悪魔の降臨
皆様、大変お待たせしました!本小説の続きになります。
今回は三話分投稿しましたので、時間のある時にゆっくり読んでください。
「あ、あの紫色の煙はまさか…!」
「何、どうしたの!?ナオト!」
俺は神父の周りを包み込もうとしている紫色の煙を見て驚いた。あれは以前、俺がダミアンと戦っていた際に見たのと同じ奴だ。
ダミアンはあの煙に包まれた後、巨大な化け物に変身していた。あの能力も『神の力』によるものだと言っていたが…。となると、ロレンツォもあいつみたく変身するつもりか?
「ふふふ…。フジサキナオト、貴方はこの力に見覚えがありますね?お察しの通り、これも『神の力』による物です。『神の力』には新たな生物を生み出すだけではなく、自らもその生物へ進化する事が可能なのですよ」
「やはりそうだったか…!だけど、その手なら既に対処済みだ!お前がどんな姿になろうが俺たちは絶対に負けないぞ!」
「ほう、相当自信があるようですね。ですがそれも無駄な事。貴方達がどう足掻こうと、私に勝つ事は不可能に等しい」
「ど、どういう事だ!?」
「それを今からお見せしましょう。人間では決して到達する事のない、絶対的な破壊の力をね…!」
神父は不気味に笑うと、煙に完全に包まれ姿が見えなくなる。――とその時、突然煙の中から大きな光が放たれ、周囲を包み込んでいく。
「う、うわっ!?」
「きゃっ!な、何なのこの光――!?」
俺たちは光の眩しさに耐えきれず、目をつぶり両手で顔を隠す。光が消えた後、恐る恐る目を開けるとそこに神父の姿はどこにもなかった。
「ううっ…。し、神父さんはどこへ…?」
「分からないわ。一体どこへ――はっ!?」
「ど、どうしたんだクリム!?」
クリムは空を指差しながら驚いた反応を見せる。俺とナラも続いて空を見上げると、信じられない光景が見えた。
「そ、空がさっきより暗くなってる…?」
さっきまで真っ白だった空が、禍々しい紫色に染まっていたのだ。それにいつの間にか雪も止んでいる。この明らかに普通じゃない状況に俺たちは激しく動揺した。
「何なのこれ…?一体何が起きてるのよ、ナオト!?」
「そんなの俺に聞くなよ!…だけど、今までより嫌な予感がするのは確かだ。気を付けた方がいい」
「あんたに言われなくても分かってるわ!」
俺たちは戦闘態勢に入り、神父がいつ襲い掛かってきても対応できるようにする。一秒、二秒、三秒――。緊張しているからか、いつもより時間が過ぎていくのが遅く感じた。
『――ふふふ、私ならここにいますよ』
突然、雪原に神父の声が響き渡る。俺たちは慌てて周囲を見回すが、どこにもいない。という事は――まさか、上か!?
「あ、ああ…っ!ナオトさん、クリムさんっ!あそこにいるのって…!!」
ナラが驚いた表情で空を見上げる。俺とクリムもそっちを見ると――そこには、人の姿をした「何か」が浮かんでいた。
「あれは――天使、なの?」
クリムがそう言った通り、それは天使に似た姿をしていた。美しい顔をしており、背中から翼が四つ生えている。
だが肌は浅黒く、下半身は獣のような体毛が生えているのが見える。俺がイメージしている「天使」とは違う、どちらかと言えば悪魔に近いフォルムだ。
「お、お前…!まさかロレンツォなのか!?」
『その通りです、フジサキナオト。これが私の進化した姿…。我ながら実に素晴らしい』
天使のような姿をした人物の正体は、やはりロレンツォ神父だった。どうやらあれが『神の力』を使い進化した姿らしい。
だが、あの時のダミアンとは違い性格は落ち着いたままだ。それが余計に不気味に感じた。
「神父さん…。貴方もダミアンさんと同じく人間である事をやめてしまったのですね。本当に、それでよかったと思っているんですか?」
『当然です。私はこの世界を救う為ならばどんな事でもすると誓ったのですから。後悔はしていませんよ』
「そ、そんな…」
ナラは神父の言葉を聞いてショックを受けていた。あいつの事を慕っていたみたいだし、当然だろうな…。
「クリム、ここでショックを受けている場合じゃないわ。分かっているわね?」
「…はい。私は神父さんがどんな姿になったとしても絶対諦めたりなんかしません。あの人を止める事が私たちの目的ですから」
「心配する必要はなかったようね。…ナオト、念のために聞いとくけど、あんたも覚悟は出来ているわね?」
そんなの、今更悩むまでもない。俺はクリムに向け黙って頷くと、クリムは安心したように笑みを浮かべた。
『…話は済みましたか?では、始めましょう。この世界の命運をかけた聖戦を!』
神父がそういった瞬間、奴の左腕の近くから黒い剣が現れる。神父はそれを掴んだと同時に姿を消した。
「またどっかへ消えたわ!気を付けて、みんな!」
俺たちは急いで武器を構え、周囲を見回す。神父の奴がどこから来るかは分からない。せめて姿を探知できる力があればいいんだけど…ん?
