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最後の準備

「…それにしても、君がまさかあの王子様に協力をお願いするなんてね。クリムちゃんも思い切った行動に出たわね」


 用事を済ませてお城から出ると、フリントがさっきの件について話をしてきた。


「全くだぜ。いくら俺たちが王子と知り合いだからとは言え、あんな事を頼むなんて俺にはとても真似できねえよ。…つーかよ、一緒に戦ってくれる仲間が欲しいならグロースにいる他の冒険者とかでもよくね?」

「彼らに言った所で、まともに聞いてくれないと思うわ。『一人の人間が破壊神から力を貰って世界を滅ぼそうとしている、だからそれを止める為に一緒に戦って欲しい』――なんて、馬鹿げたような話を信じる人は他にいると思う?」

「まぁな…。あんな小説みたいな話を聞かされてまず信じる奴はいねーわな。逆にその話を疑わずに信じる奴がいたらそれはそれで怖えわ」

「そういう事よ。…んじゃ、用事も済ませたしそろそろ神父さんのいる遺跡へ向かうわよ。皆、準備はいい?」


 あたしがそう言うと、フリントとアルベルトが黙って頷く。しかしナラだけは頷かず、目をつぶりながら何かを考えている様子だった。


「どうしたのよ、ナラ?準備は出来てるの?出来ていないの?」

「…あ、はいっ!すいませんクリムさん、少しだけ考え事をしていまして」

「考え事?」


 予想通り、ナラは考え事をしていたらしい。こんな時に一体何を考えていたのかしら?


「はい。…私、昨日から考えていたんです。今のまま神父さんに立ち向かったとしても、何も出来ないまますぐやられてしまうのではないかと」

「あ?何が言いたいんだよ?」

「ええと、つまり今からでも武器を新しく買い換えて見ませんか?という事です」


 …何かと思えば、そんな話?これから戦いに行こうって時に急過ぎるわよ、ナラ。


「武器を買い換えるって、そんなの前からちょくちょくやってるぜ?今の装備でも十分やれてるし、問題は無いだろ?」

「そうかもしれません。ですが相手はナオトさんと同じく『神の力』を持ち、そして私達を苦しめてきたイレギュラーの生みの親。これまで戦ってきたどんな敵よりも強大である事に違いありません」

「まあ、そりゃそうかもしれないけどよ…」

「ですから皆さん、武器屋に寄って強い武器を買いに行きませんか?そうすればこの後の戦いで神父さんにすぐやられてしまうという、最悪の事態は避けられるはずです」


 最悪の事態は避けられる、か。…ま、それもそうね。王子が加勢してくれる予定の昼までまだ時間はあるし、念には念を入れて最後の準備はした方が良さそう。

 あたしはナラの意見に賛成する事にした。


「いいわ、ナラ。あんたの意見に賛成してあげる。他の皆は大丈夫?」

「私は大丈夫よ。実はちょうど新しいグローブを買いたいと思っていた所なの。アルベルト君は?」

「え、俺?ええとまあ、その、あれだな…」


 アルベルトはどもるようにそう言った。何だか正直に言えないみたいだけど、どうしたのよ?


「どうかしましたか、アルベルトさん?」

「いや、実は…。俺、今そんなに金は持ってねぇんだ。高い武器を一つ買っただけでも全財産が尽きそうな感じでさ。とにかくヤベーんだよ」


 はぁ、そう言う事ね…。というか、普段どんな生活を送ってたらお金が尽きそうになるのよ?逆に気になるわ。

 あたしが呆れていると、ナラはにこやかにこう言い放った。


「それなら心配はいりませんよ、アルベルトさん!私達がお金を貸してあげますから。…それでいいですよね、皆さん?」


 ちょっ、また急に何を言い出すのよ!?あんなお金の管理も出来ないような奴の為にお金を貸すとか絶対に嫌よ、あたし!


「私は構わないわよ、ナラちゃん。君がいつも言ってる『困った時はお互いに助け合う』って言葉。これってこういう時にも使うのよね?」

「はい、勿論です♪」


 うわ、出たわねその言葉…。確かに助け合いは大事だけど、だからといって何でもかんでもやればいいってもんじゃないわよ。

 というかマズいわね、フリントが乗り気のようだしナラの案に反対しているのはあたし一人だけだわ。やるかやらないかで揉めてたら時間が無駄になるし…。こうなったらしょうがないわ。


「クリムちゃんはどうするの?アルベルト君の為にお金を貸す?」

「…分かったわ。ここで迷っていても何も進まないし、あたしもお金を貸してあげるわ。アルベルト、ありがたく思いなさいよ?」

「おお、クリムも俺に金をくれるのか!サンキュー、助かったぜ」

「これで決まりましたね。それでは、武器屋に行きましょう!」


 そんなワケで、あたし達は武器屋へと急遽向かう事になった。本当はこの町にある武器屋に寄りたかったけど、まだそこは営業を再開していなかったみたいなので一度自分の町に戻る事にした。

 トレラントの武器屋に到着すると、あたし達は各自分かれて自分の購入したい武器を探しに行く。あたしは魔術師なので、杖が置いてある場所へ向かう。


(えーと、確か杖が置いてある所は…あ、ここね!)


