてよかった。
「あの、大丈夫か?」
俺はファングを倒した後、怪我をしている女性の側に寄った。女性は片足を押さえ、痛みをこらえている様子だ。よくみると足から血が出ている。そういや俺も、この世界に来た際に足を怪我してしまったんだっけ。
「あいつつつ…。私を助けてくれたのは君ね?どうもありがとう。危うくあいつにやられてしまう所だったわ」
女性は俺の顔を見てそう言った。女性はポニーテールの髪型が特徴的で、髪の色は俺と同じ黒だ。顔立ちはクリムやナラと比べて少し大人びている。恐らく、17~18歳ぐらいだろうか?
動きやすそうな服装をしており、とても健康的な印象だ。…そして、地味に胸が大きい。
「君はここで何をしていたんだ?」
「私ね、ギルドの依頼が終わって町へ戻る所だったの。その途中でファングに遭遇してそいつらを追い払おうとしていたんだけど、うっかり足を噛みつかれてしまって…」
どうやらこの女性も、俺たちと同じ冒険者のようだ。他に仲間はいないようだけど、一人で行動をしているのかな?
「もしここで君が助けに来てくれなかったら、私は今頃どうなっていたか分からないわ。改めてお礼を言うわね、ありがとう」
「どういたしまして」
そう言えば、この世界に来て人助けをするのは初めてだったな。ピンチに陥った女性を助けるなんて、何だか正義のヒーローになった気分だ。
「ナオトー!勝手にあたしたちを置いていかないでよー!」
と、後ろからクリムが俺を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、クリムとナラがこっちに向かって走ってくるのが分かる。
「ごめんよ、人が襲われていたもんだからつい助けたくなって」
「まったく…。下手すればあんたもあのモンスターに襲われていたかもしれないのよ。今度は勝手に一人で行動しないようにね」
「はいはい、分かったよ」
「とりあえず、ナオトさんが無事で良かったです。…ところで、隣にいる女の人はどちら様ですか?」
二人は女性の方を見る。そういや、まだこの人の名前を聞いてなかったな。
「私はフリントって言うの。冒険者をやってて、職業は格闘家よ」
「あなたも私たちと同じく冒険者だったんですね。…あ、私ナラって言います!」
「あたしはクリムよ」
「俺、ナオト」
「ふふっ、ここで会ったのも何かの縁を感じるわね。――いててっ!」
フリントという女性は、また片足を押さえて痛みをこらえていた。これ以上傷が深くなる前に、クリムに任せておかないと。
「クリム、この人怪我をしているみたいなんだ。ヒーリングとかいう魔法で治してくれる?」
「分かったわ、あたしに任せなさい。それじゃあ…、あんたフリントって言ったわね?そこでじっとしてて、あたしが傷を治してあげるわ」
クリムはフリントの怪我している方の足に手を当てる。すると傷が見る見るうちに塞がっていき、元の健康的な足に戻っていった。
俺はその光景を見て、クリムに傷を治してくれたあの頃を思い出した。あの時は本当に凄かったな、まさか魔法という物が本当にあったなんて思ってもいなかったから…。
「さあ、もう大丈夫よ。足を動かしてみて」
「凄い、本当に治ったわ。ありがとう、魔術師さん。…はぁ、私も仲間が一人ぐらい欲しかったなぁ。そしたら今よりも楽しい冒険者生活を送れそうなのに」
「あんた、今まで一人で行動していたの?」
「そうよ。私、ずっと師匠の下で厳しい修業をしていたから友達を作る時間がなくて。だから一人でギルドに登録したの」
この人、今まで一人で依頼を受けてきたのか。それはそれで凄い。俺だったら間違いなく無理な話だ。
「そういえば君たち、さっきまで何をしていたの?」
「俺たちはスライムを討伐しに洞窟まで行ってたんだ。で、それが終わったから町まで帰る所」
「スライム…。って事は、あなたたちはまだ駆け出しの冒険者って事?」
「いや、駆け出しなのはナオトだけよ。あたしたちはナオトをサポートする為に一緒に行動してたワケ」
「そういう事。…あ!そういえばフリント、さっきこんな奴とも戦ってたんだ。ほら」
俺はバッグから、さっき拾ったコピースライムのコアを取り出した。フリントはそれを興味深そうに見ている。
「それ、スライムのコア?にしてはサイズが少し大きいけど…」
「これはコピースライムのコアだよ。俺一人で倒したんだ」
「コ、コピースライムのコアですって!?」
フリントは俺の発言を聞いて驚いていた。予想通りの反応というか、何というか…。
「コピースライムと言えば、確かBランクに到達した冒険者でないと歯が立たないと言われている強敵じゃない!そんな奴を一人で倒せたなんて…。君、ただの駆け出し冒険者ではないわね?」
へへ、凄いだろー?とは言っても、神の力を使って倒したという反則行為に近い物で倒したんだけどね。もしその力を持っていなかったら確実に一人では倒せなかった。
「いいなぁ、私も君みたいな仲間が欲しかったなぁ。そうすれば私も少しは楽出来そうなのになぁ」
フリントは俺たちの方をチラッと見ながらぼやく。…それ、遠回しに俺たちの仲間に入れてくれって事なのか?
どうしよう。ここは二人に相談してみるか。
「どうする?この人、仲間を欲しがっているみたいだけど」
「うーん…。ま、別にいいんじゃないかしら?仲間が増えればより安全に行動が出来るし」
「私もクリムさんに賛成です。それに、この人を仲間に入れないで放っておくのも何だか可哀想ですからね。ナオトさん、いいですか?」
「もちろん!」
よし、意見はまとまったな。それじゃあ、この人を俺たちの仲間に入れてあげる事にしよう。
「なあフリント、良かったら俺たちと一緒に行動しないか?」
「えっ、私を仲間に入れてくれるの!?」
「はい!一人でやるよりも、仲間と一緒に依頼を受けた方が絶対に楽しいですよ!」
「…みんな、ありがとう!それじゃあこのフリント、君たちの役に立てるよう精一杯頑張るわ!」
こうして、フリントが俺たちの仲間に加わる事になった。格闘家としての腕は結構ありそうだし、期待してるよ。