創造神との再会
今回は久々に、あの人が登場します。
クリム達が大勢のイレギュラーと戦う前の出来事。ミントはナラから預かっていた剣を持ちながら、一目散にナオトの部屋まで向かっていた。
――これは、その時に起きた話である。
「ナオちゃーん!あのね、あなたに見せたい物があるんだよー!」
あたしはナラ姉ちゃんから貰った剣を両手で大事に抱えながら、階段を駆け上がりナオちゃんの部屋まで向かう。あたしはこの新しい剣をナオちゃんに早く見せたくて仕方がなかった。
二階に上がり、あたしはナオちゃんの部屋の扉を開ける。
「ナオちゃん、起きて…る?」
部屋に入ってナオちゃんに声をかけたけど、返事がない。…もしかして、もう寝てる?
「ナオちゃん、ナオちゃーん!起きてたら返事してよー!」
あたしはナオちゃんに何回も声をかけてみた。だけどさっきと同じく返事はなく、起き上がってくる気配もまったくない。どうやらナオちゃんはぐっすり眠っているみたい。
うぅ、残念。この剣を見たナオちゃんの驚く顔が見たかったのになぁ…。でも仕方ないよね、うん。
(とりあえず、この剣はあの机に置いとこっと)
あたしはナオちゃんを起こさないよう静かに歩き、持ってる剣を机の上にこっそり置いていく。ナオちゃんが起きた時にこの机の方を見たら、きっとビックリするだろうなぁ。そう考えたらワクワクしてきちゃった。
(…だから、今はゆっくり休んでね。ナオちゃん)
あたしは眠っているナオちゃんの顔を見ながら、心の中でそう呟いた。
「――人。藤崎直人!」
俺は自分の部屋で眠っていると、突然誰かが俺の事を呼ぶ声が聞こえてきた。ううん、一体誰だ?頼むからゆっくり寝させてくれ…。
――いや、待て。俺はこの声に聞き覚えがある。この少年のようだけど落ち着いた雰囲気のある特徴的な声。まさか?
「その声はまさか、ロゴス?ロゴスなのか?」
「直人…!良かった、返事をしたという事は君の意識に繋ぐことが出来たみたいだね」
彼がそう言った瞬間、俺の目の前に一人の少年が現れる。白い服を着た、銀髪の幼い少年。…間違いなくロゴス本人だ。
「久しぶりだね、藤崎直人」
「ロゴス…!どうしてここに来たんだ?」
俺が以前に彼と会ったのは、この世界に来たばかりの頃になる。あの時はロゴスが俺に間違って『神の力』をあげちゃったから、その力を返すよう言われたんだっけ。懐かしいなぁ。
それ以降は一度も会っていないから、ロゴスの姿を見るのは久々だ。一体俺に何の用だろう?
「うん。君に色々と話さなければならない事があるんだ。長くなるかもしれないけど、これは君にとって重要な話になる。最後まで聞いてくれるかい?」
「話?…ああ、分かったよ。どうせ今の俺にやれる事は何もないからな」
「ありがとう!じゃあ、まず一つ目。――君は以前から、黒い服を着た女の子に会っているよね?」
黒い服を着た子…。まさか、それってヘレスの事か?
「あ、ああ。ヘレスって名前の子だろ?」
「正解。…君が今言った通り、彼女の名前はヘレス。僕とは真逆の立場である、破壊を司る神だ」
――破壊を司る神。あの神父の言ってた事は全部正しかったんだな。しかし、そうなると一つだけ疑問が残る。前にロゴスが、本来神様は俺たちの住む世界へ来る訳には行かないと言っていた。でもヘレスは何度もこっちの世界へ来ている。
しかも、自分から人間に協力するという形で…。そこまでしてあの子は一体何がしたいんだ?
「元々この世界は、僕と彼女が二人で創り上げた物なんだ。僕の役割は星々や生物といった、あらゆる物を創造する事。ヘレスはその僕が生み出した物の中で、世界に悪い影響を与える可能性のある物を文字通り破壊する役割を担っているんだ」
なるほどな…。破壊神って聞くとどうしても悪そうな奴のイメージが強いけど、実際は彼女なりに世界の事を考えて動いていたと。…やってる事の規模が大きすぎて、凡人の俺には理解出来ないけれど。
「様々な生命を僕が生み出し、その中で無駄な物だけを破壊する――それが僕たちの仕事だった。途中で意見が対立し揉めてしまう事もあったけれど、それでも僕たちはこの仕事に誇りを持っていたよ。…だけどそんなある日、大きな事件が起きた」
「大きな事件?何が起きたんだ?」
「突然、ヘレスが姿を消してしまったんだよ」
す、姿を消した…?一体彼女に何があったんだ?
