協力
「――そう。ミントはあいつと一緒にいたいって言ったのね?」
「ええ、そうよ。あの子はナオト君の事が誰よりも好きみたいだからね。彼を放っておけない、という気持ちが強かったんだと思うわ」
出かける直前、フリントはあたしにそう言った。どうやらミントはあたし達に同行せず、家に残るつもりらしい。
まったく、この期に及んであいつは何を考えているのかしら?どこの世界から来たのか分からない、更に他人から貰った力を使って強敵達を次々となぎ倒していく…。あんな得体の知れない奴と一緒に残りたいだなんて、お人好しにも程があるわ。
「はっ、本当に意味が分からないわ。どうしてミントはあんな奴を放っておけないの?あんなザマでもまだ運命の王子様だって思い込んでるワケ?」
「まあまあ、あいつにはあいつなりの考えがあるってもんだ。お前が今ナオトの事を憎んでいるように、ミントは今のナオトを安心させたいという考えがあるんだろ」
「安心させたい、ね…」
一人一人に違った考えがある。それはあたしもよく分かっている事だ。…だからこそ、ミントの気持ちは今のあたしには理解出来ない。
いや、皆の気持ちも今のあたしには理解出来なかった。ナオトの正体を知っても尚、あいつに優しく接しようとする。この中であいつに優しくするつもりはないと考えているのはあたし一人だけ。…まるで、あたしだけ孤立しているような気分。
「…えっと、ナオトさんの事を考えるのはそろそろやめましょう?それよりも今は神父さんを止める事が最優先です」
「それが一番だぜ。でもそいつの所へ行く前に、寄っていかなければならない場所があるって昨日言ってなかったか?」
「ええ。フェスティにいる王子に会って、神父さんが見つかった事を報告しに行くわ。新しい情報を見つけたら報告するって約束してたしね。…それと、彼に頼みたい事が一つだけあるの」
「頼みたい事?なんだそりゃ?」
「それについては後で話すわ。じゃ、さっさとお城へ行くわよ」
あたしはワープを使い、皆を連れてフェスティにあるお城へと向かった。…こんな時の為に予め取得しておいて正解だったわね。
「やあ、君たちか。ここへ来てくれたという事は、何か新しい情報を手に入れたのかい?」
お城へ着くと、ちょうど大広間の方でシャルル王子と出会う。王子はあたし達に気づくと明るく挨拶をしてくれた。もうすっかり友達みたいな関係ね。
「ええ。でもそれだけじゃないわ、あたし達はようやく神父に会う事が出来たのよ」
「何、それは本当かい!?詳しく聞かせてくれないか?」
「いいわ。…だけどここで話をするよりも、あなたの部屋に行ってゆっくり話をしたいわ」
「ああ、そうだな。この大広間だと周りに迷惑がかかるし…。それじゃあ、私についてきてくれ」
あたし達は王子についていき、彼の部屋まで歩いていく。ちなみに前に出会ったあのお姫様は昨日から用事で外に出かけているとの事。彼女に会えないのはちょっと残念ね…。
部屋に着くとあたし達と王子はソファーに座って話を始めた。
「本題に入る前に、一つだけ聞いてもいいかい?今日はナオトともう一人、緑の髪の女の子がいないようだが…」
「二人はその、色々事情がありまして…。その件についてもまとめてお話をしますね」
「そうか、分かったよ。では、君たちが集めてきた情報について全部話をしてくれ」
「ええ。まずは神父さんの事なんだけど――」
あたし達はシャルル王子に、これまでの出来事を全て話した。あたし達が話をする度に王子は驚いた反応を取る。
「うーむ、色々と驚く点が多すぎて流石の私でも頭が追いつかないぞ…。君たちが探していた神父がこの事件を裏から操っていただけでも驚きだが、彼が破壊神と出会って力を得ていたとは」
「まあ、驚くのも無理はないっすよ。正直俺たちも未だに頭の中が整理出来ていないんで」
「うんうん。それにナオト君まで神様と出会って力を手に入れていたのにも驚いたわ。それどころか、まさかナオト君が別の世界から来た人だったなんて!私的にはこれが一番驚いたわよ」
「そうだな。初めて彼に会った時からただの少年ではないと思っていたが、予想の斜め上だったよ。…だけど、それを知って不思議と納得もした。ナオトがあそこまで強いのは『神の力』をその身に宿していたからなんだな」
「そうね。聞いててバカバカしいと思うでしょ?ナオトは今まで自分の力で敵に勝った事は殆ど無かったってワケよ。もしあいつがうっかり『神の力』を手に入れる事がないままこの世界に来たら、間違いなく足手まといになっていたでしょうね。…はぁ」
あたしは王子の目の前で思わずため息を漏らす。…あたしとした事が、失礼な事をしちゃったわ。ここは感情を抑えないと。
「…クリムさん、そこまでナオトさんを責める事はないですよ?例えナオトさんが自分の力で戦っていなかったとしても、彼なりに頑張っていたのは事実ですから」
「そうだぜ、クリム。お前の気持ちは分かるけど、少しはあいつに感謝しようぜ。ナオトのおかげで俺たちは無事に生きているんだからよ」
二人がナオトの事を擁護してくる。ちっ、うるさいわね…。どうしてあたしの仲間はあんなインチキ野郎を庇おうとしているのかしら。それとも一人であいつを責め続けるあたしだけがおかしいって言うの?
「とにかく…。その神父は今も遺跡に身を潜めているのか?」
「はい。あの人が去る前にこう言ってました、『明日またここでお会いしましょう』って。今私達がこうしてお話をしている間にも、既に待っているんだと思います」
「なるほど。見つかった所で逃げも隠れもしないという訳か…。君たちはこの後、また彼のいる遺跡まで向かうんだろう?」
「もちろんよ。だけど、今のあたし達の戦力は格段に下がっているわ。あの二人が一緒に戦えない以上、このまま向かった所で勝てる見込みは無いかもしれない…。そこで、あなたにお願いがあるの」
「お願い、とは?」
さっきあたしがお城へ向かう前に、皆に言った『頼みたい事』。それについて話す時が来た。
「シャルル王子。あたし達と一緒に戦って頂きたいの」
あたしがそう言った途端、皆が一斉に驚いた。…無理も無いわね、いきなりこんな事を言いだしたら。ただの庶民にしか過ぎないあたしが一国の王子様に向かってこんな事を言うなんて無礼かもしれない。
だけど、王子はあたし達と一緒に神父さんを止めると約束してくれた。だからきっと…!
「…構わないよ。神父を止める事によってこの騒動が収まるのであれば、私はどんな協力も惜しまない。君たちと共に戦おう」
王子はしばらく黙っていたが、やがてあたし達に向けてそう言ってくる。それを聞いて、あたしは嬉しいという気持ちでいっぱいになった。共に戦ってくれる仲間がいる。それが何よりも嬉しかった。
「ありがとう、シャルル王子!あなたが一緒に来てくれるだけでも心強いわ」
「どういたしまして。…では、早速父上にこの件を伝えに行ってくるよ。ただ少しだけ時間がかかるかもしれない。早くても、準備を済ませるのは昼頃になるかもしれないが…。とにかく、君たちは先に神父のいる遺跡へ向かってくれ」
「分かったわ。じゃ、また後で会いましょうね!」
「ああ、約束だ」
話が終わり、あたし達は王子と一旦別れる事になった。これであたしがやりたい事の目的は果たせた。後は彼が約束通り、戦いに来てくれる事を祈るしかないわね。
更新が遅くなってしまい、大変申し訳ありません…。