 あたしは杖がたくさん並んである場所を見つけ、そこから一番良さげな物を探し出す。探す時のポイントはとにかく値段が高く、そして使われている素材が豪華である事。

 で、この店にある一番高い杖は…げっ!


(うわっ、この杖の値段ヤバすぎじゃない!?)


 あたしは一番値段が高い杖を見ながら心の中で叫ぶ。杖の先端がクリスタルで出来ているとても綺麗な物だ。ある程度覚悟していたとはいえ、こんなに高い価格なんてね…。

 だけど、世界を救う為ならここで戸惑わない方がいいわね。しばらく不便な生活を送る事になるかもしれないけど、我慢我慢。あたしはそう決心し、一番値段が高い杖を取りそれを購入する事にした。


(ふぅ、何とか購入する事は出来たわね…。他の皆はもう買えたのかしら?)


 あたしは新しい杖を購入すると、皆を探しに店内を歩き回る。


(…あら、あそこにいるのはナラじゃない)


 店の中を歩いていると、剣を選んでいる様子のナラを見つけた。…とは言っても、彼女が探しているのは大剣ではなくナオトが使ってた普通の剣の方。

 あいつ、一体あそこで何をしているつもりなのかしら?


「ナラ、そこにはあんたの使ってる武器は売ってないわよ。何やってるの?」


 あたしはナラに声をかけると、ナラはあたしの顔を見るなり慌てたような反応を取る。


「は、はわわっ!すいませんクリムさん、私とした事がうっかり…」

「何よ、そんなに慌てちゃって。ここで何をしているの?って聞いただけなんだけど」

「えっと、その…。ナオトさんの新しい剣もここで買っておこうかと考えておりまして」

「はぁ?」


 あたしはナラの発言を聞いて困惑した。あんた、何を考えているの?あいつはもう戦う事は出来ないのよ。それにただでさえお金が減ってきているんだから、無駄遣いはなるべくしないで。


「あんたね…。この期に及んであいつの武器を買おうだなんて何を考えてるワケ?何度も言うけど、今のあいつに戦える力は一つも残っていないわ。そんなのを買ったところでお金の無駄になるだけよ」

「いいえ、そんな事はありません!」


 ナラは突然、大きな声であたしにそう言い返す。ちょっと、ここは店内だからあまり大きな声出さないでよ…!


「私、信じているんです。ナオトさんが再び立ち上がり、私達と一緒に戦ってくれる事を。ナオトさんは今までどんな過酷な状況でも、決して諦めたりはせず無事にやり遂げてくれました」

「それはあいつに『神の力』があったからでしょ。それを失ってしまった今、あいつはもうお荷物同然よ。あんたもいい加減認めなさいよ」

「確かにクリムさんの言う通りかもしれませんが…それでも私はナオトさんの事を絶対に諦めたり、嫌いになりたくないんです。…だって、ナオトさんは私達の大切な仲間で、大切な友達じゃないですか」

「…」


 ナラにそう言われて、あたしは何も言えなかった。お人好しにも程があるわよ…。


「二人とも、何しているの?こんな時に揉め事は良くないわよ」


 あたしがナラと言い合っていると、後ろからフリントがやってきた。両手には頑丈そうなグローブを抱えている。どうやらフリントも自分の武器を選んできたみたいね。


「あっ、フリントさん!ごめんなさい、今のは私のせいでこうなってしまったんです」

「ううん、君が謝らなくても大丈夫よ。ナラちゃんはナオト君の為に新しい剣を買おうとしていたんでしょ?」

「は、はい。もしナオトさんが再び戦う力を手に入れた時の為に、と思って」

「…ふふっ、君は本当にいい子ね。ナオト君もきっと喜んでくれるわよ」


 フリントは微笑むと、片手を使いナラの頭をそっと撫でる。ナラは照れ臭そうに顔を赤くしながら笑っていた。

 それを見て、あたしは何とも言えない孤独感に苛まれた。…どうして。どうして皆は、未だにあいつの事を優しく接しようとするの?相手は異世界からやって来た得体の知れない人間なのに。今まで自分の力で戦っていなかった卑怯者も同然な奴なのに。

 ――分からない。皆の考えている事があたしにはさっぱり分からない。


「クリムちゃん、君の言いたい事も十分理解出来るわ。だけどあまり後ろ向きに考え過ぎるのは良くないわよ?生きていくうえで大切なのはどんな時でも常に前向きに、そして楽しく考える事よ」

「…」


 あたしはまた何も言えず、ただ黙り込んでいた。


「――とにかく、この話はこれでおしまい。ナラちゃんも早く武器を選んで買いに行きましょ?」

「はい♪」


 ナラは嬉しそうな声を出しながら、再び買いたい武器を選びに向かう。そんな楽し気な様子の彼女を見ながら、あたしは一足先にこの店を後にした。

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