天空での戦い、そして決着
俺とロレンツォ神父は上空を飛んでいる。空を飛んでいるなんてまるで漫画のような話だが、今実際に起きている事だ。
俺は何とかバランスを保ちながら浮遊していた。一歩間違えればこの高さから落ちる事になる。元々俺は高い所が苦手なんだけど、今は怖がっている場合じゃない。何としてでもあいつを倒し、皆のいる所へ戻らなければ。
『…フジサキナオト。これで私を追いつめたつもりでしょうが、逆に墓穴を掘るという形になりましたね。『神の力』を完全に使いこなしていない貴方は空を飛ぶだけでも精一杯と言った所でしょう』
「そんなもん、戦いながら感覚を掴めばいいだけの話だ!」
『口で言うだけなら誰にでも出来る事です。現実はそう上手く行かないという事を貴方に知って貰う必要がありますね…』
ここでの戦いは地面が無いから、今までとは全く違う戦い方になる。慣れない戦いだがぶっつけ本番で乗り越えるしかない。
『…しかし、先ほどは私とした事が油断していましたよ。貴方のお仲間がもう一人隠れていたとはね…。この槍さえ無ければ、今頃貴方は私の技によって消し炭にされていたでしょう』
そう言いながら、神父は背中に刺さっている槍を引き抜く。見るからに痛そうだが、簡単に槍を抜いた辺り大したダメージは無いのだろう。あいつはもう人間じゃないから。
…にしても、さっきの救援は助かった。ミント、どこかに隠れてクロスボウを撃つタイミングを伺っていたんだな。この戦いが終わったら、後であの子にお礼を言わないと。
『では、次の戦いで本当に最後にしましょう。そろそろ貴方をここで始末しないと、私とへレス様の計画に支障が出ますので』
「ああ、終わらせよう。…だけどその前に一つ聞きたい」
『ほう、何です?』
「さっき、お前は油断してミントの攻撃を食らった。お前が本当に神になったのなら、これを予測して対処出来たはずだ。どうしてそれをしなかったんだ?」
『…その話ですか。失礼、あのお嬢さんから感じる気が小さかった物でね。私が相手するまでもないと思い放っておいたのですが…こればかりは私の間違いでした』
ミントが弱いと判断していたから、油断していたという訳か。神父、ハーシュにあった教会の件といい詰めが甘い性格みたいだな。
『ですが、それもすぐに返上すればいいだけの話。フジサキナオト、次の戦いで最後にしましょう。そろそろ貴方を始末しなければ、私とへレス様の計画に支障が出ますからね…』
神父は再び剣を二つ召喚し、両手に持ち構える。俺も剣を握りしめ構えの態勢に入った。
「それじゃ――」
『行きますよ!』
俺と神父は猛ダッシュで真っ直ぐ突っ込み、同時に剣を振り下ろす。剣と剣がぶつかり激しい衝突音が空中に鳴り響いた。
『それで全力ではありませんね?』
「当たり前だ!次行くぞっ!」
俺たちは後ろに離れると、空中を縦横無尽に駆け回りながら攻撃し続けた。俺は戦いの中で空を飛ぶコツを少しずつ掴んでいく。最初は空を飛んでる事に戸惑っていた俺だったが、慣れてしまえばどうって事はなかった。
空を飛びながら敵と戦う――まるでスーパーヒーローになった気分だ。
『どうしましたか?ただ闇雲に攻撃をするだけでは私に勝てませんよ…』
「くっ…」
しかし、どんなに攻撃しても剣は神父に当たらない。これでは無駄に体力を消耗するだけだ。さっきのように隙を見て攻撃をした方が得策か。
『ならば、次はこれでどうです!』
神父は両手を広げると奴の周囲から魔法陣のような物がたくさん現れる。案の定そこから大量の黒い球が飛び出してきた。
(くそっ、これを全部打ち落とせってか!?)
俺はこっちに飛んできた球を、剣で一つ一つ打ち落とす。
『…ほう、なかなかやりますね。ですが、どこまで耐えられますか?』
落としても落としても攻撃は止まらず、それどころか勢いはどんどん増していく。…くそっ、これじゃあキリがないぞ!ここでバリアを張ったとしても意味ないだろうし、あの球を一気に打ち落としたいところだが…。そういうのが出来る力って無いのか?
「うあっ!」
そんな事を考えているうちに、俺は球に当たってしまった。残りの飛んできた球も俺に次々と命中し、そのせいで俺の体がよろけてしまう。
「うわっ、と、と…危ないっ!」
俺は何とか体勢を立て直す。ふー、危なかった。あと少し遅れていたらこの高さから落ちていただろうな。
『油断していましたね?しかし、これで終わりではありませんよ!』
神父が再び大量の球を飛ばしてくる。――くっ、こうなったらとにかく念じて何とかするしかない!俺は剣を握り念じ始める。すると剣がまた輝き始め、その先端から光の球が次々と飛び出す。
光の球は神父の放つ球を一つずつ確実に打ち落としていく。俺が剣を振るよりとても正確だ。これなら何とかなるか…!?