(あ、あれはなんだ?こっちへ向かってくるぞ)
ふと、俺は向こうから黒い人型のような物体がこっちへ来ている事に気づく。その黒い何かは高速で俺たちの周りを動き回っている。あ、あれは一体…?
「クリム、ナラ!黒い形をした何かが動いてる!」
「え?…こんな時に何を言ってんのよ、ナオト!あんた頭でもやられたの!?」
「俺は正気だよ!ナラ、君も何か見えないのか?」
「ご、ごめんなさいっ!私もクリムさんと同じです!」
どうやらあの物体は俺にしか見えていないようだ。なんで俺にしか見えていないんだ――と思ったその時、黒い物体はナラの後ろへ近づいてくる。
――何かわからないが、このままだとナラが危険な目に遭いそうだ!
「ナラ、後ろだっ!」
俺は急いでナラに声をかける。彼女が振り返った瞬間、さっきの進化したロレンツォ神父が姿を現す。神父は手に持ってる剣を振りかざし、ナラに攻撃しようとしてきた。
「はわわっ、危ないっ!」
神父に気づいたナラは大剣を使い、奴の攻撃を防いだ。
『ほう…。私の存在に気づいていたとは』
「ナ、ナオトさんが教えてくれたんです!あなたが私の後ろにいるって事を!」
『…なるほど。ですが、気づいた所で無駄ですよ!』
そう言うと神父は再び剣を振り上げ、ナラに攻撃をする。
「きゃあっ!」
神父の持ってる剣は俺と同じくらいのサイズにも関わらず、今の一撃でナラを吹き飛ばした。なんて力だ…!
「ナラ!大丈夫!?」
俺とクリムは飛ばされたナラの所へ駆けつける。
「は、はい…。痛みはありますけど、まだ大丈夫です」
「そっか、よかった。でも念のために俺が回復してあげるよ」
「ええ、ありがとうございます」
俺はヒーリングを唱え、ナラの傷を治す。
『次はあちらのお嬢さん、貴方の番です。貴方には魔法で相手をしてあげましょう』
「ふん…!いいわ、超一流の魔術師であるあたしを舐めない事ね!」
クリムとロレンツォは互いに魔法を放つ準備に入る。――いくら何でも無茶だ、相手は『神の力』を得た人物だぞ!?この勝負は火を見るよりも明らかだ。あのままだとクリムが…!
「クリム、奴の相手をするな!このままだと君がやられてしまうぞ!」
「そんなの分かってるわよ!でも、だからといって何もしないなんてのはあたしのプライドが許せないの!どんなに無謀な戦いだったとしても、あたしは全力で戦ってみせるだけよ!」
「やめてください、クリムさんっ!こういう時は私たち三人で戦った方がいいです!困ったときはお互いに――!」
「その必要はないわよ、ナラ!…悪いけど、ここはあたし一人で任せて頂戴。今からあたしがあの人に、人間の底力って奴を見せてあげるんだから…!」
『ほう、人間の底力ですか。…いいでしょう、全力で魔法を出しなさい。私に勝つ事は不可能ですがね』
「不可能かどうかは、やってみなきゃ分からないわ…!行くわよ、ロレンツォ神父!」
どうやら両者ともに、魔法を放つ準備が終わったらしい。こうなったらクリムを信じよう…!もしかしたら、奇跡が起きてあいつにダメージを負わせる事が出来るかもしれない!
『では、行きますよ!――はあっ!』
「これが今のあたしの全力魔法…!バーストの上位魔法、――『エクスプロージョン』よっ!!」
クリムは杖から、ロレンツォからは両腕から魔法が放出される。どちらも巨大な球で出来た魔法だ。あんなにデカいのがぶつかれば、当然ただでは済まないだろう。
そして、二つの球がぶつかった瞬間――。
――ドォォォォォン…!!!
球が大爆発を起こし、周囲を包み込んだ。