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予期せぬ来客

「――ほ、本当にそんな事が出来るのか!?」


 今のロゴスの話を聞き、俺は声を荒げながらそう言った。あの圧倒的な力が再び自分の手に入るかもしれないのだ。当然その力が手に入れるというのならば欲しいに決まってる。

 …だが、本当にそれでいいのだろうか?もし仮にロゴスから『神の力』を得られたとしても、またロレンツォの『破壊の力』によって壊されてしまう可能性は大いにあり得る。そうなったら今と同じように何も出来ず皆のお荷物になるだけだ。


「当然だよ。…うん?その様子から察するに、どうも悩んでいるみたいだね」

「ああ。本当にあんたからまた『神の力』を貰っていいのかどうか悩んでいるんだ。もう知ってるだろうけど、俺には本来生まれつき備わってる力とかは何もない。勉強も得意じゃないし、運動も割と苦手な方だ。…俺、仲間から指摘されてようやく気付いたんだよ。俺は借り物の力で粋がっていただけの卑怯者だって」

「そうか…」

「それでも、俺は戦える力が欲しい。皆の役に立ちたいんだ。イレギュラーを全滅させてこの世界が救えるのならば、俺はどんな力を手に入れても構わない。あんたから貰った『神の力』で無双出来るのも十分いい。…だけど、そんな事をしたらまた仲間から嫌われてしまうかもしれない。そう考えたら怖くなってくるんだ」

「…矛盾に苦しんでいるみたいだね。君は特別な力で皆を救いたい。だけど、皆を救ったとしても恐怖のあまりに嫌われてしまうかもしれない。君の苦しみは十分伝わってくるよ」

「分かってくれるのか?俺の気持ちを…」

「当然さ。僕は神だけど、人間の気持ちが分からないほど冷酷で無慈悲じゃない。…だからこそ、僕は君を救いたいんだ。僕は君に再び『神の力』を与えたい。僕が君に出来るのはそれだけだよ」


 ロゴス…。俺に救いを与えてくれるのか。そんな事を言われたら、彼の気持ちを無駄にする訳には行かない。だけど…。


「――さあ、選んで。君は『神の力』が欲しいかい?それとも、欲しくはないのかい?」


 ロゴスは真剣な表情で俺に選択肢を選ばせようとする。彼は本気だ。本気で俺を助けようとしている。…こうなったらもう悩んでる場合じゃない。いい加減覚悟を決めよう。


「…ロゴス。俺はあんたの力が――」


 俺がそう言いかけた、その時だった。


「――うわっ、ここどこー!?真っ暗で何も見えないよー!」


 突然、暗闇から聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。この声はまさか…。

 俺は辺りを見回すと、遠くに緑の髪の少女がいるのが見える。間違いない。あれはミントだ。


「…ごめん、ロゴス!ちょっとだけ待っててくれるか?」

「ああ、いいよ。あそこにいるのは君のお友達だろう?僕はここで待ってるから、行っておいで」


 俺はロゴスから離れ、ミントがいる所まで急いで駆け付ける。彼女の近くまで寄ると、ミントは俺の事に気づくとたちまち笑顔になり、そして強く抱きついてきた。


「ナオちゃーん!よかったぁ、急に真っ暗な所に飛ばされたから凄く怖かったんだよぉ」

「そ、そっか…。大丈夫だよ、俺がここにいるから。だからもう怖がらないでくれ」

「うん、うん!ナオちゃんがそばにいてくれるだけでもあたし、安心するよ」


 俺はミントの頭を優しく撫で、彼女を安心させる。俺がそばにいてくれるだけでも安心するという言葉を聞いて、少しだけホッとした。さっきはあんな事言ったのに、まだ俺の事を嫌っていないんだな。

 …しかし、何故ミントがここへ?ここに来れるのは俺とロゴスだけだと思っていたんだが。その事について、俺はミントに聞いてみた。


「ミント、どうしてここへ来たんだ?」

「うーんとね…。あたし、ナオちゃんが眠っているのを見ててちょっとだけ不安になったの。だからあたしがナオちゃんのそばにいようと思って、あなたの体に何気なくさわったら…。突然ここに飛ばされたんだよ」