『ほう…私と同じ力を使ってきましたか。実に面白い』
「勝負はここからだ…ロレンツォ!」
俺と神父の激しい撃ち合いが始まった。俺は奴の放つ弾幕を避けながら、自分も無数の球を出していく。球同士がぶつかり合う影響であちこちに爆炎が発生していた。空を飛びながら戦っている事もあり、まるであの有名な少年漫画のような戦いだ。
「――つっ!」
その途中で神父の放った球がいくつか俺に当たる。だがこの程度で怯む訳には行かない。相手が諦めるまで何度でも撃ち続けてやる…!
『ふう…。最後の戦いと自分で言っておきながら、少々遊びすぎました。貴方がここまで粘るとは思っていませんでしたからね』
しばらく弾幕戦を繰り広げていると、神父は突然攻撃を止め俺にそう言ってきた。
「当たり前だ…。俺にはお前を倒すという使命があるからな。どんな攻撃が来ようと俺は絶対にやられたりなんかしない」
『私を倒すという、ただそれだけの考えでここまで来たという事ですか。…単純ではありますが、だからこそ質が悪い』
「それはロレンツォ、お前だって同じだろ?お前はこの世界を変えたいという理由で俺たちの邪魔をしてきた。どんな力を使ってでも自分の目的を成し遂げようとしているんだ。俺からすれば十分、質の悪い話だよ」
『…認めたくはありませんが、貴方と私は似た者同士のようですね。目的は真逆ですが、『神の力』を使いこの世界を救うというのは一致している』
「ああ、そうだな。だが、お前と違う所は一つだけある。それはお前が――『悪』だって事だ!」
俺は神父を指さし、そう言い放つ。世界を救うとか言ってるが、あいつのやろうとしている事は漫画やアニメで悪役がよくやっている『世界征服』のようなもんだ。
『私が悪だと?…ふふふ、いいでしょう。では次の一撃でどちらが本当の『悪』となるか決めるとしましょうか!』
神父は剣を召喚すると、禍々しいオーラと共に先端が伸びていく。あれに当たれば俺でもただじゃ済まないだろう。
『フジサキナオト、最後に一つだけ教えてあげましょう!『悪』というのは敗者の証であり、そして『正義』は勝者の証である事を!もし貴方が私を悪だと決めつけるのであれば、私に勝ってみなさい!』
「…ああ、勝ってみせるさ!お前を倒して、俺がその正義とやらになってやる!」
俺はまた強く念じると、神父のように剣がオーラに包まれ先端が伸び始める。俺のオーラは神父のとは違い、見ているだけで希望が溢れるような光り輝く物だ。
『では――次で本当に最後にしましょう!』
「行くぞ、ロレンツォ!うおおおおおっ!!」
俺と神父は前に突っ込み、剣を振り上げる。
――ガギィィィィィン!!
振り上げた剣が神父の剣にぶつかり、火花と共に激しい音が鳴り響く。俺と神父は互いに剣を押し合う。鍔迫り合いの始まりだ。
俺は必死になりながら相手の剣を押すが、神父の方は余裕の表情を見せながら俺の剣を押していく。今のままだとあいつに勝つのは厳しいか!?
(くっ…!今のままじゃあいつに勝てない!もっとだ、もっと俺に力を与えてくれ、ロゴスっ!!)
俺は心の中でロゴスに助けを求める。――俺が持つこの力は、ロゴスから与えられた物。もしかしたらその中に僅かでも彼の意思が入っているかもしれない。
ロゴス、お願いだ。もし俺の声が聞こえるなら…俺に、あいつを倒せる力をくれっ!!
『むっ…!?』
心の中でそう願った時、俺の剣に異変が起きた。剣がさっきよりも強く輝き、更に先端がどんどん伸び始めたのだ。まさに天まで伸びる勢い――いや、ここは空の上だから宇宙まで伸びていると言った方が適切だろうか。
…ロゴス、俺の願いをちゃんと聞いてくれたんだ!
『馬鹿な…!私の力を上回っているだと!?』
神父は信じられないというように動揺し始める。あんなに驚いている奴の姿を見るのは初めてだ。――今なら行けるかもしれない!
「――ロレンツォ神父!この一撃で…終わりだあああああっ!!!」
俺は勢いよく剣を振り下ろす。天高く伸びる巨大な剣が神父に向け降り注いだ。しかし神父は諦めようとせず、持ってる剣で懸命に押し出そうとする。――だが、そんなのをした所で結果は見えていた。
『ぐ、ぐおおお…!馬鹿な、私より貴方の方が…私より上回っているとでも言うのか!?そんなの認め――ぐああああああああっ!!!』
巨大な剣が神父ごと貫き、真っ二つになった奴の身体から光が漏れだす。神父は断末魔を上げながら地上へ落下していった。
「へ、へへっ…。やったぞ、俺はあいつに勝てたんだ…!」
光っていた巨大な剣は元のサイズに戻っていく。――ついに、俺は神父に勝った。俺はそれが何よりも嬉しかった。ロゴス、俺の戦いぶりをちゃんと見ていてくれたか?
(ロゴスーーうっ、なんだ?力が入らない…)
だがそれと同時に、俺の意識が急に薄れていく。力を使いすぎてしまったからだろうか?だが、このまま気を失ったら俺は地面に真っ逆さまだ。それだけは避けなくては…!
(くっ!だ、駄目だ!意識が遠くなってい…く…)
俺はこの状況を何とかしようと必死になり空中を泳ぐ。しかしその抵抗も空しく、俺は完全に気を失い地面に落ちていった――。