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『神の力』の復活

「う、ううん…」

「――あっ、ナオちゃんが起きた!」


 俺は意識を取り戻すと、ゆっくりと目を開ける。起きて最初に見たものは、ミントが俺の顔を覗き込んでいる光景だった。

 体を起こし、周りを確認する。いつもと変わらない自分の部屋だ。…と言う事は、無事に帰ってこれたんだな。この世界に。


「ふぁ~あ。…やあ、おはよう。ミント」

「おはよう、ナオちゃん!あたしね、あなたが起きるのをずっと待ってたんだよ」

「それで、俺の顔を覗き込みながら待っていたのか?」

「えへへ…。ちょっとだけ心配してたんだよ。もしナオちゃんがずっと起きなかったらどうしようって」


 …相当俺の事を心配していたんだな、この子は。


「あ、そうだ。ナオちゃん、あの神様から力を貰ったんでしょ?具合は大丈夫?」

「ん?ああ、全然平気だよ。体がだるいとかそういう症状は出てない。…ただ、体中に力が溢れてくる感じはあるかな」


 俺は自分のお腹を触りながら言う。さっきロゴスから『神の力』を受け取った際、体中に力が溢れてくるのを感じていた。それは今も継続している。


「じゃ、じゃあナオちゃんは本当に力を手に入れる事が出来たって事だよね?」

「ああ、そういう事だ」

「そうなんだ…!わーい、ばんざーい!」


 ミントはその場でぴょんぴょん飛び跳ねながら、嬉しそうな表情を見せる。可愛い。


(まるで自分の事みたいに喜んでるな…ん?何だあれ)


 ふと、俺は机の上に何やら大きな物が載っている事に気づく。金色の鞘に収められた綺麗な剣だ。あれは一体?


「なあミント、机に置いてあるあの剣は?」

「…あっ、気づいた?これはね、ナラ姉ちゃんが買ってきた物なんだよ」

「えっ、ナラが?」

「うん。何でも、ナオちゃんが元気になった時に使って欲しいって。ナオちゃんがまた姉ちゃんたちと一緒に戦ってくれるのを楽しみにしているみたいだったよ」


 ナラ、俺の為にそんな事をしてくれたのか…。一度力を失い、更に俺の正体がバレてしまったにも関わらずここまで優しくしてくれるなんて。俺はそれだけでも嬉しいという気持ちでいっぱいだった。

 俺はベッドから出ると、机に置いてある剣を両手で持つ。以前ナラから貰った物よりもずっしりとしており、使われている素材からしてかなりの値段で売られていたに違いない。後でナラに感謝しないとな。

 …今頃皆はどうしているのだろうか。俺が寝ている間、既にロレンツォやイレギュラー達と戦いを繰り広げている事は確かだろう。ならばこうしちゃいられない。俺も早く皆のいる所へ駆けつけなければ。


「ねえ、ナオちゃんはこれからどうするの?」

「決まってるだろ。俺は今からノーヅァンにある遺跡へと向かう」

「えっ、もう行くの?ナオちゃん、まだ朝ご飯も食べてないでしょ?そのまま行ってもお腹が空いて力が出ないと思うよ」

「何言ってんだ、そんな時間はないだろ――」


 俺がそう言いかけた途端、腹からグ~ッと音が鳴った。…むぅ、口でごまかす事は出来ても体はごまかせないってか。

 まあ、『腹が減っては戦ができぬ』ってことわざもあるくらいだし何か食べといた方がいいかもな。健康第一。


「ナ、ナオちゃん…?」

「あはは…。ミントの言う通り、今は何か食べた方がいいかもな」

「うんうん、それがいいよ。ナオちゃんの分のご飯は一階のテーブルに置いてあるから、それを食べてね」

「分かった。そうするよ」


 そう言うと、俺は部屋から出て階段を降り一階へと向かう。一階に着くとテーブルには細長いパンが袋に包まれた状態で置かれてある。俺が元いた世界で言う、『フランスパン』に似たパンだ。

 げっ、よりによってあんなのかよ。嫌いじゃないけど、あれ食べきるの地味に時間がかかるんだよな…。こうなったら急いで食べ切るしかない。

 俺は椅子に座って袋からパンを取り出すと、いつもよりペースを早く意識しながら食べ始めた。いただきます。


「――ふーっ、食った食った…。げふ」


 急いで朝ご飯を食べ終えると、思わずゲップが出た。流石にあの大きさのパンを一気に食べるのはきつかったか…。うへぇ、口の中がパサパサだぁ。こういう時は水を飲まないと。


