黒い服を着た女の子
俺たちは森の中へと進んでいき、ようやく目当てのルオナグス草を見つけ出す事が出来た。ルオナグス草はたくさん咲いており、青く光っててとても綺麗だ。
これを採取すれば、後はギルドに戻って受付の人に見せるだけだ。よし、さっさと終わらせて町に戻ろう。俺はルオナグス草がたくさん咲いている場所まで近づいた。
「そういえばクリム、これってどれだけ持っていけばいいんだ?」
「うーん…。どれくらいなのかはあの紙に書いてなかったしね。とりあえず、余分に2~3本ぐらい持っていけばいいんじゃないかしら?」
「分かった。そうするよ」
俺はクリムと相談し、ルオナグス草を3本採る事にした。これだけ採取すれば問題ないだろう。
…それにしても、近くで見ると本当に綺麗な花だな。ところでこの薬草にはどんな成分が含まれているんだろう?やはりゲームで出てくる薬草と同じように、体力を回復させる効果でもあるのだろうか。
ま、そんな事は今は考えなくてもいいか。とにかく俺はルオナグス草を3本採った後、二人の所へ戻った。
「クリム、ナラ!薬草採ってきたよ!」
「うんうん、しっかりと3本採ってきたようね。それじゃ、さっさとこの森から出るわよ」
「後はそれをギルドにいる受付の人に見せれば依頼完了ですよ、ナオトさん!」
やる事は終わったので、俺たちはさっさとこの森から出る事にした。ちなみに採った薬草はギルドに戻るまで二人に預けて貰う事にした。俺、バッグとか持ってないしな。
さーて、早く町に戻って昼ご飯でも食べるか…。
(…ん?)
ふと、俺は後ろに何かの気配を感じ取った。気になったので後ろを振り返ると、そこには黒髪のロングヘアーで、黒い服を着た一人の女の子が立っていた。
おかしい、さっきまであの子はここにいなかったはずなのに…。
「君、誰?」
俺は不気味に思いながらも、だからといって無視するのも悪い気がするのでその子に声をかけてみる事にした。すると、女の子は口を開いて俺にこう言ってきた。
「――探したわよ」
「え?」
「私はあなたの事をずっと探していたの。あなたを連れ戻すために」
俺を連れ戻すためにずっと探していた、だって?この子、俺の事を前から知っているのか…?
よく分からないまま困惑していると、女の子は続けてこう言った。
「あなたの体に入っている、『神の力』。それはあなたのような人間が使っていい物ではないわ」
「えっ!?」
この子、何で俺の体に神の力が入っている事を知っているんだ!?それを知っているのは、俺の他にロゴスしかいないはず。
あの女の子、明らかに普通の人間じゃない…!
「君、一体何者なんだ?どうして、俺の体にその力がある事を知っているんだよ!?」
「あなたは何も知らなくていいわ。とにかく、私の所まで来て。そうすれば、あなたの中にある力を取り除く代わりに元の世界へ帰してあげるわ」
女の子はそう言うと、俺を誘うように手を伸ばして来た。どうする?俺はあの子の言う事を信じて付いていくべきか?俺が住んでいた世界にも帰らせてくれるみたいだし…。いやいや、俺はこの世界で二度目の人生を送るって決めたんだ。この決心を無駄にしてたまるか。
「ナオトー!そんな所で何しているのー?早くこっちへ戻ってきなさーい!」
と、後ろからクリムが俺の事を呼ぶ声がした。俺は正気に戻ったように後ろを振り返る。そこには、俺の事を待ってくれている二人がいた。
俺は急いで二人の所まで駆け寄る。
「ナオト、そこで何をしていたの?」
「ごめん。あそこに黒い服を着た女の子がいたからさ…」
「あんた何を言ってんのよ?そんな子、あそこにいなかったでしょ」
「えっ?いや、本当にいたんだよ!ほら――」
俺は後ろを振り返り、さっき女の子がいた場所を指差した――が、そこには誰もいなかった。ただルオナグス草がたくさん咲いているだけだ。
「あ、あれ…?」
さっきまであの女の子はあそこにいたはずだ。なのに、急に消えてしまうなんて…。俺は幻覚でも見ていたのだろうか?
「馬鹿な事を言ってないで、さっさと町に戻るわよ」
「あ、ああ。分かったよ…」
俺は釈然としないまま、町まで戻る事になった。本当に何だったんだ、あの子?
俺たちは一時間ぐらい歩き、ようやく町に戻る事が出来た。そしてギルドに行き、受付の人に依頼が無事に終わった事を報告する。
「それではナオト様、確認の為にルオナグス草をこちらにお渡し下さい」
「分かりました。えっと…、こちらで合ってますよね?」
俺は受付の人にルオナグス草を全部渡した。ちゃんとこれで合ってるかな?何だかドキドキする…。
受付の人はその薬草を隅から隅まで調べ、それが終わると俺に向けてニッコリと微笑んだ。
「はい、確かにこちらは本物のルオナグス草になります」
よし!どうやらこれで合ってたみたいだ。本当によかったぁー。全く別の雑草とかじゃなくて。
その後、俺は受付の人にギルドカードを提出するよう言われたので渡すと、受付の人はカードの裏側にハンコを一つ押した。記念すべき最初の依頼を達成した証だ。しっかりと心に刻んでおこう。
「それではナオト様、こちらが今回の依頼の報酬になります。お疲れさまでした」
俺は受付の人からギルドカードと、依頼の報酬が入っている袋を渡された。袋の中にはじゃらじゃらと何かが入っているのが分かる。恐らくこの中にお金がたくさんあるんだろう。
さて、これで依頼完了だ。俺はその事を二人に報告した。
「お疲れ様、ナオト。どうだった?初めて冒険者ギルドで働いた感想は」
「うーん…。俺、まだEランクの依頼を一つ受けただけだから何とも言えないな。でも、大変だけどやりがいのある仕事だというのは十分わかったよ」
「大変だけどやりがいのある仕事、か。そういやあたしたちも最初はそんな事を思ってたわね。そうでしょ、ナラ?」
「はい。私もこの仕事をやって大変だと思う時は何度もありますけど、それだけにやり終えた時の達成感は気持ちいいですよね!」
二人もこのギルドに入った当初は、俺と同じ事を思っていたのか。大変だけど、やりがいのある仕事。これからもたくさん依頼を受けて、ギルドランクを上げるよう頑張らなきゃ。
…それにしても、さっき森の中で出会ったあの女の子。結局誰だったんだろう?俺はそれが少し心残りだった。