 そういう経緯があったのか…。いや、それでも分からない事は色々とあるが。何故俺の体に触ったらこの空間に飛ばされたんだ、とか。


「…ん?あそこにいる子供って、ナオちゃんのお友達?」


 ミントが遠くにいるロゴスの存在に気づいたらしい。うーん、ここはどうするか…。とりあえず近くまで連れて行くか?ミントは俺から離れたくないみたいだし。


「ああ、そんな所かな…」

「ふーん。でもナオちゃんにあのお友達がいるなんて知らなかったよ。いるならもっと早く教えて欲しかったなぁ」

「わ、悪かったよ。…とにかく、彼に挨拶でもしていくか?」

「うんっ!いこいこ!」


 俺とミントは手を繋ぎながら、ロゴスのいる所まで歩いていく。彼のいる場所へ戻ると、ミントは興味津々にロゴスの事を見ていた。この世界だと見られないような容姿をしているし、当然の反応だろう。


「おかえり、直人。その子を連れてきたんだね?」

「ああ。ミントがあんたの事を気にしてたみたいだからな」

「そうか。…君がミントだね?初めまして、僕はロゴスって言うんだ」

「あ、初めまして!」


 二人はお互いに挨拶をする。ミントは幼い外見ながらもどこか大人びた彼に、少しだけ押されているようだった。


「ねえ、ここってどこなの?あたしね、ナオちゃんの体をさわったら突然ここに飛ばされちゃったの」

「ふむ。どうやら君は直人の意識と接続してしまったみたいだね」

「へ?イシキとセツゾク…?どういう事??」

「簡単に言うならば、直人の心の中に入り込んだって事だよ」

「えっ!?ここってナオちゃんの心の中なの!?」


 ミントはロゴスの説明を聞いて驚いていた。


「そういう事だよ。…信じられないって顔をしているね」

「そんなの当たり前でしょ!心の中に入るなんて本でも見た事がないよ!?そんなあり得ない場所でナオちゃんとお話しているあなたって…一体何者なの?」

「ふむ。僕の事が知りたいのかい?」

「うん、知りたい」

「じゃあ言うよ。――僕はこの世界の創造神、ロゴス。分かりやすく言うならばこの世界を創った神だ」


 ロゴスがそう言うと、しばらくこの空間に沈黙が流れる。そして――。


「え、えええええっ!?あなたも神様だったの!?」


 ミントが目を見開き、大きな声でそう言った。予想はしていたけれど凄い驚きっぷりだ。俺はミントの反応を見て思わず笑ってしまう。


「そうだよ。…その言い方から察するに、君はもう一人の神がいる事をご存じのようだね」

「う、うん!知ってるよ!あの黒い服を着た女の子の事だよね?何でも破壊の神様だとか…」

「正解。彼女の名前はヘレス、君が言った通り破壊を司る神だ。以前までは僕と一緒にこの世界を見守っていたんだけど、ある日突然いなくなってしまってね。だから今は、僕が一人でこの世界を眺めているという訳さ」

「そ、そうなんだ…。何だか信じられないけど、これって夢じゃないよね?今あたしが見ているのって現実なんだよね?」

「現実だよ。――そう言えば、人間は今見ている光景が夢か現実かを確認する為に頬をつねるという話を聞いた事があるけれど。何だったら今ここで試してみるかい?」

「え?い、いいよ!多分ほっぺたをつねっても痛いだけだもん!」

「はは、そうか。それならそれでいいよ。…さて、直人。あの子との会話も終えた所でそろそろ本題に戻るとしようか」

「え、本題って何だっけ…?」

「忘れたのかい?君が『神の力』を欲しいか、欲しくないのかという話についてだよ」


 いっけね、その事をすっかり忘れてた!