「…あっ、ナオちゃん?もうご飯は食べ終わったの?」


 水を飲んでいる途中、ミントがクロスボウを持ちながら一階へ降りてきた。どうやらミントも戦いに行くつもりのようだ。


「ああ、今食べ終えた所だよ。それより、ミントもノーヅァンに行くのか?」

「うん。ナオちゃんがまた戦いに行けるようになったんだし、あたしも一緒に行かなきゃって思ったの。あたしだけここでお留守番したら、頑張ってる皆に失礼でしょ?」

「…そっか。分かった、でも無理はしないようにな。じゃ、俺はそろそろ出かける準備をしてくるよ。ミントはここで待っててくれ」

「はーい」


 ミントは元気いっぱいに返事をした。俺はそんな彼女を見てほっこりしながら、自分の部屋へと向かう。

 寒い場所に行くから上着を羽織って、新しい剣を装備して…と。よし、これで準備OKだ。


「お待たせ、ミント!そろそろ行くよ!」


 俺は支度を済ませ部屋から出ると、一階で待機しているミントに声をかけた。


「準備終わったんだね、ナオちゃん!こっちはいつでも大丈夫だよ、早く行こ!」

「ああ、皆を助けに行こう。そしてロレンツォを止めるんだ!」

「うんっ!」


 俺たちは仲間を助け、そしてロレンツォの野望を食い止める為に再びノーヅァンへ向かう事になった。




「――よし、問題なく着いたな」


 ワープを使い、俺とミントはノーヅァンの遺跡に到着した。魔法は問題なく、今まで通りに使えるようだ。それが分かっただけでも一安心と言った所か。


「ふぅ。ナオちゃん、ワープが使えるって事は他の魔法も使えそうだね」

「ああ、そうだろうな。…にしても相変わらず寒い場所だ」


 上着を羽織っているとはいえ、ノーヅァンは相変わらずの寒さだ。ここで立ち止まっていたら凍え死んでしまいそう…とまでは行かなくても、雪国に慣れていない俺には辛い。

 さっさと先へ進んで皆を探さなければ…うん?あれは何だ?


「なあ、ミント。あそこに誰かが戦っているのが見えないか?」

「え?…あ、本当だ!誰だろ?」


 俺たちは、向こうで誰かが無数の黒い敵と戦っている事に気づく。その敵と戦っている人物は二人で、一人は素手で攻撃を繰り出している女性、もう一人は大剣を勢いよく振り下ろしまとめて敵をなぎ倒している男性だった。

 あの二人には見覚えがある。そう、フリントとアルベルトだ。


「あれは…俺たちの仲間だ!俺たちも早く加勢しよう!」

「うん!あたしはあそこに隠れて皆を援護するね!」


 ミントは援護に回る為、近くの建物の陰に隠れた。俺はそれを見届けると仲間の元へ急いで駆けつける。二人は戦っている様子から察するにまだ平気そうだが、あれだけの数の敵を相手にするとなるとかなりの体力を消耗しそうだ。


「――ちっ、このままじゃ埒が明かないわね。アルベルト君、まだ平気?」

「ああ、何とかな。…だがあと一人くらい戦ってくれる奴がいねーとこれ以上は厳しいかもしれないぜ」

「君の言う通りかもしれないわね…。ん?待って、後ろから誰かが来るわ」

「えっ、誰だ?まさか王子が来てくれたのか?――って、おい待てよ!あいつは…!」


 仲間の元に近寄ると、二人が俺の事に気づいてくれた。二人は俺が来たという事にとても驚いている様子だ。


「おい、ナオトじゃねーか!お前どうやってここへ来たんだ!?」

「…話は後でするよ。今はこいつ等を倒す事を優先しよう!」

「お、おう…。分かったぜ」


 俺は二人と一緒に、目の前にいる無数の黒い敵と戦う事にした。敵はどれも剣と盾を装備しており、兵士のような風貌をしている。こいつ等もイレギュラーか?