「ど、どういう事だ?何が原因で姿を消してしまったんだ?」
「それは分からないよ。あまりにも突然の出来事だったからね…。ヘレスは今まで自分の仕事を放棄してどこかへ行ってしまうなんて事はしなかったから、あの時は本当に心配したよ。僕も仕事を放棄して彼女の事を必死に探したくらいにね」
「それで、ヘレスはそっちに戻ってきたのか?」
「残念ながら、僕の元へ戻ってくる事は無かったよ。それでも僕は諦めず、仕事の合間に彼女を探し続けた。そして探し続けているうちに、とんでもない事実を知ってしまったんだ」
とんでもない事実?それってまさか…!
「――そう、彼女はあろうことか君たちの住む下界へと来ていたんだよ!以前君に話したけれど、本来僕らのような神は下界に降り立ってはいけない決まりがあるんだ。まさか彼女がその決まりを破ってしまうなんてね…。更にヘレスは、自分の力を人間達に与えるという事もやっていた。それについては君も良く知っているだろう?」
ヘレスの力を授けた人物…それはダミアンとロレンツォの事だろう。
「ああ、俺はそいつに会って戦った事があるからな。だけど俺の他にも『神の力』を与えられた人がいるなんてビックリしたよ」
「君がそう思うのも無理はないよ。本来僕らが持つこの力は人間に与えてはならない物だからね。当然、それは君も例外ではない」
俺も例外じゃない、か…。そりゃそうだろうな、本来だったら俺はあの力を得る事がないままこの世界に転生されるハズだったんだ。
…だけど、俺がもし『神の力』を得ないままこの世界に転生していたらどんな人生を送る事になっていたのかまったくもって想像がつかない。下手したら最初のファングというモンスターに襲われる辺りで死んでいたかもしれない。それだけ俺は今まであの力に助けられてきたんだ。
「話を戻そう。僕はヘレスを見つけた時、透かさず下界へ向かおうと思った。…だけど、僕も行けばこの世界を管理する者がいなくなってしまう。何もせず世界の監視を続けるか、それとも決まりを破ってまでヘレスを連れ戻すべきか…。どちらを選ぶべきか悩みに悩んだよ」
この世界を管理する者がいなくなってしまう、か…。そう言えば前にこんな事を言ってたな、神が席を外したら何者かが侵入してくる危険性があると。実際にそんな事をする奴がいるんだろうか?まあ用心するに越した事はないけど。
「そんな時、僕の事を呼ぶ声が聞こえたんだ。僕はひとまず考えるのを止めて声が聞こえた方へ向かったよ」
「ロゴスを呼ぶ声?それって一体――」
「それはね、君の声だったんだよ。藤崎直人」
そうだったんだ。という事は、ロゴスがあの子を追うか追わないかで迷っているタイミングで俺は死んで、あの真っ白い部屋に来たという訳か。…わざとじゃないとはいえ、何だか大変な時にあそこへ来ちゃったな俺。
「あー…。なんか、悪いな。忙しいって時にあんたを呼んじゃって」
「ううん、君が謝る必要はないよ。仕事はきちっとやらなければならないからね。――さて、二つ目の話に入ろう。二つ目は、君に渡した『神の力』の事だ」
次は『神の力』の話か…。あ、そう言えば!これだけは彼に伝えておかないと。
「なあロゴス、その力の事なんだけど…」
「分かってるよ。君は『神の力』を一人の人間の手によって壊されてしまったんだろう?」
「き、気づいていたのか?」
「当然さ。僕はずっと、君の事を監視していたからね」
さすがロゴス、俺の事は全てお見通しって訳か。にしても、俺の事をずっと監視していたって言われると何だかゾクゾクするな。今まで皆と仲良くしている所や、俺の戦いぶりを見ていたという事になるんだから。
…今振り返ると、俺はあの世界でいい生活を送れていたのだろうか。ずっと何かと戦ってばかりだった気がする。
「ん?どうしたんだい、そんな気まずそうな顔をして」
「いやいや、何でもないよ。それよりもロゴス、その『神の力』が壊されてしまったせいで俺は何も出来ない状態なんだ。おまけに今まで俺が使ってた武器もあいつに壊された。今の俺は皆のお荷物同然って訳なんだよ」
「そうか…。今の君は仲間から孤立している状態なんだね」
孤立か。確かにそうかもな…と思ったけど、まだ俺の家にはミントがいる。とはいえ、さっきはミントに当たり散らしてしまった。あれのせいで彼女からも嫌われてしまったらどうしよう…。
「…ねえ、直人。一つ君に聞きたい事があるんだ。正直な気持ちで答えてくれるかい?」
俺が悩んでいると、突然ロゴスが俺にそう言ってくる。
「急にどうしたんだ?俺に聞きたい事って」
「もし僕が、君にもう一度『神の力』を与えてあげる――と言ったらどうする?」
「ど、どういう意味だ…?」
「そのままの意味だよ。もし君が望むのであれば、僕は再び君にあの力を授けようと考えているんだ。…どうだい?」
ロゴスからの突然の提案――。それは、俺にまたあの『神の力』を与えるという事だった。本当にそんな事が出来るのか…?