「ナオちゃん、何の話をしているの?あたしここに来たばかりだから分かんないよ」

「ああ、俺はついさっきまで『神の力』の事でロゴスと話をしていたんだ。何でもロゴスが、俺にまたあの力をくれるらしい」

「えっ!?あの人、そんな事が出来るの?…じゃあ、もしナオちゃんがその力をまた手に入れたら、姉ちゃんたちと一緒に戦う事が出来るって事だよね!ねえナオちゃん、早くあの人から『神の力』を貰おうよ!」


 ミントはとても嬉しそうにしながら俺にそう言ってくる。ミントは再び俺がクリム達と戦える事にとても期待しているようだ。きっと他の仲間も俺が戻って来るのを期待してくれているに違いない。だが――。


"――あんたみたいな卑怯者を冒険者にさせたのが間違いだったわっ!もうあんたは何もしないで、一生ここで寝てなさいよっ!!"


 一人だけ、はっきりと俺に失望している者もいる。それはクリムだ。クリムは俺の力が自力で手に入れた物ではないと知ると、いつも以上に激怒していた。何故彼女があそこまで怒っていたのか。それは、俺の事を密かに認めていたからだ。

 俺が魔法を取得した際、クリムは「とんでもない掘り出し物を見つけてしまった」と言っていた。だがそれは『神の力』のおかげであって、自分の力ではない。クリムはそれを知ってしまい、俺を卑怯者だと罵った訳だ。

 もし俺が再びあの力を手に入れたら、クリムは俺の事を更に嫌いになってしまうのだろうか。それだけは絶対に嫌だ。…だけど、さっきも言ったようにいつまでもこんな事で悩んでいる場合ではない。俺だって男だ、男だったらここでウジウジしないで決断をしなければ。


「直人、まだ悩んでいるのかい?時間は有限なんだ、早く決めてくれ」

「決まったよ。――ロゴス、またあの力を俺にくれないか」


 俺ははっきりとロゴスに向けてそう言った。ロゴスはそれを聞いて、安心したような表情になる。それはミントも同様だった。


「…分かった。それでいいんだね」

「ああ。もう仲間の事で悩むのは止めたよ。それよりも今はロレンツォを倒して、この騒動を収束させる事だけを考えたいんだ」

「うんうん!その方がずっと気持ちが楽になれるよ!…それで、どうやってナオちゃんにあの力を渡すの?神様」

「ここでは直接渡す事は不可能だ。ここにいる僕はあくまで残像にしか過ぎない。だから、一度直人には仮死状態になって僕のいる所へと来て貰う必要がある」

「え、ええっ…?かしじょーたいって、どういう事?」

「意識はないけれど、心臓は動き続けている状態の事だよ。大丈夫、直人が仮死になるのは少しの間だけさ。君は自分のいる場所に戻って、直人が起き上がるのを待っててくれ」

「そ、そんな事言われても…。ねえ、ナオちゃんは怖くないの?」


 ミントは俺が仮死状態になるという事に心配しているようだ。…正直、怖くないと言えば嘘になる。一度死んだ経験はあるとはいえ、やはり怖いものは怖い。人間の性という奴だ。

 だけど、ここで躊躇していたらいつまでも先に進む事は不可能。先へ進むには、この恐怖を乗り越えて先へと進むしかない。これも覚悟の一つだと思おう。


「…はっきり言えば怖いよ。だけど俺はどうしてもあの力が欲しい。その為ならば俺はどんな事でもするつもりだ」

「ナ、ナオちゃん…」

「だからミント、ロゴスに言われた通り俺の部屋で待っててくれよな。すぐに戻るからさ」


 俺はミントの頭に自分の手を乗せ、彼女を安心させる。


「う、うん…。分かったよ。ナオちゃん、絶対に戻ってきてね。約束だよっ!」

「ああ、約束だ」


 俺はミントに一言そう言うと、振り向いてロゴスの方を向く。いよいよ、再び『神の力』をロゴスから貰う時が来た。準備は万端だ。


「じゃあ、今から君を仮死状態にさせるよ。準備はいいかい?」

「いつでもどうぞ」

「よし。では――」


 ロゴスがそう言った途端、俺の意識が遠のくのを感じる。不思議とそれに怖いと感じる事はなかった。昨日もロレンツォの手によって気絶させられたから、もう慣れたのだろうか。

 やがて俺の意識は完全になくなり、何も感じなくなっていった。

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