『むっ!?お前は…。ロレンツォ様が話していた、別の世界から来た者か』


 敵の一人が、俺に向けて話してきた。こいつ、ロレンツォの事を様付けで呼んだな。という事はやはりイレギュラーでほぼ確定か。


「お前、俺の事を知っているのか?」

『ああ。お前の事についてはあのお方から全て聞かせて貰っている。…だが、お前は既に戦う力を失っているはずだ。もはやお仲間の足手纏いにしかならないお前が何故ここにいる?』

「俺がここにいる理由?…そんなの簡単だよ。お前たちを倒してこの世界を救いたい。ただそれだけだ!」

『それだけの理由で無謀にも我々に挑もうというのか。所詮は子供の浅知恵だな。――いいだろう、お前たちがいくら足掻こうと無駄だという現実を思い知らせてやる!』


 そう言うと、イレギュラーが俺たちに向かって一斉に押し寄せて来た。イレギュラーの人数は40、いや50人ぐらいで数だけならばあちらの方が圧倒的に上だ。


「ナオト君、気を付けて!そいつ等は倒しても倒してもすぐ湧いてくるの。一人一人はそこまで強くないけど、まともに戦っていたらキリがないわ」

「ああ、全くキリがないぜ!俺たちはそれに悩まされていたんだ!…なあ、お前が手に入れたその力で何とかならないのか?」

「出来るかどうかは分からないけど…。でも、やってみるよ」


 俺は腰に差している剣を抜き、両手で強く握る。すると剣は金色に強く輝きだした。まるで邪気を払わんとするかのように…。


「きゃっ!何、この光!?」

『ぬぬっ…何だこの巨大な光は!』


 剣から放つ光で、敵味方問わず動揺し始める。俺はこの瞬間がチャンスだと確信し、すかさず持ってた剣を横に振った。


「はあっ!!」


 掛け声と共に剣を勢いよく振ると、そこからビームが放出された。剣を振ればビームが出てくるのは同じだが、前と違いビームの大きさが数倍に上がっている。目の前にいるイレギュラーの軍団を丸ごと包み込めそうなくらいのサイズだ。


『ぐ、ぐおっ――!?』


 巨大なビームはイレギュラー達を貫通し、それに当たった敵は一瞬のうちに消滅していく。俺が放った技一つだけで目の前のイレギュラー達を全員倒す事が出来た。


「す、すげえ…。お前、本当に『神の力』を再び手に入れたんだな。それに前よりも威力が上がってねえか?」


 アルベルトは驚いた表情を見せながらそう言ってきた。彼の言う通り、以前よりもパワーが増している気がする。これが、本物の『神の力』って奴なのだろうか…?


「…二人とも、安心するにはまだ早いわ。見て!」


 フリントがそう言った瞬間、地面からさっきのイレギュラー達が次々と湧いてきた。さっき二人が言ってた、倒しても倒してもすぐに湧いてくるとはこういう事か。確かにこれはキリがなさそうだ…。


『ぬっ、一体何が起きている?我々を一瞬にして倒すとは…。まさかお前は、再びあの力を得たというのか!?』

「…ああ、そうだ。俺はロゴスという神様からこの力を貰った。それも今度は前みたいに中途半端な力じゃない、正真正銘の『神の力』だ」

『ロゴスだと?あの人間好きの神の事か。…ふん、お前も愚かな奴だ』

「ど、どういう事だ?」

『お前もよく知っているだろう?この世界で最も醜く、滅ぼすべき存在がお前たち人間だという事を。だがロゴスとかいう神は今でも人間を愛しているとほざいているではないか。そんな神の恥とも言える奴に、何故お前は大人しく従っている?この世界をより良くする為に人間を滅ぼす、ヘレス様とロレンツォ様のお考えの方が素晴らしいというのに』

「…俺たちを滅ぼすのが素晴らしい考えなんて、そんなの間違ってる!確かに俺たち人間は醜いかもしれない、だけど全員がそうだとは限らないだろ!?」

『ふん、たかが人間の子供のくせに知ったような口を利くな!お前たちはここで我々に倒されるがいい!』


 イレギュラーの軍団がまた俺たちに向かって一斉に襲い掛かる。


「おいおい、またこっちに来たぞ!ナオト、またあの技を使って奴等を一掃できるか?」

「ああ、勿論だ!」


 俺は再び剣を両手で強く握り、ビームを出す準備に入る。――俺は負けない。例えこいつらが何回も出現してきたとしても、ここで止まる訳には行かない。俺はこいつらを倒して、先へ進むんだ!

 皆を助けに、そして騒ぎの元凶を食い止める為に――!

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